アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
【八章】潤と譲と夏目「病室へ」
-
この章は、潤と譲と夏目の三人の物語です。
《登場人物》
大洗潤(じゅん、高校生)
大洗譲(じょう、潤の長兄で正確には従兄、大学生)
夏目隼人(はやと、譲の彼氏、医師)
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
潤たちは、とうとう叔父の病室の前に到着した。ふいに潤は不安になった。
兄と、兄の恋人の医師と、病棟の長い廊下を、ここまで歩いてきて、急に怖くなった。
扉の向こうに、自分が傷つけた叔父がいるのだ。
「どうした?」
譲が潤の顔色を見てたずねた。潤は尻込みした。
「今さら逃げるなよ」
譲が言った。
「夏目先生」
潤は、夏目の手を握った。
「何すんだよ潤、セクハラするな」
譲がとがめた。
「どうしたの?」
夏目が心配そうに潤の顔色をうかがった。
「助けて」
潤は小声で、そんな夏目に訴えた。
「気をつけて。そんな顔して、そいつ凶暴だから」
兄の譲が、夏目に注意をうながした。
「そんなことないよね?」
夏目は、社交辞令かもしれないが否定してくれたので、潤は嬉しかった。
「生きてるの?」
潤は聞いた。
「生きてなきゃ病院にいないって」
譲が即座にこたえた。
「怒られちゃう」
潤は、泣きたくなった。
「お仕置きされちゃう」
「お仕置き好きなくせに」
譲が言った。
「怒ってる?」
潤は誰にともなく聞いた。
「何を?」
夏目がきき返した。
「僕のこと怒ってると思うんです」
潤はこたえた。
「お父さんが?」
夏目がきいた。
「えっ……」
潤は驚いた。
「違う、潤にとっては、叔父なんだよ」
譲があわてて夏目に説明した。
「あれ? 養子じゃないの?」
「違うんだ」
「最初、弟って紹介されたから」
「潤は親父の養子には、なっていないんだよ。だから潤は、俺の親父のことを、ずっと叔父様って呼んでるんだ。それが、正確には、潤は弟じゃないって意味なんだ」
「ふうん」
「僕、捨てられるかもしれません」
潤は、震え声で、なおも夏目に訴えた。
「何さっきから、わけわからないこと言ってるんだよ、潤は」
譲がたしなめた。
「怖い……」
潤はつないだ夏目の手をぎゅっと握りしめた。
「潤君、大丈夫? 混乱してるみたいだけど」
夏目が心配そうに潤の顔をのぞきこんだ。
「捨てられるかも……」
「何言ってんだよ。誰も潤を捨てたりしないし。全くわけわからないんだよ。潤って、時々こうなるんだ」
譲が説明した。
「何かの後遺症?」
夏目がきいた。
「そうかも」
譲が言葉を濁した。
「もう、いいから行こうぜ」
譲がドアを開けた。潤は、ひっと声をあげて、夏目に抱きついた。
「おい、だからそうやって人をたらしこむなよ」
譲が潤の肩を引っ張った。
「そんなんじゃないよね?」
夏目が潤をかばった。
「いいにおい」
潤は言った。
「え?」
「夏目先生、もし僕が捨てられたら、僕のこと世話してくれる?」
「誰に捨てられるの?」
「潤の言うことなんて、意味不明なんだから、真面目に聞かなくていいよ」
譲が急かした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
164 / 252