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september.25.2017 ハルの宿題
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目が覚めて……身動きできないことにビックリ。そしてホワっと気持ちが温かくなった。僕が寝ているのは畳ベッドで、ミネさんが横にいる。顔は毎日見ていたし、朝から深夜に近い時間まで一緒。それなのに、帰る場所が別々で眠るのも別。朝起きて一番に「おはよう」を言うのは、かあさん。
眠るまえに電話をしようかと何度も考えた。でも離れていることが余計に堪えそうだったから一度も電話はしなかった。朝起きてJRに乗ってSABUROに行けばミネさんに逢える。それを心の中で何回も反芻してから眠りにつく。早く朝が来ますようにと願って。
でも今朝は違う……ミネさんがいる。
ミネさんは僕とのことを「宿題」になったと教えてくれた。宿題というか受け入れるまでの準備期間に近い。ミネさんのご両親はほぼ確信しているのだろう。お互いに言葉にしないことで、家族の絆を守った。そういうことだ。
それを聞いても悲しいという気持ちは僕の中に生まれなかった。認めてほしいなんておこがましいことは考えていない。ミネさんの家族がバラバラになるほうがずっと悲しいから。
同性を恋人にもつ二人を受け入れる両親はどのくらいの確率だろう。疎遠になってしまう親子は多いはずだ。マスターのようにお互い何も言わないこと、距離を保つことで家族の形を守っている人もいる。それを考えたら僕は両親が応援してくれているから幸せだ。
いつか……そういつか、ミネさんのご両親と笑顔を言葉を交わすことができれば、それでいい。
「おはよ」
耳元でミネさんの寝起き声。ちょっと擦れた優しい声。
「おはようございます」
「んーーーーやっぱりずっといいな」
「なにがですか?」
「一人で目が覚めて、さっさと店に行くか~って考えるよりずっといい。ハルがここにいる」
「僕もそう思いました」
「電話しようか考えたけど、さっきまで一緒でしたよ?なんてクールに返されそうで、チキンな俺は電話できませんでした」
「なんですか、それ。そんなこと言いませんよ。僕も電話しようって何回も迷ったけどやめました。余計に一緒ではない現実に向き合うはめになりそうだったので」
「うん、そのとおり。声だけ聞こえるのって……ちょっと切ないよな」
うん。とっても切ない。
「ワシャワシャワシャ~~」
「フフフ」
「お、怒らないのね、今朝は」
「いつも怒ってないです。やめてくださいよ、もうって言うだけです」
「親父が墓で言ったんだ。「兄貴に随分頭をぐちゃぐちゃにされたな」って」
「え~そうなんですか?じゃあ遺伝ですね」
「そうなのかもな~」
「ミネさんのお父さんは?」
「頭ポンポンはあったけど、ワシャワシャはなかった。思い出すのが嫌だったのかも」
ミネさんに身体を寄せたらおでこにキスをくれた。盛大に乱れた髪型だろうなって考えたらちょっと恥恥ずかしい。
「親父は三郎だろ?」
「SABUROUさんですよね」
「でもさ、俊巳おじさんと高村のおじさんは「ロウ」って呼んでいたんだってさ」
「ロウ?」
「なんか俺、そのセンスが自分に似てるなって。あ~違うか、俺が似たんだなって」
「遺伝でしたか」
「そうみたい」
もうすぐ10月3日がやってくる。写真はなくて青いグラスとカラーが一輪。同じテーブルについて僕達の会話が続く夜。ミネさんは俊巳さんに似ているのですね。見た目もかな?ワシャワシャとネーミングセンス以外にもありそう。家族ってそんな風に繋がっていくものなんだ。
「ハルは毎日なにしてた?」
「僕ですか?朝おきて出勤。帰ってきて就寝です」
「出かける前は?」
「あ~母さんと朝ごはん作ってました」
「ほお、広美さんと」
「そうです。ミネさんのレシピを教えなさいって。色々作りましたよ。料理しながら話すのが意外と楽しかったです。「今日こんなお客さんが来たんだよ」「理さんが怒っちゃって」「トアさん節が炸裂」なんていう、内容は面白いものとは違いますけど。話をしなかった時期がそれなりにあったから、その埋め合わせみたいなものかな。かあさんも楽しそうでした」
「そっか、よかったな」
「手際が私よりいいのが腹立たしいわ!なんてプリプリしたり笑ったり。俊明が何もできないから仕込もうかなって。一人暮らしを始めたら苦労するだろうからって。今洗濯の特訓中みたいです」
「え?洗濯って服いれて洗剤いれてスイッチオン!だけじゃん」
「色物とわける。柔軟剤いれる、いれない。週に一回は乾燥モードにして、月に1回は洗濯槽のクリーンをする。洗う前に服のタグを見てネットに入れる、入れないとか、色々あるじゃないですか」
「そう言われればそうか」
「俊明の洗濯物だけ別なんですって。自分で洗いなさいミッション。可笑しいのは最近服を買いにいったら店員さんに「家の洗濯機で洗えますか?」って聞くんだって言ってましたよ。クリーニングって言われたら買わないらしいです。洗濯機使えるようになるって、洗濯以外にも影響あることに僕がびっくりでした」
「あ~そういうのもあるね。物事なんでもそうだけど」
「余波です、余波」
「朝おきてボケボケ話ができるのって幸せ!!」
「えへへ」
「今日はハルと料理ができるから、さらに幸せ!!」
「僕もです。今日ネギが安かったらネギ味噌つくりませんか?北川家レシピです」
「ネギ味噌か」
「ご飯にもばっちり、肉や魚にも合います。野菜スティックにも最高です」
「いいねそれ。ネギ味噌でドレッシングも作れるな」
「ネギ味噌ドレッシング!!これは試作してかあさんに教えてあげよう。私のネギ味噌最高でしょ、ふふんって威張っているから、ミネさんレシピで反撃できます」
「俺のレシピもいいけどハルも考えればいい。応用は大事だからね」
「ですね、考えてみようかな。柚子胡椒混ぜたらどうかな」
「どうだろうな、ネギと合うかな?ネギどんくらいいれるの?」
「ネギネギしいくらいいれて、練ります。あたったゴマとお醤油も少し」
「じゃあ、柚子胡椒よりごま油のほうが合いそうだな」
「ゴマ油!」
「んじゃあ、ひとまず起きて、掃除と洗濯、買い出し&料理をやっつけようか」
「はい!」
「やることやって、その後またやることやるからね。覚悟しておきなさい」
ミネさんはニヤリとして僕にキスをくれた。手をのばせばミネさんがいる。髪をワシャワシャして、キスをくれて抱きしめてくれる。
当たり前だって思ったらダメなんですね。この毎朝が僕にとっても宝物だってこと、忘れないで毎日を頑張ろう。その気持ちを持ち続けたら、ミネさんとそれだけ長く一緒にいられる。そんな確信が僕の心を穏やかにしてくれた。
ミネさんのご両親がくれた宿題。僕は僕なりに向き合っていこう!そう決めました。
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