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august.27.2017 決まりましたよ、とうとう
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「決まったようだな」
「ですね。8/31から札幌。人間ドック行ったあと温泉。登別と洞爺で4泊したあと伊勢神宮に飛んで、その辺をふらふらして関空から戻るルートだってメールきました」
「サブロウに会うのは久しぶりだな、もちろんしーちゃんも」
「それは俺も同じですよ」
「この店の変わりように驚くだろうな。雰囲気も熱気も全然違うから」
「そうだといいけど」
別のことで驚かれちゃう確率の方が高いけどね。いつもお世話になっているおじさんにこれ以上面倒はかけられない。ある意味俺と家族の問題だからSABUROと無関係……でもないけど。
「それで?親と久しぶりに逢えるっていうのに、浮かない顔だな」
「ああ……まあ」
「わからんでもないが。難しいところだな」
「おじさん?」
「なんだ?」
「俺何も言ってないよね」
「ああ、何も聞いていないな」
ニヤリとした表情の奥には心配がチラホラ見え隠れしていた。言っていないけど、察しているだろう。魔導士に見抜けないことなんかない。
「俺、あえて言いませんから。俺から何も聞いてないぞって言葉が嘘にならないでしょ?」
「時に嘘が必要なこともある」
「でもね、俺はおじさんに嘘をつかせたくない。親父が慕っている人だけに。親父の目を見て「俺は嘘を言っていない。実巳から何も聞いていない」って言える状況ぐらい俺に作らせてください。日頃世話になっているんだし」
ふうとため息を一つついたあとおじさんは椅子に凭れた。「何も知らない」と言ってしまえば簡単に嘘に変身してしまうけれど、やはり「聞いていない」と言えるようにしておきたい。
「そうか。じゃあ聞かないし、俺は何も聞かされていないというスタンスでサブロウに向き合うよ。取り越し苦労に終わればいいけどな。俺はそうなることを祈っている」
「ですね。俺もそうなればいいなって毎日寝る前に神様にお祈りしています」
「いずれにしても仕事がある。サブロウ達も予定があるし、四六時中行動をともにするわけではないからな。ばれない確率だってそれなりにあるさ」
おじさんは立ち上がった。話は終わり、じゃあなって顔でひらひら手を振る。俺は返事の代わりにニッコリしてみた。ひとつ頷いたあと、おじさんは壁に向かい、青いグラスにそっと触れた。
「見守ってくれよ」ってお祈りしてくれたのかもしれない。
「高村さん、なんだって?」
「ばれないことを祈るってさ」
「そうか。ん?ということは打ち明けないことに決めたのか?」
飯塚は俺にマグを渡しながらそう聞いた。
「うん。状況に任せましょうってことになった。いつもどおりに振る舞うよ。できるかどうかわかんないけど」
「北川はずっと一緒にいるのか?」
「いや、実家から通うってさ。いつ何が起こるかわからないから、一緒にいないほうがいいって言うんだ。よくあるじゃない?予定より早く帰ってきてドアあけたら「あらま!」な状況が。あくまでもドラマだけど」
「そうか……寂しいな」
ああ~~あもう。そういうこと言わないでくれる?俺だってそれ今から寂しいんだけど。あの家で一人で過ごすのなんて何年ぶり?だし。コーヒーを自分で淹れて、朝ごはん作って一人で食べて出勤。店にきてようやく誰かに会えるっていう生活をしなくちゃいけない。考えただけで落ち込む。
「理が正月に実家帰った時、たった一日だったけど……けっこうな」
「やっぱり?」
「大晦日、疲れ切ってそのまま寝てしまって。元旦目が覚めたら理が戻ってきた」
ふわっと飯塚が微笑む。そっか、嬉しかったんだな。
「たぶん、一人で目覚めたら落ち込んでいただろうな。ああ一人なのかって」
「うわ~そういうこと言わないでよ。俺それ何日するのか知ってる?親が日本脱出するまで1週間?10日?2週間?」
「久しぶりに帰ってくるから、それなりの滞在期間になるだろうな」
「ハルは出国しましたの裏がとれるまで絶対帰ってこないって言い張るし。北海道離れた時点でいいでしょって思わない?思うだろ?」
「でも念には念をいれたい北川の気持ちもわかる。理も絶対同じことを言うはずだ」
「極寒の2月じゃなくてよかったけど。そんな時期に放り出されたらベッドの中で凍死してしまう」
「大げさだな」
「なるようになるさって、さっきおじさんに言われてそうだなって。色々なことを想定したって意味なさそうだし。ジタバタして神経削るくらいなら「なるようになる」戦法のほうがいい」
「北川と二人でそう決めたならそれでいいじゃないか」
「うん。でもさ~」
「なんだよ」
「あんまり寂しくなったら飯塚の所に行ってもいい?」
飯塚は思いっきり嫌な顔をした。そこまで露骨に嫌がらなくてもいいじゃないの。
「来るのは構わないが入り浸るのは禁止だな」
「それどういう差があるの?」
「週に1回」
「うわ!なにそれ。たったの1日だけかよ!」
「じめじめしている人間を相手すると、こっちまで湿りそうだからな」
「ひっで~」
本気で行くつもりはない俺、それをわかって返す飯塚。真剣な話とおふざけは俺の気持ちを軽くするには十分だった。そうだな、なるようにしか物事はならない。だったらそれに委ねてみよう。
「来週忙しいといいな、毎日が」
「給料日明けの週だろ?忙しいに決まっている」
「きっと今のSABUROを見たら安心してくれると思うんだ。それを見せられるだけでもいいかなって」
「それは大丈夫だろうな。俺も久しぶりにマスターに会えるから嬉しい」
「マスターか、懐かしいな。あれ?なんで俺誰からもマスターって呼ばれないのかな」
「「ミネ」と「さねみ君」が多いな、言われてみれば」
「皆がミネって言うから?すずさんが実巳君って呼ぶせい?」
「俺だって飯塚さんだぞ」
「う~む。でもいいか。親父と同じになる必要はないしね」
「そういうこと」
親父と違っていい。俺は俺なりの道を進み、生きていく。一緒にいたいと思える相手を大事にしながら毎日を送れば……きっと、きっと答えは見つかる。俺とハル、俺の両親、ハルの両親。それがとんな形なのかわからない。交わらないいくつかの円なのか、少しずつ重なる円なのか、一つの大きな円なのか。でもどの形になったとしても、俺とハルは同じ輪の中に存在しているはずだ。
それだって一つの答え。自分の望みを叶えるため、今回のことを乗り越えよう、乗り越えてみせる。
ここ数日漂っていた場所から少しだけ浮上した、そんな気分。頑張るぞ、俺。もちろんハルと一緒にね。
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