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――『話したいことがあるんだけど』
と、響が電話をかけてきたのは昨夜のことだった。課題のレポートについてだと思いこんだ俺は適当に相づちを打った。
〆切までだいぶ日数があったからである。
挙げ句、「明日、大学で聞く」などと悠長なことを言ってしまったのだ。
次の日、学生食堂にあらわれた彼はいつになく神妙な面持ちだった。
いつも血色の良い頬は青白く、やつれたように見えた。
焦げ茶色の髪はボサボサ。左耳の近くに寝癖までついている。
レポートのことではないとすぐにピンときた。課題のことでそこまで神経をすり減らす響ではない。
ならば、月末の給料日まで金を貸してほしいという申し出だろう。
いつものように最初は冷たくあしらって――などと、脳内でプランを組み立てる。
そんなとき、響はそっと口を開いた。
「実は……、バイト先の女の子に告白されちゃってさ」
一瞬、何と言われているのか理解できなかった。
「今までまぁまぁ仲良くしてた子なんだけど」
まばたきする度、視界が狭まるようだった。
暑くもないのに汗がふきだす。
「ああっ、違うよ! ボク、ぜんぜんそういうつもり無くて。バイト以外で会ったこと一回もないし。びっくりしちゃってさあ、なんなんだろーねぇ、もぉー! まいっちゃうなあ!」
俺は、しばらく呼吸を忘れた。
こんな日が来るなんて少しも予想していなかったから。
自信があったのだ。
響には絶対に女が寄り付かないと思い込んでいたのだ。
よく考えてみれば甘い考えだった。モテそうな片鱗はあることにはあるのに――。
正義感のある凛とした眉。
黒目がちで、輝きの褪せない瞳。
スッと高い鼻。
横に広くて薄い唇。その間からのぞく前歯は、まるで小動物のような愛嬌がある。
――物好きな人間は、うっかり恋に落ちるかもしれない。
あくまで“俺の”色眼鏡で見ればの話だが。
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