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シネマレストラン「サム・サフィ」
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「だってこれ普通じゃん。」
でた・・・アンチ普通発言。「普通=つまらないもの」という図式は私には理解できない。そもそも普通ってなんだろうって考えたらキリがない。
例えば恋愛、男女交際が「普通」だとしたら同性愛の人達は普通ではなくなる。でも立ち位置を変えて彼らの側から見れば、異性愛が普通ではないって事だ。男女交際だったら全部「普通」に当てはまる?そんなことはない。不倫も普通?違うよね。
ものすごく曖昧なのに幅広い言葉。
美味しいランチを食べたまではよかった。私が買ったばかりの雑誌をペラペラめくるようなことをしたから雲行きが怪しくなって・・・特集されている夏物の数々について彼と私の意見がことごとく食い違う。
「私は普通がいいの!」
「もうちょっと面白いデザインを選べば?例えばこっち。」
彼が指を差したカットソーの色はビリジアン。衿と袖口にパイピングが入っている・・・それも赤。こんなの着たくないし、こんな色合わせなら普通のほうがずっといい。
「スイカみたいじゃない、これ。」
「は?こういうのを着こなしてこそじゃないの?」
イライラしてきた。服だけではない、すべての物に対して「普通」ではない物を選び続け、それを私に強要する。最初はエキセントリックだとか個性があって素敵だわなんて思えたけど(恋は盲目って名言中の名言)だんだん鼻につくようになってきた。こうなったらもう無理。今まで溜め込んでいたものがドカンと破裂。
「普通をバカにするけどね、じゃあ「普通」に就職したらどうなの?」
向かい側の顔がカっと赤くなる。そうよ、今はバイトでもいいけれどあっという間に時間は流れる。社会に縛られない、自由に生きると言ってもお金がなければできないの!
「サラリーマンなんかやってられるか!」
「一生フラフラして路頭に迷えば?その時になって気がついても遅いけどね。」
「好きだっていうから付き合ってやったのに、サイテーだな。」
「サイテーなのはそっちじゃない?」
ガタン!
彼が立ち上がったイスが大きな音をたてた。クローズ間近の店内でよかった。満席状態で他のテーブルの注目を浴びるのはご免だ。それこそ普通じゃない。
千円札がビタンとテーブルに叩きつけられる。
「じゃあな。」
わずか半年の付き合いが終了した。自分にないものを求めてしまうのって本能なのか何なのか。というより私自身の問題。持っていない物を求めすぎて毎回失敗している。次こそはと固く心に誓うのに、目を奪われるのは「普通」度が低い男子ばっかり。社会人2年目を迎える22歳って、10代の頃には結構な大人に見えた。でも全然・・・最近の高校生のほうが大人かも。
彼の背中にサヨウナラと小声で言ったけど、聞こえなかっただろうな。
「ちょっと・・・もお!ドリンク代金はどうしたのよ!」
梅酒ソーダのお金くらい置いていってよね。格好つけて叩きつけた千円札では足りないって、残念すぎて笑う気にもならない。
これ以上座っていてもいいことがない。家に帰ってテレビでもみよう。「普通度を求めよ!」って貼り紙でもする?毎日眺めていたら自分の文字によって改心できるかもね。
会計を済ませて出入り口の前に行くとドアが開いた。外には背の高いスタッフがニコニコして立っていた。手にはメニュー看板。閉店時間だもの、看板を入れるところだったのね。
「ありがとうございました。」
「ご馳走様でした。また来ます。」
「お待ちしております。」
家に帰って楽しい映画を見るのもいいかな。楽しくて普通の映画ってあるだろうか。
「あの・・・普通の物語の映画ってあります?」
「普通・・・ですか?」
だから普通って曖昧で幅広い言葉なんだってば。どういう普通か言わないと伝わらないし!
「すいません、変な言い方で。」
「いえいえ、お客様の言う普通が何なのか僕にはわからなくて。普通の基準は人それぞれでしょう?あ、でも普通がテーマのフランス映画があります。」
フランス映画の時点で私にはハードルが高い。大丈夫だろうか。
「自由奔放に生きる若い女性が「普通こそが格好いい。」ってストリップをやめて会社員や家政婦になるお話しです。」
え?は?
「それって普通じゃない・・・ですよね?」
「でも主人公が求めるのは「普通」です。色々な経験、様々な気持ち、考え方、それらに多く触れた人は他人に対して寛容になれるというのが僕の持論です。自分と違うものを否定する前に、触れて考える。一人の人間が遭遇できる機会はそうないですが映画の中には詰まっています。経験していないことや知らなかった考えに出会えますから。」
映画をそんな風に見たことがなかった。見る番組がない時の地上波放送、デートのアイテム。そんな位置づけでしかなかった映画に意味を見い出す人がいるなんて。
「ありがとうございました。探してみます。」
「DVDは廃版になっているでしょうね。レンタe-zoにしかないと思います。」
DVDあるといいな。フランス人の普通を見たら私も変われるかもしれない!
場面転換>>主人公の女性の部屋
おすすめされた映画は私を驚かせたりクスクス笑わせたり、盛りだくさんの内容。スペインでストリッパーをしていたある日、彼女は自分の生活に嫌気がさし「普通になる。」ことを目指す。
パリに帰って、中年ゲイカップルの家政婦になる。金魚のお家が可愛かった!おまけに役所勤めもして、次は子供を産むと決める。彼女の普通道はどんどん広がっていって・・・
「もう、これのどこが普通よ。」
独り言だってでてきちゃう。ゴージャスなボディにあの事務服はないよね。全然似合っていないのに、彼女は嬉しそうに着ている。たぶん事務服を嫌がる人が多いのに、ダサい「普通」が嬉しいなんて、笑っちゃう。真面目に働いて、家事をして仕事をする。母親になって家庭を築くっていっても、父親が・・・。いやもうどうして~~状態。どんな家庭になるのかな。そもそも結婚するのかどうか。
あの店員さんが言ったように、この映画には色々な人がいた。沢山の会話があった。自分では絶対経験できない出来事がいっぱい詰まっていた!
最初はフランス語が耳慣れなくて戸惑ったけれど、見終わった時にはフランス語であることを忘れていた。こんなに没頭して映画を見たのは初めて。
普通探しー彼女の生き方探しといったほうがいい。
私は気が付いた、探しに出かけないと見つからないってことに。きっと私は自分のことを平凡な人間だと決めつけて諦めてきたんだ。だから普通って言葉に反応してしまう。
そして惹かれるタイプは普通嫌い。きっとね・・・傍に居たら自分が変わる事ができるって無意識に考えていたのね。
一緒にいたからって変わることはない。だって相手が普通や平凡になることはなかったもの。他力本願の自分探しに意味はないってことだ。うん、そういうことだ。
好きな色、食べ物、服、音楽・・・本当に自分がそれを好きなのか、ちゃんと考えてみよう。いつもより少し気をつけて見ることにする。
そして休みの日には映画を見る。あのレストランに行っておすすめを教えてもらってもいい。今日行ったレンタルショップには知らない映画ばかりが並んでいた。棚の端から端まで見る挑戦も面白いかも!
私の22歳は始まったばかりだ。今日を区切りに沢山の経験をすることにしよう。
映画と一緒に。
END
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