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後戻り 3
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「え。あ、親戚がいらしてたんですね。すみません。ちょっと今日は酔いすぎてしまったようなので失礼します。ルリ、ごめんね」
せんせーの威圧に圧倒されたのか、鈴木さんは酔いが冷めたように焦って引き攣った笑いを浮かべ、オレから離れた。
そのままへこへこと謝り、ささっとお会計を済ませて帰っていった。
まぁ、さすがにオレが女だとしたらかなりまずいことをしたと自覚したらしい。
鈴木さんを見送ると、一応お礼を言おうとせんせーの所に行った。
「ごめんねー、せん…千さん。あの人普通にいい人なんだけど酔うとちょっとねー。たすかったよー」
せんせーと呼びそうになり、慌てて言い直す。
せんせーはいつものように不敵に笑いタバコを灰皿に揉み消した。
「なに?お前はあーゆーの引き寄せる性質もってんの?」
くっそう。男らしく見えないこと気にしてるんだからな。
でも、せんせーのこの意地悪な笑い方、嫌いじゃない。
「ね、千。そろそろ出よう?」
甘えるようにくいっとせんせーの袖を女性が引っ張った。
「あ……お会計ですか?」
ああ。いやだ。この訳のわからないもやもやも。
引き止めることもできないで笑えてしまうオレ自身も。
「いや、今日は蒼羽と来てるから今度な」
…せんせーのこんな一言に、ほっとしてしまうのも。
「ええ?いいじゃない。ご友人って男性でしょう?」
あからさまに拗ねる女性にせんせーは「しつこい女は嫌いなの。今度な」と軽くあしらう。
しつこい女って……。
「もう!じゃあ今度必ず連絡してよ!またね!」
可愛らしく頬を膨らませて、メモを少し強引にせんせーに渡すと、そのままお会計!と怒った声で呼ばれた。
せんせーはその後ろ姿を冷めた目で見ながら、彼女が店を後にするのを確認すると、メモをビリビリと破り始めた。
「うわー。千さんそれはひどーい。ひくー」
「個人情報は細かくして捨てんの常識だろ。そのまま捨てるよりよっぽど親切だっての」
まぁ、どうせ捨てるなら、そうなんだろうけど。なんだかなぁ。
「あの人と、今日帰るのかと思った」
思わずこぼれた言葉にせんせーは、鼻で笑う。
「冗談だろ?遊ぶならもっと頭のよさそーなのと遊ぶわ。しつこそうだろ、どう見ても」
とことん、冷めた目。この人は本当に人を愛したことがないのだろう。
そう思うと、さっきまであの女の人とどうこうなってほしく無いとか勝手なことを思ってはずなのに、ぎゅっと切ない気持ちになる。
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