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mar.17.2017 繋がりと意味
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「トアさん、ちゃんとしてくれてる!」
ハルさんにツンツンされたのは僕の手首に巻かれたブレスレット。といってもイカツイものではなく、3本の細い革紐とターコイズのシンプルなものです。シルバーはありませんし、ターコイズは3つだけ。石に黒い縞目が入っているので黒い革紐がピタリとはまっている。よくある数珠つなぎのタイプではないので、僕でも気負いなく身に着けられます。そして何故か気持ちが落ち着く不思議なアイテム。
「今年のSABURO誕生日プレゼントテーマは「色」です。」
「色・・ですか?」
「トアさんの誕生日の色は「スカーレッド」エネルギー・明朗・情熱・華やかで活気に満ちた行動派。ということがわかりました。」
「う~~ん、どうなのかな?華やかさとは無縁かと・・・。ああ!それでバスタオルが綺麗な赤だったのですね。」
「そうで~す。今治のバスタオルはモフモフだったでしょう?」
「ええ、最高に気持ちがいいです。あれ?じゃあこのターコイズは?」
「バースデーカラーを提案している所は複数あって、違うところは水色と緑なんですよね。トアさん着ている服はブルーかグリーン系多いですよね。」
「言われてみれば確かに・・・。」
「でも手袋は赤ですよね?トートのパイピングもね。」
ハルさんにエヘヘと笑われてちょっと照れました。そう言われてみれば、赤はスルーの色だったはず。でもどうにも気になって買ってしまった・・・そして赤い手袋をプレゼントされて僕が選んだマフラーとお揃いになったというわけです。そして僕の誕生カラーがスカーレッドだったとは意外。
「不思議ですね。身の回りに置いたり身に着けたりするものは好みで選びます。時にいつもと違う物が気になることがある。それって「生まれ」の力なのでしょうか。あまりそういう不思議系について考えませんが、ターコイズと赤いバスタオルに意味があったことを知って不思議もいいかなと思えます。」
手首のターコイズに触ってみる。ツルツルとした触感とランダムにカットされ磨かれた石は綺麗だ。店内のダウンライトの光の下では柔らかく見えるし、午前中の光にあたるとシャープに輝く。
「去年の誕生日にも驚かされましたが、今年もやはり意外でした。皆さんのアイディアですか?」
「姓名判断とか生まれた日を調べたりは僕が好きで。それでトアさんのを調べたらバースデーカラーに行きついて、そこからネットをあちこちウロウロしました。皆で話合って決まったプレゼントです。ターコイズはトアさんのお守りアイテムらしいので、ずっと元気でいられるようにっていう僕たちの願いですね。」
ううう・・・心に沁みる。
ハルさんはスマホを取りだして、何度かタップを繰り返すと目当てのサイトを見つけたのかニンマリ顔。さては姓名判断か何かですね。
「トアさんの分析です。
『何かに没頭すると時間を忘れてしまうようなところがあり、それが運気の上下にも影響を与えてしまう傾向が見られます。その傾向は20歳頃まで強く、「不思議な人」という印象を周囲に与えてしまい、対人運が下がってしまうこともあります。24歳を超えた辺りからは過去の失敗に学び、バランスのとれた人格となり、徐々に人生の歯車が上手く回りだします。
恋愛に関しては、30歳前後で一時的に運気がガタ落ちするでしょう。ただそのときに、相手と上手く精神と肉体の相性が噛み合うと、スピード結婚に至る可能性も高くあります。
また興味のあるものにお金をかけることに抵抗がないので、コレクションなどの趣味がある場合はそれにつぎ込むことも多いでしょう。その金銭感覚は大人になってからも変わらず、50歳頃から老年期にかけて、生活資金に影響を与えるまでになりますから注意をしておきましょう。』
どうです?なんか当たってますよね!ですよね!」
没頭すると時間を忘れる・・・確かに
不思議な人・・・ええ、大いに身に覚えがあります
一気に運気ガタオチ・・・会社潰れたし、薄いかすかな恋愛もなくなりました
趣味につぎ込む・・・DVD部屋を作るはめになりますよね、将来的に
「ハルさん・・・これ捏造では?」
「そんなことないですよ、見てください。」
ハルさんがクリっと画面をみせてくれました。ハルさん自筆の文章でもなんでもないレッキとしたサイトが表示されていました。なんということだ!誕生日とバースデーカラーで僕の根幹は作られている?だとしたら世界中に僕みたいな3/14生まれさんがいるってことでしょうか。それはそれで・・・会ってみたい気もします。
「トアさん、噛み合ったらスピード婚もありっていうところ、スルーしましたね?わざとですか?」
・・・スピード婚。
僕は思い出してしまった。福寿草を見つけた月曜日の午後を。あの時僕の身体を満たした確信と実感。フワフワの茶色の髪ととび色に見えた綺麗な瞳。
これからもずっとと願った・・・一緒に生きていくことを望んだ僕。
生まれたその瞬間にそう決まっていたとしたら?だとしたら・・・運命意外に何があると?
