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may.12.2017 一生懸命に準備です
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スマホがヴーヴー揺れた。「件名:送りました」
パソコンを確認したらメールが来ている。ざっと目を通したがじっくり読んでいる場合ではない。ここは会社で今は完全仕事中。何食わぬ顔でプリントアウトをしたあと二つ折りにしてカバンに仕舞った。こんなものが見つかったら言い訳が大変だからな。
「多田さん、行動が怪しいですよ。」
「怪しくもなんともない、ちゃんと仕事しろ。コンベンションセンターの仮押さえはそのままか確認したか?」
「あ、はい。仮押さえのままです。購買分析と集客数から継続の方向でいくそうです。」
「箱はあるってことか・・・じゃあ、来年の開催に関して商材のテコ入れが必要だな。札幌会場限定の商品を用意するか。」
「ああ・・・ええと。」
「なんだよ。」
「それって商品の企画、社内でプレゼンと稟議、生産ラインの確保、ライセンスの書類、契約、アーティストの許可・・・あと宣材物。ざっと考えてもザクザクでてくるんですけど。」
「もうちょい考えればもっとでてくるぜ?」
「ええとそれをやるつもりですか?」
「いいアイディアだと思うけどな。課長に話してみるか。」
「わかりました・・・多忙な毎日がコンニチハですね。はぁ・・・。」
怪しい人物扱いするからだ。余計なことを考えられないように、仕事漬けの毎日にしてやる。それにな、一連の作業に全部関わって形にする。その経験がこれからの仕事に生きるわけだ。横で見ているだけでは身につかない。しっかり関わって経験値を増やすことが仕事では大事。
「ちゃんとフォローしてやるよ。」
「多田さぁ~ん。」
「イベントで売れ筋だったデータあるだろ?それに商材とターゲット層をプラスして何パターンか考えてみろ。」
「わかりました・・・考えてみます。」
いざとなったらケツは拭いてやるよ。でも今は言わないでおく。つねに助けがあると甘えていたら成長できない。自分に一番甘いのが自分だったりするからな。
メールの内容は地下鉄の中で確認するか。買い物もいるだろうし。
◇◇◇
メールを送ってくれたのはキイ。けっこうなボリュームの長文だったが、項目ごとにきちんと分けられていたので俺のような初心者でも理解できるようになっている。リーマンだって十分いけただろうな、キイ。
A4の紙を片手にスーパーのカートを押している。買い物真っ只中で必要な材料はすべて書かれていた。
<ブロックベーコン>ペラペラ以外もあるってことか?おおお~あったあった。
<好きなウィンナー(2~3種類あるといいです)>バジル&レモンは旨そうだ。あとは定番あらびきウィンナー。これは「美味しいに決まってるでしょ!」と言わんばかりの見た目だな。ジョンソンヴィル?買ってみよう。
<サラミ/鶏肉が原材料ではない商品を>成分を確認して買えってことか?家庭の奥様みたいじゃないか、まるで。パッケージの成分表を確認してからカゴに入れた。
<玉ねぎ・人参・セロリ・トマト缶(ダイス)・にんにく>最近この食材は馴染みになってきた(セロリ以外)
<ローリエ/スパイスコーナーにあります>ふ~ん。なんか聞いたことあるネーミングだけどな。ローリエ、ローリエ、ああ、この葉っぱか。ここで俺は噴き出した。だってローリエって伸ばさなければ別の商品の名前だろ。
『ギイさんへ
買い物はしっかりお願いします。ブロックベーコン?家にあるペラペラのでいいか。セロリはなくてもいいだろう。ウィンナーは魚肉ソーセージでいいか。・・・このように勝手に代用をしてはダメです。基本がないのに勝手に材料や調理手順を変えるとまるで別物になります。それは「アレンジ」ではなく「適当」でしかありません。
愛のためにきちんと材料と手順は守ってください。その一手間が味と仕上がりに差をつけます。』
「お見通しですよ」ってか?
