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京都にて / 三十三間堂 1
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「どっち回りでいく?」
セーターを着ながら衛が言うのでバスのことだとわかった。大阪ほど頻度は高くなかったが年に1度くらいは京都でも仕事があったのでまったく知らない土地ではない。とはいえ実際出張にでていたのは断然衛のほうが多かった。ほら、俺スーパーサブだったからね、留守番部隊だったし。
札幌から着てきたコートはクローゼットに入ったままだ。別に厚着に見えないし、もっと着込んでいる観光客が大勢いる。外を歩く人の大部分が「寒い」と言っている中、額に汗して歩いていたら変人だと思われる(薄着過ぎても思われてしまうのだが。)
衛は薄くても温かいが売り文句のインナーの上にセーター。かなりザックリ編まれたセーターで、所々失敗ですか?とゲージが飛んでいるデザイン。俺には絶対チョイスできない類のものだ。ホワイトグレーがよくお似合いです。
俺は対抗心に燃えツイードのジャケットを着ることにした。両胸にボタン付きのポケットがついたチェック。ちょいとイギリス的なクラシックなタイプです。
二人で一つのキャリーだったので、お互いの服装が被らないように俺が吟味した。衛は「別にいいだろう、セーターとセーターが横並びに歩いていても勘ぐる人間はいないぞ。」と言った。確かに道はセーターが沢山だろう。ダウンやコートも沢山いるはずだ。でもなんていうのかな、俺の気持ちの問題?
同じアイテムだってだけで気恥ずかしいじゃないか。ということで、今回二人は何を着ても被らないチョイスになっている。
あ、どっち回りでいくかって話だった。
「駅に出て乗り換えたら、三十三間堂すぐだったよな。」
「こっからだと乗り換えずにいけるぞ。」
四条烏丸から祇園~八坂神社、そして清水さんいってから~の三十三間堂ルートね。
「乗り換えなしで座っていけるほうがいいか。」
「じゃあ、そうしよう。」
しかし・・・それが甘かった。
何でこんなに人がいるんだ!
関空から京都に向かう間、初日はなにもできないから翌日の三十三間堂に行くことは決まっていた。三十三間堂いって、目の前のバスにのって清水さんで降りて。参道を冷やかして下ってくれば八坂神社。ちょっと歩けば祇園だし、もう少し歩けば河原町。そんな散策でいいんじゃないの?時間があるようなら他行ってもいいしね・・・という漠然とした計画しか立てていなかった。
ミネと正明よりずっとましだと思う。だってあの二人「お箸屋さん」しか目的地ないし、どこら辺なの?ときいてもミネは「全然地理的に想像つかなくてさ、なんとかなるっしょ。」と相変わらずだった。たぶん正明が調べてナビをする羽目になるだろう。
しかしミネの事を笑っている場合ではなかった・・・。
やってきたバスがパンパンだったからだ。
「滅茶混みだけど・・・。」
「まだ9:00だぞ?」
そうはいっても仕方がない。バスに乗り込み通路にたってバーを掴む。でかいスーツケースに座っている人やベビーカーも。そしてそこはインターナショナルな空間だった。
「ここ三井アウトレット状態だな。」
「ああ。」
俺よりも背が高い衛は風通しがよさそうだ。俺もそれほどひどくはないけど、華奢な人やチビッコは大変だろうな、これ。河原町でさらにムギュウ、祇園でさらにムギュウ。
どうなるの!これどうするの!
とはいえ乗ってしまったものは仕方がない・・・。よかったよ、札幌仕様の防寒じゃなくて。絶対汗だくだったはずだ。これ皆三十三間堂に行くわけ?あそこは静かに時間を過ごすところだし、お土産だってこじんまりとしたアイテムしかない。そんなに千手観音が見たいのかな?
しかしこのバスに乗る人達の目的地は「清水さん」だった。八坂神社~五条坂のバス停でゾクゾクと人が降りていく。「キヨミズ?」「キヨミズ、OK?」と運転手さんに聞きながら。五条坂を過ぎたらバスはガラガラになった。
「ふう・・・どうなるかと思った。」
「すごいな清水人気。」
「こんな時間からこの状態ってことはさ、清水寺はピーク時大変なことになっているってことじゃない?」
「だろうな・・・。」
「祇園も河原町も人の数多かった。」
「これから・・・もっと増えるだろうな。」
俺としては清水さんからのブラリ散歩ルートはここで諦めた。あんなに人がいたら散策というより人の間を縫っての移動でしかない。さすが京都とはいえ、春節は外すべきだったか・・・。
「春節の時期か。」
「今俺も同じこと考えていた。次はあれだね、ミネに言って計画を持って休みを取ろうって言おうよ。チケットだって安くとれるし、全員の旅になった場合特にね。」
「全員の旅。俺達は京都に来ているけど、トアは何しているんだろうな。」
うわ!衛、それを言うのか?俺ずっと言わないようにしていたのに!
「・・・映画館?かな。」
「普通に考えたらそうだよな。坂口さんの休みは月曜だろ?じゃあ、今日は出勤しているし。」
「お土産買っていこうよ。」
「ちりめん山椒と福寿園の梅昆布茶でいいだろう。」
「衛・・・それって充さんへの鉄板土産と同じじゃん。」
衛はふふふと笑った。あ~ええと、外でね、そういう顔しないでくれますか?ここは外出先です!
思ったんだけど、外国の方達って盗み見るとかチラ見するっている見方をしないよね。まさしくガン見するよね?だからさ、衛がいちいち見られていて俺としてはあんまり面白くないのです。
『次の停留所は博物館・三十三間堂です』
ようやく目的地。バスカードをポケットから出す俺を見ながら衛がボソっと言った。
「理にでかいマスクさせるべきだったな。」
一瞬キョトンとしたものの、たぶん俺と同じことを考えていただろうことに思い当たる。たぶんこのジャケットのせいだよ!
照れ隠しに衛の背中をドンと叩いた。
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