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october.15.2017 ring,ring,ring
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「皆さん、お聞きしたいことがあります」
賄いを食べ終わって皿を洗い、コーヒーをスタンバったらトアの声。皆さんってことは全員に聞きたいってことだよね?何を?気になるじゃないの。
「皆に?」
「ええ、皆さんに」
マグカップを片手にまた同じようにテーブルに着席。こういう緊急招集ミーティングは開催したことがないので楽しくなってきた。でもまさか……まさか、今から「クリスマス素敵企画」じゃないよね?それだけは勘弁して!
「あらたまって、何?」
サトルはビジネスオーラをビシビシさせながらトアに聞いた。思いつかなかった素敵企画の提案?なんて内心ワクワクしているんだよ、絶対。
「あの……ですね。相手のご両親に会う時の心構えといいますか……どうやって緊張をほぐすのか。考えただけで口から心臓が出そうになるのに、実際目の前にいるご両親にアワアワせずに話すコツを教えていただけませんか!」
トアの必死な顔をみれば、真剣に悩んでいたことがうかがえる。両親に会うって?え?それって何?そんなに話がトントン拍子?ええええ~~~
「えええ!トアさん、もしかしてプロポーズしたんですか?」
ハルがグワシとトアの手を握った。二人は仲良しさんだから……見逃そう。
「いえいえいえいえいえ!とんでもありません!そんな大それたことはまだです!」
「ほおお「まだ」ってことは「いずれ」ってことだ」
「うわ~飯塚さん、そんなこと言わないでください。僕の心をのぞかないで~」
あららら、もうすでにテンパっている。俺まで心配になってきた。坂口さんのご両親に会って格好良く「初めまして、重光と申します」なんて言いながら眼鏡キラ~ンは無理そうだ。横にいる坂口さんはハラハラしっぱなしじゃないの?考えただけで俺までドキドキしてきちゃったよ。
サトルがトアの肩を落ち着かせるようにポンと叩きながら聞いた。
「結婚話は置いておいて、トアは坂口さんのご両親に挨拶するつもりってこと?」
「……はい」
「なんでそうなったのかな?」
「あ~実は偶然が二度重なりまして。僕が義姉さんと翔と買い物をしているとき偶然坂口さんと」
「へえ~」
「次は坂口さんと買い物に出かけたら、兄さん達とこれまた偶然鉢合わせしまして」
「へえ~」
坂口さんをビックリさせてしまいました、それも二度。だから僕もきちんとご挨拶をするべきではないかと」
「坂口さんはそれ知っているの?」
「はい。今度ご挨拶に行きましょうって言いました」
「へええ!」
サトルはポンポンではなくトアの肩をバシバシ叩いていた。そこまで話が進んでいたんだ。のんびりしてそうでサクサク進行してるじゃないの、トア。
「なので……経験値のある皆さんにどういう気持ちで会ったのかを教えていただけないかと。ミネさんはどんな心境でした?」
「あ?俺?」
「はい。是非聞きたいです」
「んん……ハルとお付き合いします宣言の時は緊張はなかったかな。漲っちゃって変なアドレナリン出てたし。早く帰らないとハルがヘソ曲げて大変そうだって、そっちの心配してたかな。あ~でも、北川さんと広美さんが初めて店にきたじゃない。あの時のほうが緊張した」
「そうですか。やはり初対面のほうが緊張しますか」
「人見知りじゃないし、初対面が嫌はない。でもハルの将来かかっていたし、この店を軌道に乗せるためにはハルが必要だったから、失敗は許されないっていうプレッシャーあったしね。何とかなってくれてよかったよ。格好つけるのは無理だったから、俺なりの気持ちを精一杯伝えたかな。あの時俺頑張っちゃったもんね~」
今となっては懐かしい。
「ハルさんは?ミネさんのご両親にご挨拶したときは緊張しました?」
ハルは複雑そうな表情をしたあと笑顔を浮かべた。俺達にとってはちょっとまだデリケートなジャンルだったりするのよね。無期限の宿題がこれからどうなっていくのか始まったばかりだから。
「僕の場合はミネさんと同じです。ご両親にご挨拶といってもSABUROのオーナーさんに自己紹介したと言ったほうがいいですね。スタッフとしての僕だけです。それ以外の面でご挨拶するのは……まだまだ先のことになるでしょう、きっと」
立ち入ったことを聞いてしまった!というトアの顔。ハルは笑いながら「大丈夫ですよ」と言っている。頼むトア、同じことをサトルに聞かないでくれ。そっちはそっちでそれなりにデリケートなんだから。
「理の実家に一緒に行くと、いまだに緊張はするけれど大分なれたかな。最初はどうしたものかとドキドキしたけれど、ルームシェアをしている同僚という肩書があるから考えすぎないようにした。紗江さんと兄さんのおかげもある。それに綾子の顔を見に行くという理由もあるし、どうにかなっているよ」
さすが飯塚。サトルにトアが話を振る前に自ら発言。くう~男前だねえ~
「じゃあまとめるよ。まず全員バラバラだし、家族構成も環境も違うから参考にならないっていう結論になっちゃう。男女ではないってあたりですでに違っているしね。ただ変に取り繕うことをしないほうがいいような気がする。俺は衛の親に会ったことがないけど、考えたらやっぱり緊張するよ。普通に「お世話になっております」って言うしかないだろうし」
「ですよね。考えすぎても駄目ですよね。わかっているのに考えてしまう。すいません、皆さんに甘えてしまいました」
親との関係は重要なパーツだと思う。蔑ろにしてはいけないことだし、親子としての関係を良好に保つ努力は必要だ。必要だけど、やっぱり最終的には自分が大事にしている相手に向き合うことだと思う。一緒にいる為に努力をする。その中にお互いの親との関わりが含まれるんだろうな。俺はようやく最近このことを実感した。
「トア、一つ聞いていいか?」
「はい、飯塚さん。なんでしょう」
「坂口さんの両親に挨拶する。それを坂口さんにも言ったんだろ?」
「はい」
「トアがどうしてそうしたいと思う様になったのか、それを坂口さんにきちんと伝えたか?」
「ええ、僕なりに。坂口さん、ありがとうって言ってくれました」
「坂口さんとの未来を見据えたからだって、ちゃんと言ったか?」
「え……と。らしきことは」
「気持ちを確かめ合ってから、いや違うな。確かめ合っているから付き合っている。
俺が言いたいのは、俺にとって理が「家族」だと実感したことで強くなれたと思う。トアと同じように坂口さんも感じてくれているのか、これから一緒にいたいという想いがあって両親に会いたいのか。それを確認したほうがいいのかなと。俺は理の両親に言葉にはできていない。でも俺と理は家族だという共通の想いがあるんだ。
それがあるとないとでは両親に会う意味が違ってこないか?
