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ヒトリ/棘ノ道(86頁)
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◆ ◆ ◆
駅はすでに通勤ラッシュが始まっていた。
前日にどんなことが起きようと、朝になれば駅に集まってくる人間というものは不思議だものだな、と思う。
痛みを引きずり、ぎこちなく歩く俺を、サラリーマンや学生たちが邪魔臭そうに追い抜かしていく。
何人かと肩もぶつかったが、相手は俺の顔を見ただけで、何も言わずに通り過ぎていく。
早く帰りたいのに、大量の人間を前にまた吐き気がした。
足音、話し声、服や荷物が擦れ合う音。
その全てがうねりとなって、俺の意識をぐらぐらと揺さぶる。
思わず、口元を押さえた。
そのときだった。
「――ま……ちゃんはさ、やっぱり、……が、……だ、……った、の?」
聞こえた。
途切れ途切れだが、確かに聞こえた。
声のした方に振り返ると、あいつがいた。
「ううん。ヒーさんほどじゃないです」
「えー、そっか。ボク、そんなにサバンナの大草原っぽい?」
「はい。とっても」
改札から、響と塩田まほが出てきた。
二人は当然のように横にならんで、俺のすぐ脇をすり抜けて行った。
楽しそうに。
笑いながら。
大勢の人の波の中、彼は俺に気づかなかった。
そのTシャツの背にプリントされたリアルなシマウマだけが、こちらを見つめている。
哀れむように。
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