「トアさん。」
僕はテーブルに落としていた視線を少し上げた。そこには優しく微笑んだ表情のハルさん。
「僕の相手は同性になるので、トアさんのようにスピード婚なんて夢のまた夢です。正直ミネさんと結婚したいかと言われてもピンとこない。好きな人と一緒にいるっていう今の状況でアップアップです。ずっととか将来みたいな単語はまだ僕には浮かんでこないのです。
でもきっと、そう感じる時期が来るのかもしれない、こないままかもしれない。それでいいと思っています。生きている今と過去、そして未来には全部意味があると思いませんか?」
「・・・意味ですか?」
「はい。親元を離れた時僕は一生こういう目にあって生きていくんだっていう諦めがありました。でも今思えば一人暮らしをしたから飯塚さんと理さんに逢えた。そしてミネさんとトアさんにも。SABUROで働いて自分の居場所を得ることができました。高校生のあの頃、こんな未来があるなんて考えもしなかったし、明るい将来を思い描くこともできなかった。飯塚さんの住んでいるエリアの物件を選んだのか全然わかりません。コンビニをバイト先にしたのだって何か考えがあったわけじゃないし。でも全部繋がっている。だから全部に意味があるっていうことです。トアさんのスカーレッドが導いた出逢いはお揃いの赤になって現れた。水色やグリーンはトアさんにぴったりの色だから着こなしも格好いい。
実はトアさん以外の色はまだ調べていないのです。その時に調べてプレゼントを考えようねって決めました。次はミネさんだから楽しみ。」
意味がある・・・全部繋がっている。
会社が倒産しなかったら僕はここにいなかった。作家になりたいという身に余る野望を持たなければ就職先をまず探しただろう。映画好きがひょんなことから形になって・・・坂口さんに出逢った。本当だ、全部繋がっている。
「毎日に意味があると考えれば、色々なことを乗り越えていけそうですね。」
「ですね、迷ったり決めたりすることも怖さが減るかなって。」
「何か怖いことでも?」
ハルさんは少し寂しげな笑顔を浮かべた。
「う~ん。怖いというかどうなるのかなっていう不安はあります。僕の家族は万々歳ですが、ミネさんのご両親はどう感じるのかな。考えると時々鳥肌がたっちゃったり、うわ!!!って叫びたくなります。先送りにしても絶対そういう時期がくるでしょう?僕はそれが怖いです。」
「そう・・・ですね。」
「親は子供の幸せを願ってくれるはずだってミネさんは言うけど、願うのと実際目の当たりにするのは違うでしょ?今からそんな心配してもしょうがないですけどね。」
僕は何と言っていいのかわかりませんでした。大丈夫だよなんて無責任に言えない、ミネさんとハルさんの二人の話し合いがあってこそだから、僕がここで何か言ったところで意味もない。どうにかなりますよ・・・も気休めすぎて慰めにもなりません。
「そうですね。でも世界は少しずつ動いています。札幌だって来年から「同性パートナー証明書」的なものが始まります。渋谷区や那覇市などで前例はありますが、政令指定都市では全国初です。僕達が住んでいるこの都市が全国に先駆けて選択して決定した。ハルさんが言う様にきっとこれにも意味があって、僕達に繋がっているはずです。現実的な問題は多々ありますが、ハルさんがこれから生きていく上で少しですが裏付けを得ることができるようになる。
僕は坂口さんと出会って色々起こる自分の変化に驚いています。そして飯塚さんと理さん、ミネさんとハルさんが相手をどう想い、大切にしているかを実感しました。そこに性差はない。そう思える環境に僕がいることもきっと意味がある、そうですよね。」
「そうなのかな。」
「ええ、そうですよ。」
ハルさんはゆっくり立ち上がると厨房で飯塚さんと何事か話しているミネさんを見た。その視線はとても暖かくて僕までほっこり。
「トアさん、ジョアンに一緒に行きませんか?今月のパンは「はちみつレモン&クリームチーズ」です。爽やかで甘いパンをミネさんに食べさせたくなりました。もちろん一緒に食べるのですが。」
