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ギイさんのたくらみ <金曜日>
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「旨かったよ、ごちそうさま。」
「お腹いっぱいになりました?」
「おう、大満足だ。」
「コーヒーお持ちしますね。」
キイはニッコリ笑ったあとテキパキとテーブルの上を片付けた。ラストオーダー間近に来た作戦は成功。店内はまばらで、ほとんどがコーヒーを飲んでいる。少しぐらいキイを引き留めても問題ないだろう。
「コーヒーです。ギイさん、今日は遅かったですね。お仕事忙しいです?時期的に忙しいってお疲れ気味のお客さんが多いので。」
「3月4月ワタワタするのは何処も同じか。」
「お馴染みのお客さんが何人か転勤になってしまって。ちょっと寂しいですよね。」
「大丈夫だ、新しい出逢いがある時期でもある。」
俺は内ポケットからチラシを出してテーブルの上に置く。なんでしょうか?な顔をしたキイがチラシを手に取った。
「あ~。ギイさんの行くスーパーはコレなんですね。ええ~いいな、こっちのほうがいいですよ。」
「これ?こっち?」
「僕達の行くスーパーは「DANSK」なんですよ。青と白のお皿はちょっと好みじゃないし。木のボウルもいらないし。ガラスボールはカラフルな突起がボチボチしていて、ミネさんが気持ち悪いって。僕は悪くないかなって思うのに。せいぜいグラスくらいかなって。」
「スーパーで違うのか!」
「スーパーというか系列で違うはずですよ。イオンは「joseph joseph」のまな板やボウルだったし。ギイさん、これ集めているのですか?MEYERか、いいなあ。」
「俺というよりヒロがな。」
ダンスク?ジョセフ?メイヤー?そういうブランドってことか。台所用品もスーパーのキャンペーンも色々あるんだな、初めて知った。
「買い物ってけっこう重いし大変ですから、ギイさんもちゃんと付き合わないと。」
「土日は行くよ。平日は昼間ヒロが済ませてくれているけど。人をサボリみたいに言うなよ。」
キイはチラシをまじまじと見ながら頷いたり「へえ~」なんて言っている。なにが「へえ~」ポイントなのか俺にはさっぱりだ。
「僕なら断然これです。」
キイが指さしたのはシール10枚+5000円のフライパンだった。
「5000円かよ!」
「5000円かよって、オーダーした箸より安いですよ。」
「マジか!どれだけ高級な箸だよ!」
「一番高いのは4万以上の値段でしたよ。」
「ま、マジか!」
「5月に届く予定で楽しみなんですよね。あ、届いたら写真メールしますよ。」
「写真で箸の評価を俺ができるわけないだろ。それより、フライパンが先だ。キイはなんでこれがいいんだ?」
「グリルパンで底が波打っていますよね。余分な脂がおちるし。お肉を焼くときに斜めに置いて、焦げ目をつけてもう一度逆角度で焼き付けるとバッテンの焼き目がつきます。ステーキによくありますよね。」
「おおお!そういう仕組みだったのか。それはいいな。でもこの横についているサイズ間違いましたみたいな蓋?これはなんだ?」
「これは重石がわりですね。」
「おもし?」
「鶏皮をパリッと仕上げるには重たいものを乗せて焼くと上手くいくのです。鶏の上にお皿をのせてさらに水を入れたヤカンやボウルを乗せたりします。これがあると手軽にできますね。」
「パリパリの鶏皮・・・。」
「ギイさんとマスターよく食べるじゃないですか。ディアブロ。」
「あれが作れるのか!このフライパンで?」
「どんなフライパンでもできますよ。」
俄然この一番高いフライパンが気になり始めた。家でパリパリの鶏肉か・・・悪くない。
「でも味付けがあるだろう?」
「鶏皮にフォークで穴をあけて塩コショウ。ビニール袋に鶏とニンニクのみじん切りかスライスとオリーブオイルを入れて揉んでください。手が汚れません。ローズマリーがあるといいですよ。」
「ローズ?薔薇か?」
「いえ、ハーブです。あ、ちょっと待っていてください!」
キイはクルリと振り向いてスタスタ行ってしまった。忘れないうちにメモ!スマホにさっそく打ち込む。フォークで穴、塩コショウだったな。ニンニク・・・みじん切りかスライス、味が変わるのか?
あとはローズなんたら・・・マリー?薔薇なマリーさん、そんな訳がない。
「メモですか、やる気満々ですね。はいこれどうぞ、一回分ですけど。」
キイはラップにくるんだ松の枯れ葉みたいなものをテーブルの上に置いた。これがマリーさん?
「フレッシュのほうが香りはいいですけど、今は乾燥しかなくて。暖かくなったらプランターに植えます。」
「そこまで手作りかよ!」
「手作りって、ジャンルとしては園芸ですよ。」
鉢植えか。買ってこなくてもプチンとその都度調達できるのは便利だろうな。つねに新鮮で香りがいい、そして部屋に緑があるのも悪くない。ヒロに言ってみるか。
あれ?あと何か聞きたい事があったはず、ああ、ニンニク!
「キイ、みじん切りとスライスって味が変わるのか?」
「風味の問題ですね。みじん切りのほうが香りが強くなります。次がスライス、一番マイルドなのは軽くつぶした状態ですね。料理や好みによってニンニクの切り方を使い分けるのです。ギイさんの好みに合う様に何回か試すと決まってくると思いますよ。」
なるほど・・・すごいな料理。切り方で変わるのか。今度ツナトマトパスタの時試してみようかな。スライスのほうが楽そうだし。
「ディアブロするなら鶏肉はモモ肉にしてくださいね。それよりシール溜まっていますか?まずはフライパンをゲットしなくちゃです。」
「おう、目途はついている。」
「ああ~~、さてはギイさん、アルコールで稼ごうとしてますね。」
俺の目論見はあっさりキイにバレた。
よし、枯れたマリーさんも頂いたし日曜の昼は豪勢なテーブルにしてやるか。ヒロの喜ぶ顔を想像してにやけてしまう俺だった。
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