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june.26.2017 北広島三井アウトレットパーク 4
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「稔明、トイレにいかないか」
兄さんはそう言って立ち上がった。それは「話があると」同義語。僕は素直に席を立ち兄の横に並んだ。トイレのサインを確認しながらカーペット敷きのフロアを歩く。
「よかったな」
「え?」
「とても優しそうな人だ。ガチャガチャしていないし、食べ方が綺麗だった」
「兄さん、どこを見ているんですか」
「大事なことだぞ?」
「それはわかりますが」
「綺麗な食べ方ができるということは、きちんと躾られて育ったということだ。箸だってきちんと使えていたし、食べ物で遊ぶこともしない。好きなものを美味しそうに食べる。これをできない人間は男女問わず俺は相容れない。たぶん、稔明もそうだろう」
「そうなのかな」
「気が付かないということは綺麗な所作ということさ。あとは稔明とテンポが似ている」
「坂口さんは僕みたいに突っ走って話をしたりしませんよ?」
「そういうことではないよ。物事に対しての考え方や動き方というのかな。押しが強い、テンションが高い、そういう面は見えないし、ゆったりした人だ。緊張させてしまってかえって申しわけなかったが」
「びっくりしました」
「俺だってびっくりしたよ」
兄さんは僕の肩をポンと叩いた。浮かべる笑顔は本当に嬉しそうで、その顔を見てこみあげるものがあり僕は驚いた。兄さんを安心させることができたことにかもしれない。ずっと心配していた兄さんはクリスマスの度に彼女を連れてこいと言い続けた。毎年期待を裏切る結果になっていたから僕も心苦しかった。
でも今は違う。僕は坂口さんと出逢ったことで少しずつ変わった。自分の中にあった恋愛観はすべて崩れ、新しい感情と気持ちがどんどん僕の中に積もっていく。その毎日が楽しくもあり嬉しい。
そして「ずっと」という言葉の意味を信じることができるまでになった。離したくないと同じ意味の「ずっと」これからも「ずっと」
「特別な人です」
「……そうか」
「はい、ずっと一緒にいたいと初めて思えた人です」
「詩穂と……そう思ったから結婚した。焦ることはないが、真剣に考えるべきだろうな」
「……ですね」
「しっかり捕まえておけ。よかったな、稔明」
兄さんは僕の肩をギュウと掴んで微笑んだ。僕も笑顔を返そうとしたのに、自分でわかる程うまく笑顔にならない。こんなに嬉しそうな兄さんを見るのは久しぶりだ。
「がんばり……ます」
「今年のクリスマスは大丈夫だな」
「美容師さんなので年末は忙しいから厳しいでしょうね。僕もどうなることやらです。二人でクリスマスしますよ」
今度はバチンと肩を叩かれた。
「おお?自信満々だな」
兄さんに今度はお腹をポスンと叩かれた。なんだか今日はやけに叩かれる。
「ちゃんと割っているな」
「重光家のきまりですから」
「きまりごともあるが、女性を繋ぎとめる武器でもある、違うか?」
兄さん!!
真っ赤になった僕をからかいながら兄さんはずっと肩をポンポン叩いていた。そのすべてが頑張れよと言ってくれているように感じて、また少し心が揺れた。
頑張りが坂口さんとの未来につながるのなら……頑張れる。「誰よりも、頑張れます」
僕はそう心に誓った。
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