まったく容赦がないな。確かに考えたよ、セロリを買うのはやめようかなとか。知らない食材は苦手だし、基本セロリってそう食べる野菜じゃないし。一時期ヒロがセロリの漬物にハマっていたことがある。俺としてはそれ程素敵食品には思えなかった。ヒロが好きならいいのか、そういうことだ。
買い物を終えて帰宅すると、サクサク着替えた。これから俺は真剣に料理をする。何故かって?それはヒロの誕生日だから張り切るというものだ。誕生日には一日早いが日曜日に祝ってやるつもりで準備しているというわけ。
今晩作って明日一日冷蔵庫で寝かせる。そして日曜日に披露。感激してもらえるレベルを作りたかったので頼った先はキイ。「俺でも作れるシェフの味」をリクエストしたら、レシピを教えてくれたというわけ。しかも今回の料理は煮込みで味付けは塩だけ。おいおい、嘘だろ?塩だけってマジか!って言っちゃったよ、俺。なんでもバレンタインのお返しにミネシェフがキイの実家に持参したっていうからには、相当美味いってことだ。
両手を使うから、紙は目の前の壁に貼った。本を見ながら料理を作るって実は大変だってことだ。手は常に濡れているのにページをめくるなんて、紙がブヨブヨになるだろうし。頭に叩き込む?それは無理、一度経験しないと覚える自信がない。あ~なんだ、仕事と一緒じゃねえか。
① 玉ねぎ、セロリ、にんにくをみじん切りにします。こういう時フードプロセッサがあると便利ですよ。購入をご検討ください。人参はカレーのようにゴロゴロ切りでいいです。
この間テレビで見たばっかりだ。道場六三郎のフードプロセッサ。1万以上していたっけな。鍋だけではなく調理器具って高いのな、なんて思った。思っただけで買わなかった。こねたり刻んだりを頻繁にするとは思えないし、かえって無駄だと結論付けたことを後悔。
みじん切りは延々終わらないかと思うぐらい果てしない作業になった。玉ねぎは経験値があるからまあどうにかなった。問題はセロリ。こいつの葉っぱはどうする?茎と葉っぱで味が違うとか?ほら大根は違うだろ?わからないので葉っぱを食べてみる・・・セロリだな。じゃあ全部みじん切りにするか。
テレビ番組は色々なものがあっというまにみじん切りになっていた、さらに卸し、混ぜるもOK。おまけに液体も大丈夫と自信満々にバイヤーが喚いていたな。喚くだけのことはある、俺に今必要なのはフードプロセッサだ!
② ベーコンは1cmくらいの厚さにスライス。ウィンナーは食べやすい適当な大きさ。大き目がオススメです。サラミは人参と同じ大きさがいいでしょう。
これは楽勝。みじん切りの後だと全ての切りが優しく感じる。それにしてもこれ塊の生肉でもよかったんじゃないの?そっちのほうが煮込みのゴージャス感があるのにな。
③ これは加工肉からでる旨味が決め手です。普通の肉で作っても美味しさは負けます。僕がやってみたので間違いありません。
あ・・・そ。アレンジしたからといって必ずしも美味しくなるわけではないってことか。キイがやってダメなら試す価値はないな。
④ オリーブオイルでニンニクを炒める。香りがでたら玉ねぎ、にんじんを入れて炒めてください。5~6分程度で充分です。
ジュージュー。木べらがこんなに便利だったとは知らなかった。肉をひっくり返すヘラっていうの?あれはジュージューするのには向いていない。木べらを買ってからチャーハンの出来がよくなった。調理器具は大事だよな。
⑤ トマト缶をいれてください。缶の1/3くらい水を入れて中身を全て鍋にいれてください。
はいよ、トマト缶二つ入れました。
⑥ ベーコン類と豆を加えてください。ローリエは2枚。
ベーコンたちをドボドボいれる。キイが渡してくれたタッパーには豆が入っている。店に立ち寄って受け取ってきた。この料理は豆を入れるらしく、俺に豆を処理する能力がないから大豆の缶詰でいいかと聞いたら却下。僕が用意しますと譲らなかったので甘えた。
「うわ、でけえ。」
花豆?そんなことを言っていた。「うるかしてから圧力鍋で加熱すればすぐなのに。」と言われてもな。圧力鍋はかなりハードルが高い。圧力鍋の前にフードプロセッサだろ。
⑦ トマトの色が赤から茶色がかったオレンジに変わるまでコトコト煮込んでください。弱火です。1~2時間はかかります。鍋をかき混ぜたりしなくていいです。ただ放置するだけ。
放置プレイね。ずっと見ていなくていいのは楽ちんだ。放置プレイに塩だけでシェフの味が手に入る?
