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瑶と正木「珈琲」
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「ほんとのことって、何さ。まるで僕が嘘ついてるみたいに」
瑶は父である正木に抗議した。
「嘘とは言わないよ。言えないことや言いたくないこともあるだろうし」
正木は寛大さを見せた。
正木は、赤い琺瑯のコーヒーポットをガスコンロにかけてから、洗面所に消えた。
瑶は、潤のことを考えた。
何度も反芻するように考えた。
「やっぱり、好きかも」
瑶は、戻ってきた正木に、熟考の末の結果を告げた。
「なにが?」
洗面所で顔を洗って、キッチンに戻ってきたらしき正木が、戸棚から、カップとインスタントコーヒーを出しながら聞いた。
「友達のこと」
瑶が、言うと、
「だろうな」
と、正木は、インスタントコーヒーの蓋を開けて、カップに粉を入れながら答えた。
「うん。たぶん」
正木がカタカタと音をたてはじめたコーヒーポットの火を消した。
「ねえ、だから、来週、連れてきてもいいでしょ?」
瑶は、コポコポとカップにお湯が入るのを見ていた。
コーヒーの香りで洋講堂を思い出した。
懐かしいな、潤と初めて口をきいた場所。
「いいけど、あまり、おおっぴらにやるのは、やめてくれよ。こっちが恥ずかしくなるようなことは、してくれるなよ。だからと言って、よそでやられるのも困るけど」
「そんなこと、しないよ! ただ、普通に勉強とか話とかしたいだけ」
「瑶が、しないっていったって向こうは、するだろ」
「なんでわかるの?」
「そういうタイプだろ。瑶がそそのかされる相手なんて」
図星だった。
「モテるんだよ」
瑶は、潤をかばうつもりで言った。
「瑶が?」
「違うよ! 僕じゃなくて、潤が!」
「男に?」
「みんなにだよ。すっごい美形だから。びっくりしないでよね!」
「だいぶ、ほれこんでるな」
正木がニヤニヤした。
「惚れないでよね」
瑶は釘をさした。
「なに言ってんだか」
正木は、鼻でせせら笑って、カップに口をつけた。
「あちっ!」
「ばっかじゃないの? 自分の猫舌をいまだに把握してないなんて」
「瑶だってそうじゃないか」
「年数が違うじゃないか」
「用心してないと、やけどするんだからね」
「なんの話だよ、いっちょまえに。恋愛のことか?」
正木が笑った。
「そうだよ。そんな、コーヒーでやけどしてるような人なんて、潤にあったら大変なんだから!」
「へーえ。それで、瑶は、大変なことになっちゃったわけか」
「そうだよ?」
「それは、災難だったねえ。瑶の初恋の人が男か」
正木は、また吹き出して笑った。
「あのねえ、男とか言ってそんな風に余裕で笑ってるけどね、僕だって、最初は、そうだったんだから! まさかって」
「はいはい。大変だったねえ」
「そうなんだよ。すっごい美人なんだから。父さんにも母さんにも見せられないくらい。だって、好きになっちゃったら困るもん」
「あっそう」
正木は、笑った。
「えらい惚れっぷりだなあ」
「あのね、笑ってるけど、ほんとにそうなんだから」
「恋は盲目だなぁ。自分の好きな相手は、とてつもなく美人に思うんだよ。そんな、鼻垂れ男子高校生に、なんで俺なんかが」
「まあ、せいぜい、今のうちに、言ってればいいよ。後であわてたって知らないからね」
「はいはい。なんか勘違いしてるようだけど、別に俺は、お前と違って、男なんて好きじゃないからな?」
「へえー。じゃあ、高校生の時の話はなに?」
「あれは、無理やりされた話だろう! まったく、話を聞いてないな、瑶は。あんな話するんじゃなかった。瑶といっしょにするな。俺のは、お前みたいに、彼氏との楽しい思い出とかじゃないの! わかったか?」
「ふうん」
「まったく勘違いしやがって。なんで俺が、そんな、まったく」
正木は、ぷんぷんしながら、カップを片手に部屋に戻って行った。
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