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きみの背中 2
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広くて大きい背中には、無数の古い傷痕。
遠目にわかるくらいはっきり残っていて、痛々しい。
「せんせー……」
つい、本当に体が吸い込まれるようにゆっくりと、せんせーに近付いた。
多分、こーゆーのは突っ込まない方がいいんだろう。本人のためにも。
けれど。
『ああ、君は、ぼくだけの───』
男の声が頭を過り、誰に重ねる訳じゃないけど、放っては置けなかった。
せんせーがビックリしたように振り返り、いつもの調子でふっとわらった。
「なんだよ。お前が早くから来るなんて。だから雨降ってんじゃねぇの?ほら、タオル」
「……ありがとう」
ぽいっと投げられたタオルをキャッチすると、せんせーはもう新しいシャツを着て背中を隠していた。
「ねぇ」
近付き静かに声をかけると、無言で目を向けられた。
「せんせーの家ってさ、愛妻家で有明なんだってこの間友達に聞いたんだけど、その、背中の傷ってどう見てもDVだよね……?」
こんなときでも、わらった顔を作ってしまうのはオレの悪い癖。
でも、口にしながら胸が痛んだのは、本当なんだよ。
「さぁ?」
短く切られ、冷たい表情に言葉がつまった。
ああ、突っ込んじゃいけないよな。普通。
誰にだって詮索されたくない過去のひとつやふたつあるもんだし。
ましてや年下のオレにそんなの聞かれたくないよね。無神経すぎた。
「ごめん…」
でも、なぜか。日曜日見た冷たい横顔が頭をよぎって、止まらない。
背中に、そっと触れる。
「もう、痛くないの?」
せんせーを見上げると、目を見開かれた。
「痛くねぇよ。何年も前のことだ」
「あはは。そうだね……。でも、早く傷が癒えるといいのにね」
こんなの、本当にオレらしくないけど、せんせーの冷たい瞳が、とても痛々しくて、悲しいんだ。
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