「美味しそうですね。僕も買おうかな。朝のコーヒーと相性がよさそうです。」
「ばっちりに決まっています。」
「ハルさん。」
「なんですか?」
「きっと僕たちは将来どこかのタイミングで思い出すでしょう。あの時こんな話をしたねって。そしてやっぱり意味があって繋がっていたんだねって。そう僕らは話すはずです。その時どんな環境にいるかまったく見えませんが、笑って・・・ええ、笑ってそう言い合う僕とハルさんが見えます。」
「・・・トアさん、格好よすぎです。そうですね・・・きっとそんな僕達が少し先の未来にいる。楽しみです、その時の僕らに逢える日が。」
「ええ、楽しみは先にあるからこそ「おたのしみ」ですからね。」
僕とハルさんは連れ立ってSABUROを出た。
少しだけ柔らかくなった空気を感じながら乾いた歩道を歩く。
全てに意味があり繋がっている。
今僕が踏み出している一歩一歩にも・・・。
「これからもずっと」のために未来をつかみ取ろう。その決心は清清しく僕の身体を駆け抜けた。
一歩一歩を共に歩いていきましょう、そう言おう。
青い春の空のように、僕の心は澄み切っていた。
そして・・・とても幸せで穏やか。
誰かを大事だと想えることがこんなに豊かなものだということを知ることができたから。
穏やかで・・・幸せ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
札幌市の決定について補足しておきます。
札幌市は条例ではなく要綱案として、互いをパートナーとする「宣誓書」の提出を受ければ、市として公的に認める書類を発行する方向で検討しています。(2018年から)
これは「同性パートナー証明書」に値するもので、民間企業が行う同性パートナー向けサービス(マイル共有、携帯電話の家族割制度、死亡保険金受け取り等)を受けることができるようになります。今回の札幌市で全国6例目。政令指定都市では全国初です。
札幌市は誠意をもって周知していく方向性を打ち出している事がうかがえ、私はこの決定を非常に大きなものであると考えています。各地方都市、首都圏に先駆けての選択は各方面に影響を与えるはずです。
「男前とヤサ男」を二年にわたって書き続けています。BLという枠からはみ出しているのは百も承知で、夫婦や家族の関わり、映画を通しての人との関係性など同性の恋愛と無縁なエピソードもたくさん書きました。もちろん理と飯塚、ハルとミネ、ギイさんとマスターの同性カップルの日常が中心ですが、トアの心境の変化を綴っていくと「人が惹かれ合う」「同じ時間をともに過ごす」「大切な存在を心の中で抱きしめる」この事に関して性差はないとより強く思う様になりました。
誰しもが誰かを好きになり、時に失うこともある。時間を沢山重ねることもある。
沢山の「誰か」は人であり、男だから女だからという括りよりもっと大きなものであるべきだと。
更新がスローペースになっておりますが連載終了は現在まったく考えていません。精一杯生きている登場人物たちが私に教えてくれるもの、見せてくれる映像を文章にしていくつもりです。彼らが動かなくなるまで私からやめるつもりはありません。
SABUROとそれを取り巻く世界観に触れることで、読んだ方の心や考えに何かを訴えることができたら。欲張れば、腐海周辺に生息していない人達にも(欲張りすぎですねw)
BL小説応援サイト「オープンセサミ」さんで4月に本作が紹介されることになりました。BLが入り口ではありますが、読者さんの数が増えLGBTと社会の関わりに感心を持ってくれるきっかけになると嬉しいな・・・そう思っております。
全国に散らばっている読者さんたちに札幌市の決定をお知らせすることができる。これもすべてBLというジャンル、ビラブさんのようなサイトがあってこそです。
私のできる小さな周知。
小さくても、きっと意味があって繋がっているはずです。
久しぶりのあとがきにお付き合いくださりありがとうございました。
更新・・・頑張りま~~す。
せい
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