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july.22.2017 本日の賄い!!
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「本日は僕が賄い作っていいでしょうか」
トアがそんなことを言い出したので、俺と村崎は予想外の言葉に驚いた。トアはシャキーンとスーパーのビニール袋を持ちあげた。材料持参でやる気満々のようだ。
「いいけど、何かあったっけ?誕生日もイベントもないはずだけど」
「ミネさん、何もありません。ありませんが最近の北海道はらしくなく蒸し暑いじゃないですか」
「そうね。おかげでジェラードが大人気。俺と飯塚はカラッカラの干物になっちゃいそうよ」
「ですから爽やかにいきませんか?」
爽やかな賄いって何だ?まさかハッカ味のギョニケチャなんていう迷惑料理じゃないだろうな。
「グリーンカレー食べたくないですか?」
「グリーンカレーね。辛くて汗がでてヒンヤリ。ハーブですっきり」
「そうです。おまけにすぐできる。そして僕にも作れてしまう簡単さんです!」
エスニック……和食以上に俺の鬼門であるジャンル。好んで食べた経験値がないせいで食わず嫌いの面が大きい。クセがありそうな雰囲気と思い込み。トムヤンクンは世界三大スープらしいが、酸っぱくて辛いという組み合わせが想像できない。酸味はレモングラスだったか?独特の香辛料に生姜……ますますイメージできない。
「ええ!トアはグリーンカレー作れるの?」
食いしん坊め。思ったとおり理が食いついた。
「簡単なんですよ。理さんでも作れると思います」
とたんに理の顔が暗くなる。
「俺はできないと思うよ?」
「いえいえ大丈夫です。お粥が作れるなら絶対いけます」
「へえ。ちょっと興味あるな。衛はエスニックを作ってくれないし。俺が作れるようになったら「今日は俺が作る!」なんて言えるしね。それがグリーンカレーか……衛も作れないレパートリーをゲットも悪くないよね」
……悪いに決まっている。俺の顔を見た村崎が面白そうにニヤっとした。「俺は作れるけど、飯塚の弱点ジャンルだった?」とでも言い出しそうな顔。負けず嫌いがムクムク膨れてくる。
「理さん、一緒に作りましょう!」
「横で見ているだけでいい?行程を覚えてみるよ」
本日のSABUROの賄いは「トアのグリーンカレー」に決定した。悔しいが俺もトアの横で工程を確認しよう。味のイメージさえできれば作れるはずだ。いや、作ってみせる!
「ココナッツミルクを鍋に入れます。ペースト溶かすためなので全部は入れません」
ココナッツミルク1缶。
「煮たってきたら、グリーンカレーペーストを入れて溶かします。油でペーストを炒める方法もありますが、ものすごい唐辛子攻撃で台所の空気がヒリヒリになりました。泣きながら炒めることになってから止めて、今は溶かす派です」
カレーペースト一袋。輸入食材の店で手に入るらしい。KALDIのシールが貼ってある。
「溶けたら、カットした鶏肉を入れて煮ます」
「トア、野菜は煮る派?俺は素揚げ派なんだけど」
「素揚げのほうが美味しそうですね。僕は揚げ物しませんのでぶっこみ派ですが、そこに拘りはありません」
「んじゃ、野菜は俺達が担当するわ。ハル、野菜カットするよ。アニキ野菜と賄いようのハネ品から選ぼう。ナスと、しわがよったパプリカ。しめじあたりかな。あと色のかわったバジルをよけといて」
「了解です」
俺も絶対素揚げにしてやる!