切る手間はあったが、それ以外はいたって簡単。鍋とまな板と包丁だけしか使わないから後片付けも楽ちん。素晴らしいレシピをありがとう!キイ!
じゃあ、ビールでも飲むか。一週間お疲れ様でした、よく頑張ったぞ、俺。
2時間後>>>
「うわ、本当に色が変わっている。うまそ・・・」
⑧ 塩を入れます。少し薄いかなという程度にしておいてください。寝かせている間に塩が回ります。食べる前に温める時に味を決めてください。塩だけですよ!塩だけ!
コショウもいれなくていいのか。塩をパラパラして鍋の中身を混ぜる。なんだこの茶色の物体は。こんなものいれてないぞ。これはベーコン、こっちはウィンナーウィンナーウィンナー、人参・・・
「マジか!!」
これサラミかよ!皮の黒いウィンナーみたいな別物に変身している。食べられるのか?味見しておくべきだよな。小さい皿にサラミを乗せて少しソースも加え思いきって口に入れた。
「マジか!!!」
なんだこれ、めちゃめちゃ旨いじゃないか!このソースすげえ!俺が作ったとは思えないハイクオリティー!すげえなミネシェフ。セロリ頑張ったかいがあった。代用もアレンジもナシにしてよかった。ベーコンは見るからに柔らかそうで、角煮よりも食欲をそそる姿になっている。2cmくらいの厚みにしてもよかったかもしれない・・・ああ、こういうのがアレンジなわけね。ペラペラベーコンじゃダメだって理由がわかったよ。ブツ切りにしたいくらいだ。サラミはもう少し大きく切るべきだったな。ついでに豆を試食してみよう。豆に今まで魅力を感じたことはなかったけど、かなり膨れた様子からソースをタップリ吸い込んでいるようだ。
「マジか!!」
ホックホクじゃねえか!旨味を全部吸い込んでいますという優等生っぷり。おわ~なんだこの料理。凄すぎる!
⑨ 完全に冷めるまで蓋をしないでください。蓋をしたまま冷ますと腐りやすくなります。冷めたのを確認してから冷蔵庫に入れてください。食べる時は粉チーズをかけても美味しいです。パンとも相性も抜群(もちろんワインとも)
余ったら溶けるチーズをかけて焼くとグラタン風になって、これもまた美味しいです。
素敵なお誕生日を!
そりゃあ、美味いに決まってるだろ。チーズ・・・絶対だ、完璧だ。
ヒロがびっくりする顔が楽しみだ。「調味料は塩だけだ。」なんて格好つけて言ってみようか。
格好つけついでに、プレゼントを渡す。ネットで見て絶対ヒロに似合うと一目ぼれした物。
喜んでくれるだろうか。
準備がこんなに楽しいなんてな・・・今まで知らなかったよ。
ヒロと一緒にいれば、毎年こんな気持ちになれるってことが嬉しい。また来年キイに頼んで料理を教えてもらおう。来年か・・・。
ずっと続いていくといいな、二人で祝う誕生日が。
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