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「なに怒ってるの?」
「お前が……、ちゃんとしてないからだ」
――ここから逃げ出したかった。
左目の奥がズキズキと痛む。
手を当ててみると、余計なものが流れてしまいそうだった。慌てて天井をあおぐ。
――逃げたい。
「やっぱ、もっとよく考えなきゃダメだったかな……」
「当然だ」
「そっかあ、そうだよね。ごめん」
――俺に謝ったところでなにも変わりはしない。
それからは互いに黙りこくったまま、時間が過ぎた。
やがて講義開始の時刻になったので、冷め切ったココアを飲み干し、飛び出すように食堂を去った。
ひな壇式の大講義室に入ると、響は当然のように隣に座る。
俺は黙ったままでいた。
数分遅れで教授がやってきてテキストを開く。
すると彼は俺の機嫌をなおそうとちょっかいを出してきた。肘で脇腹を小突いてきたり、テキストに落書きしてきたり、ヒソヒソと何やら話しかけてきたり。
当然、すべて無視した。
しばらくして、飽きたらしい。退屈そうに頬杖をついたと思えば、すぐにこっくりこっくりと舟を漕ぎだす。
その姿を横目に見ながら、ノートをとりつづけた。
前期試験が近づいてきている。教授の無駄話が多かった講義も遅れを取り戻そうと、驚くほどのスピードで進む。
一瞬でも意識を失えば乗り遅れて、取り返しがつかなくなるだろう。
響が泣きついてきたらすぐに貸してやれるように、なるべく分かりやすく整理し、書き込んでいく。
内容に集中しているはずなのに、ふとした瞬間に力が入る。シャープペンの芯が何度も折れた。
その度に心の中で舌を打つ。
講義は待ってくれない。みるみるうちに進んでいく。
彼の落書き(毛虫のような謎の生物)は残したまま、ページをめくった。
頭の中は真っ白だった。
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