俺は古いタイプなのかもしれないが」
「飯塚さんの言っていることわかります。僕はミネさんの恋人ですと名乗る勇気はなかった。ミネさんはご両親に言うって言ってくれました。でも僕はそこの踏ん切りがつかなかったのです。
だからトアさんも坂口さんと同じ気持ちだということを確認してから決めてもいいのかなって。ミネさんと長く一緒にいたい気持ちはマンマンです。でもそれに伴わない色々はあってもしょうがないと思うので。
何を言いたいのかわかんなくなっちゃいました」
「いえ。そうですよね。挨拶することばかり考えすぎて、肝心なところが疎かでした。やっぱりよかった、聞いてもらって」
みんな一つ一つ考えや経験を積み上げていくってことなんだ。人それぞれだけど、悩んだり、考えたりしながら答えを見つけていく。答えだと思ったものが間違いだった、そんなこともあるだろう。その時は一歩下がってやり直す。
一人ではなく二人で、そして周りの皆と。
「アイテムがあったほうがいいんじゃない?」
「アイテムですか?」
サトルは手を顔の前にあげて指をヒラヒラさせた。そこには見慣れたリングがはまっている。飯塚が首からぶら下げているのと同じペアのリング。
「ゆ!ゆびわ!ですか!」
「だってほら、必要でしょ?跪いて箱をパカっとね」
「いえいえいえいえ、無理です」
「眠っている間に勝手にはめちゃうとか?」
トアは良いこと聞いた!みたいな顔をしている。でもさ~そういうのはお互い見つめ合いながら渡したいよね?俺はこっそり渡しはないだろうな。
「なんならこれから物色しに行く?この指輪買った店にいってみようか。そうと決まれば善は急げ。ほれ、いくよ、トア」
「えええ!サトルさん、仕事早すぎです!」
アタフタしているトアを横目にサトルはどんどんマグカップを片付け始めた。本気で行くんだ。ホント仕事が早いよね。
「北川、本屋に行かないか?」
「本屋ですか?そうですね、今月まだ行ってませんし。行きます!」
なんだよ~俺だけ仲間外れじゃんか。サトルはトアの腕をとって椅子から引っ張り上げている。飯塚はポケットに財布を突っ込んでいるし、ハルは荷物をとりにバックヤードに行った。飯塚はサトルに何かを耳打ちしたあと俺の傍に来た。
「北川を借りるから」
「へいへい、どうぞ」
「先に出るから」
「先って、俺お留守番だし」
飯塚はニヤリ。男前スマイル=何か企んでいますってこと。
「一緒に行って来いよ。今後の参考までに」
「参考?」
「指輪」
指輪?えええ!指輪?
「飯塚さん、おまたせしました!」
俺達のやり取りを知らないハルがトート持参でホールに戻って来た。たぶん俺は変な顔をしているだろう。指輪?えええ~なんだか恥ずかしいんですけど!
飯塚とハルは揃ってドアに向かった。ドアを閉める時飯塚は再度男前ニヤリを浮かべて俺を見た。あんにゃろ……め。
「トアと二人だとカップルに間違えられるかもしれないからミネも付き合ってよ」
そしてサトルは飯塚同様ニヤリ顔。最強カップルめ!
「ミネさんも一緒に行ってくれますか?心強い!」
トアの的外れなお礼をニャハハと誤魔化しつつ、本気で物色しそうな自分が怖い……デス。ハルとお揃い?いや~それってちょっと恥ずかしくない?それに指輪をプレゼントにするって重すぎない?保証付きのマグカップとはレベルが違うよね。でもいつ指につける?寝る時くらいしか思いつかないけど。
うわ~ってことはギュウってしたりHしているときお揃いの指輪?もしくは指輪をしたら、しちゃうよの合図?うがあ!こっぱずかしい!
「ミネ……何考えているか聞かないけどモロバレな顔なんだけど」
「うげ」
そしてサトルの先導で俺達は店に向かった。どことなく緊張したトアと、デレた俺。しゃきしゃき歩くサトル。今頃飯塚はハルを連れ出してニンマリしていることだろう。
ほんと、敵わないわ。飯塚とサトルは最強です。
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