「10分弱煮込みます。鶏肉に火が通ったら残りのココナッツミルクをじゃば~っと入れて、鶏ガラスープとナンプラー、砂糖で味つけです」
「え?それだけ?」
「野菜ぶっこみ方式だと野菜に火がとおるまで煮込みますが、こんなもんなんですよ。理さんでもできそうですよね」
「ちょっとまった!」
村崎が調味料をストックしている箱をガサガサしている。そこに何か入っていたか?覚えがない。
「バイマックルを忘れちゃいかんよ、トア」
「ばいまっくる?」
「こぶみかんの葉っぱ」
見た目はローリエだが、みかんの葉っぱらしい。
「なくてもいいけど、あるとよりよい仕上がりになる。これいれて」
トアは葉を受け取り鍋に入れた。ローリエがなくても煮込みができる。しかしあるとないとでは大違い。香りは料理にとって大事な要素だ。「バイマックル」とメモをする。馴染みのない単語が増えていく。
「本場では砂糖ではなくパームシュガーを使うみたいだけど、代用するならキビ砂糖かな。残念ながらストックはないので普通の砂糖をいれるしかないな」
「お~ミネさん。そういう細かい本場ものを入れると入れないとでは味がかわるのですね」
「レモングラスを入れたいけど、レモングラスのストックがない。バジルは入れよう」
「僕のグリーンカレーにバジルは入っていません」
「フレッシュがなかったら乾燥タイプでもいいよ」
「う~む、これがプロと素人の差ですね」
理は腕組みをしながら俺を見た。
「衛、ちゃんとメモしてる?」
「ああ」
「俺ね、工程は覚えたけど、まっくる?とかレモンなんとか?全然覚えられない」
「大丈夫だ、ちゃんと書いた」
バジルはフレッシュ、レモングラスも入手。そしてパームシュガーをネットで探す。絶対村崎の本場仕様で作ってやる!
「さて、鶏に火がとおりました。ナンプラーいれて、鶏ガラスープ、お砂糖。味見します」
トアが味見してコクンと頷く。味見皿を村崎に渡した。
「お願いします」
「はいよ」
村崎は味を確かめたあと、親指をビュっと立てた。合格らしい。
「いつも作るのと風味が全然違います!バジルとみかんのせいですね、きっと」
「野菜の素揚げできあがりました!」
北川の報告を受けて、村崎と俺で皿にご飯を盛る。揚げ野菜をごはんの隣に彩りよく盛り付ける村崎の皿を見て、同じように盛る。トアが鍋からカレーを皿にかけた。
「おおおお!おいしそうです!いつもの僕カレーと雲泥の差!」
僕カレーって……。
「うっしゃ!皆で制作の賄いを食べるとしよう!」
めいめいが皿を手にテーブルに移動。皆揃って「いただきます!」
まずはカレーを一口……あんな簡単な工程なのに複雑な味がする。甘みとこく、旨味。さわやかな香り、そして辛み。俺のイメージするどんなカレーとも違う味。
悔しいが……美味い。
「トア、美味しいよ!ちょっと変わってるけど、美味しいな。へえ~これがグリーンカレーか」
「理さん、僕カレーはこれよりレベル低いです。ミネさんの手助けでレベルアップしました」
「ちょっとしたことで変わるからね。あ~ハルにはちょっと辛いかな?」
「辛いです。辛いけど美味しいですね。ココナッツのせいかな。スープカレーの辛いのよりもこっちのほうが食べられます」
辛い、でも美味しくて食べられる。そして少し悔しい。
「衛、そんな顔するなって」
隣の理が俺の太ももをポンポンと叩いた。
「知らない味がまだまだあるって楽しいじゃないか。材料調達は衛に任せるから、今度一緒につくろう。トア+ミネ以上のグリンカレーを作ればいいじゃないか。お前煮込み得意だし」
「ああ、そうだな」
理の言葉に簡単に浮上する俺。
「ちょっと待った!トア+俺だからこのレベルだけど、俺+ハルならもっと上を目指せる!」
この負けず嫌いが!(人のこと言えない俺だが)
「裁判長!異議です!異議!僕カレーは低レベルかもしれませんが、坂口さんと一緒に作ればレベルアップ間違いなしです。仲良く愛情たっぷりカレーはプロの味を超えるホンワカさがありますからね。負けませんよ!」
結局俺達はワイワイ「負けないぞ」宣言を繰り返す羽目になった。それぞれが自分達が一番美味しいグリーンカレーを作れると言いながら自然と笑顔になっていく。
そうだな、どこのグリーンカレーも愛情たっぷりの一皿になるだろう。並んで台所に立ち、一つの料理を一緒に作る。その工程こそがスパイスになり、レベルアップするに違いない。
違いない……かもしれないが、理と作る俺カレーが一番だ!
絶対これは譲れない!!!
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毎日蒸し暑い日が続いております。暑い時には辛いものが定番です。普通のカレーもいいけど短時間で作れてしまうグリンカレーはいかがですか?
台所に立つ時間は短いほうがいいですからね。
私ですか?厨房で汗だくの毎日です(笑)
せい
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