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august.2.2017 HAPPY BIRTHDAY、ハル~一週間前~
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<お誕日1週間前の中休み>
「プレゼント買ったの?」
サトルがそう俺に言ったのは1週間前。何にしようかな~とつらつら考えているうちにあっという間に1週間前。そうです、まだ何も決まっていないし買えていない。
「……決め手がない」
「おいおい、もうこんな日付だよ?お取り寄せだって間に合わないかもしれないタイミングなんだけど」
「サトルのところは困ったらワイン、もしくはワインにまつわるエトセトラでいいわけだろ?あれ?このエトセトラってワインとは違う単語がくっついていなかったっけ?」
サトルはウンザリした顔でため息をつく。あ~また手がかかる、まったくどうしてこうなんだ?なんて考えているね、絶対。
「ワインでもビールにまつわるエトセトラでもいいけど。あのね、大事なんだよ誕生日って。生まれてきてありがとうって、出会えてありがとうを祝う日だと俺は思うしね。恋人に限らず家族や友達だってそういう気持ちで感謝するよ、俺は」
なんですか、その哲学者みたいな考え方。生まれてきてありがとう……か。生まれてこなかったら出逢いもなかったわけだしね。おめでとうだけではなく「ありがとう」も言おうかな。
サトルがスマホを操作し始めた。何か素敵アイテムを教えてくれるとか?
「あったあった。読むからちゃんと聞いて」
「何を読むわけ?」
「8月2日生まれのあなたはこんな人ですっていうサイト」
「サトルと飯塚好きね~そういうの」
「違うよ。これはもともと正明が教えてくれたんだから。いい?読むよ」
「はい、わかりました」
俺は椅子にストンと腰掛けた。気分は正座です。
「8月2日に生まれたあなたは、人当たりが良く明朗な性格です。社交上手な面があり、多くの人との交流を楽しみます。あなたが人々を愛するように、あなたと過ごす時間を楽しみにしている人もたくさんいるでしょう。周りを和ませる人気者の要素が強い人です。
といっても、あなたの明るさはただ平和に苦労なく過ごしてきたせいではないかもしれません。今までの人生に試練があったのでしょう。改善策を考えても見つからない場合、あなたは苦しい状況にじっと辛抱強く耐え、辛い夜を幾晩も過ごした後、やっと明るい兆しが見えてきます。
気持ちが高まり、苦しさからの解放感を味わえることでしょう。そんな、人生の闇の部分も経験してきたあなただからこそ、強くポジティブな明るさを持つことができるのかもしれません。
おだやかな性格で自分があまり前に出たがるタイプではないあなたですが、実は少し激しい面も備えています。そのひとつが破壊と再生への願望です。創造的な感性を持っているあなたは既存のものを壊して、自分で新たに作り直したいという願望を無意識のうちに抱いているかもしれません。
その願望が絵や音楽など何かの創作活動に向けられているうちは問題ありませんが、人間関係に向かうこともあるのが心配なところです。友人関係をバッサリ解消したり、長く付き合ってきた彼氏に別れを告げたり、破壊と同時に再生があるとはいえ、一方的に縁を切られた人は傷つき、また、あなたを恨むこともありそうです。すべてを自分の思い通りにしようと思わないことです。
本質的には仲間への思いやりが深い温かい性格なのですから、今あるものを大切にすることを心がけてください」
ただの占いなのにね、グサリと胸に刺さった。つらい夜を幾夜も過ごしたなんて……俺がグズグズしていたせいで一人ぼっちベッドの中でシクシクしているハルのイメージが浮かぶ。同じ屋根の下で俺はどれだけハルの心を痛くしたんだろう。ハルは俺にそんな気持ちにさせたことがないというのに。
「ミネの顔を見れば何を考えているかわかるよ」
「……うん」
「最後の『今あるものを大切にすることを心がけてください』ってこと。これを正明に言えるのはミネしかいないってことじゃないかな」
それなのに、プレゼントも決まってないの?ミネ……そんなんでいいの?そうサトルに言われているような気持ちになった。
「さらに捕捉するよ」
「まだあるの?」
「あるよ。いい?
『小さな頃から比較的、恵まれた環境で育ちやすい人です。経済的にそれほど豊かでない場合でも両親や兄弟など身近な人からたっぷりと愛情を受け、明るい性格に育っていきます。
男らしくたくましいというタイプではありませんが、気配りのできるおだやかな人柄は相手を充分に満足させます。ロマンティックな恋愛時代を経て、20代半ばぐらいのやや早めの時期に結婚することも多そうです。この時期は仕事面も順調で、公私ともに充実した日々を送れることでしょう。
問題は30歳を過ぎた頃から少しずつあらわれます。『今まで順調だった愛情生活や社会生活が徐々に上手くいかなくなってきた』そんな思いを抱くことがありそうです。
もどかしい気持ちになりそうですがヤケをおこさないことです。あなたの長所はトップに立つ人を横で支えるサポート的な能力に長けていること。無理して自分が先頭を走ろうと思わないでください。地道な努力を重ねていれば、そのうちきちんと認められるでしょう。そうすれば、あとは安泰。50代60代とまたまた活気に満ちた毎日が待っています』
これが全部当たっているとは言えないけど、でもこういう特質を持っているってことになるよね」
「そうかも……な」
「人と違う事を受け止めて、家族にそれを知られて全部自分で処理してきたんだよ、正明は。解決のない夜を沢山過ごして、明るい時期が今のミネとの生活だとしたらね、ずっと明るいままにしてあげられるのはミネ。そして正明とミネの二人だと思うよ」
ハルのこれからを俺は考えた。SABUROのスタッフとして日々頑張っているハル。動きもよくなっているし、時に厨房の助っ人をこなせるまでになった。それからどうするのか……厨房スタッフになる?ホールに専念する?ユーティリティースタッフとして両方こなす?それとも別の場所で活躍する?
ハルがこうしたいと見極めた時、その環境を与えてやるのは俺の責任だし、俺がやらないで誰がするってことだ。
自分の足元を見つめて足踏みしているハルなんて俺は見たくない。
「ハルと一緒に成長したい。でも俺は少し前を行くよ。その為には自分をもっと磨かないといけないよな。ハルに手を差し伸べて引っ張りあげられるようにね」
サトルはポンと俺の肩を叩いて立ち上がった。
「そうだね。俺も衛と前を向いていけるように成長する努力はするつもり。SABUROが特別の場所になるには、俺達の努力があってこそだろうし」
想える相手がいて、思ってくれる人がいる。それを応援してくれる仲間がいる。それはとても素敵な事で恵まれているということ。
「生まれて来てくれてありがとう」――そう言える相手と仲間がいる。俺はそれがとても嬉しかった。
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