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november.8.2017 HAPPY BIRTHDAY!!
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「おはよ」
衛は何も言わず俺をギュウと抱きしめた。なんだと、どうした?
「おめでとう」
ああ、そっか。誕生日だった。ここ何年か、自分の誕生日には衛がいる。色々な形の「おめでとう」をくれた。不意打ちの外出は二人の誕生日祝いだったし、俺のリクエストに応えるために上半身裸で料理をしたり。日付が変わるとき、そして目覚めたとき「おはよう」のかわりに「おめでとう」をくれる。
くすぐったいけれど、嬉しい。誰かが自分の生まれた日におめでとうを言ってくれる。そしてずっと一緒に生きていたいと思える相手がくれる「おめでとう」は特別だ。
「今年も約束する」
「ん?」
衛がさらに俺を抱き寄せた。
「来年の11月も俺は理の傍にいる」
「ん……」
「去年も言ったけど。毎年言えるのは幸せなことだ」
「うん、そうだね」
「こんな、恥ずかしいこと言える人間だと思っていなかった」
「はずかしい?」
「好きだ、大事だ、大切だって言葉にすること。理に「言葉にして」なんて言われていないのに、俺はけっこう言っている気がする。
女の人はよく言ってくれみたいなリクエストするけど、俺は正直言いたくなくて。そもそも好きかどうかよくわかっていない状態だったし。不思議だな、理に言うのは恥ずかしくない。しかも普通に言える」
「それって男女の差ではなくて気持ちの問題じゃない?」
「トアの言う「特別」ってことか」
「人それぞれ選ぶ言葉は違うかもしれない」
衛が俺の両頬を包みじっと見る。そこにある瞳はキラキラしていて曇りがない。こんな顔して嘘が言える人間は天才的な詐欺師だろう。衛は嘘を言わない、誰よりも俺がそれを知っている。
「モロバレな顔だぞ、衛」
「どんな顔だ?」
「俺が好きって顔」
「なら同じだな。俺が今みている理もそんな顔をしている」
ぐわっとこみあげてきた衝動が背筋を這い登る。誰にもやらない!俺のものだ!衛のこと誰もしらなくていい!俺だけ知っていればいい!
衛にまわした腕に力を込めようとした瞬間、ものすごい力で抱きしめられた。
「衛?」
「……」
「……どうした?」
「……理と一緒にいる」
「うん」
「時々何かが溢れそうになる」
「……うん」
「一緒にいてくれ」
「……衛?」
「お願いだ。俺と一緒にいてくれ……ずっと」
「衛……一緒にいるよ。お互い心を寄せてね、一緒にいよう」
毎年積み重なる誕生月。少しずつ形を変えても俺達は一緒にいる。好きとか愛しているという言葉ではなくても、かけがえのない存在であることを言い合う。そんな誕生日があっていい。
おめでとう、ハッピーバースデー、そんな言葉は沢山もらったことがある。でも、一緒にいてくれなんて言われる誕生日はそうそうない。この世の生まれたことに、そして出会ったことを噛みしめる。そんな誕生日があってもいい。
「衛が連れて行ってくれた店あるだろ?」
「どこ?」
「本屋の後に二人で初めて誕生日祝いをした店」
「ああ、あったな」
「そこに行こうよ。あの頃こんな俺達の形はみえていなかった。時間が流れても一緒にいるよって。誰にいいたいわけでもないけど、しいて言うなら過去の俺達に」
「過去?」
「色々あったけど、こうして一緒にるぞ宣言」
衛がクスクス笑った。必死に一緒にいてくれと言われるのもいいけれど、やっぱり衛の笑顔が一番いい。
「ピーコート着て行こうかな」
「あれはよく似合う」
少々照れ臭くなって衛の肩をバシバシ叩いた。衛はずっと笑いながら俺のバシバシを受け止めている。
「今年は京都いったから温泉なくていいよ。二人で誕生祝いをしよう。そしてお互いに奢り合う」
「そうしよう。デートらしく映画でも見るか。トアにおすすめを聞いて」
デート?いや~照れるぜ!うきゃ!
俺は「そうしよう」の代わりに衛をギュウと抱きしめた。誰よりも衛を笑顔にできる存在で居続けよう。甘えたり甘やかしたりしながら俺達の時間を作っていく。そして来年の誕生日にまた同じことを言い合うんだ。
『一緒にいよう』ってね。
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