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december.21.2017 中断って困るのよね~
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15:30過ぎ。そろそろ動くかね~18:00の予約がはいっているし。よっコラショっと立ち上がろうとしたタイミングで電話がなった。予約の捌きはサトルにまかせているから当然のように電話にでてくれる。
太郎と二人の時は太郎が対応しきれず結局電話を替わることになって手が止まることが多かった。作業を止めて、手を洗って、水気を拭いて電話を受け取る。お客さんと話をして……また手を洗って中断していた作業に戻る。でもモノによってはリカバーが無理な作業もあるんだよね。茹で卵はタイムオーバーすれば魅惑の半熟がハードボイルドになっちゃう。野菜の茹でも同じ。
鍋の様子や食材を横目に対応すると肝心なことを聞き逃したり。ほんとね、厨房と電話ってこれ以上ないってくらい相性が悪いのです。タイムオーバーした食材?それはもれなく賄いになるから無駄にならないけど、作業はやり直しになるから時間は戻ってこない。
でも今はデキる男サトル様が一手に引き受けてくれるから安心。たかが電話でしょ?と思いがちですが一本の電話は色々な作業に影響するのです。事務仕事の人もそうじゃないのかな。電話を受けて切ったあと「え?どこまで入力したっけ」「うわ!アポに遅れそう」「すっかり忘れていた。予定組み直さないと」なんてことになるよね(あくまでも想像ですが)
「少々お待ちください(スマートに保留ボタン)ミネ?」
「あい」
「急なんだけど17:30に3000円コースいける?」
「え?今日?」
「そうなんだよ。森山さん4名で。急に人が来ることになったんだって」
頻繁ではないけれどソコソコ来店してくれるお客様だ。ミニオーナーの会員にもなってくれているし、オードブルやお弁当でもお世話になっている。コースは基本前日までの予約だけど、出来るときは受けることもあります。勿論お断りする場合もあるけどね。
「テーブルは空いてる?」
「大丈夫だよ。それに17:30なら20:00にはテーブルが空くはず。回転できるよ」
「了解!お受けしてください」
電話に戻ったサトルを見ながらメニューを考える。ああ、このお客さんグラタンが大好きなんだよね。さつま芋と黒豆のね。グラタンと……盛り合わせは今日仕込んだスモークチキンがあるし、アクアパッツァと……ええと。
「村崎、さつま芋あったか?」
「たしか3個残りがあったはず。それでグラタン仕込んじゃって。17:30だけど17:00までには仕込み終えないと。他にもすることあるし」
「そうだな」
ということで厨房チームは作業に突入。ランチで欠品した食材の補充、野菜を打って~ソース作って~ドレッシングも作らないとね~ああ、ジェラードも作っておいたほうがいいだろうな。
アイスクリームメーカーでジェラードを作りながらミキサーでドレッシングをウィ~~ンと作る。業務用のドレッシングも沢山種類があるけれど、原価を考えたら手作りしちゃう。しかも美味しいし。3日くらいで使い切る量しか作らない。だって防腐剤も何も入ってないからね。フレッシュなうちに使いきるほうが安全。
「ダメかもしれない」
鼻歌フンフンで作業に没頭していた俺に届いたのは飯塚の声。『その声は懸念を滲ませたもので思わず飯塚の顔を見てしまった』 みたいな声よ。ダメってなにが?どっちにしてもよろしくないことだよね。
「なにが?」
「芋の状態が悪い。皮を剥いた瞬間から色が変わる」
「え?ヤラピンがすごいってこと?」
「ヤラピンじゃない」
ヤラピンって何?な皆さんに解説。さつま芋を切ると包丁に白い液体がつくじゃない?あれがヤラピン。切断面が空気に触れると出まくるので水にさらすのはそのせいです。ヤラピンは便秘に効くらしいですよ~
飯塚が言うにはヤラピンではないらしい。
「水にさらしてみたが水の濁りが半端じゃない」
「え~」
飯塚の言う通り、さつま芋君はクリーム色ではなく微妙な緑が繊維に沿って乗っている。
「これ古いんじゃないの。八百屋のおっちゃんに文句いわないと。証拠として取っておいて」
「それはいいが3個とも全滅。グラタン何にする?ベーコンと玉ねぎ、黒豆だけってわけにはいかないだろう。買いに走るか?」
「ん……いや、誤魔化しはやめておこう。大束の芋はこの辺りじゃ手に入らないし。何か代わりのものがないかな。さつま芋系の何か」
「じゃが芋なら何のひねりもない」
「だよな~ホックリ系……ホクホク……美味しそうな色」
飯塚がピューっとバックヤードに消えた。冷凍庫に何かいれてあったっけかな。う~ん、こういう不測の事態って結構ダメージなんだよね。精神的にというより時間的に。問題解決するために費やした時間は後手への近道。終わっているはずの作業も中断。問題解決しないと先には進めないというダブルトラップ。
真空ビニール袋を手に飯塚が戻って来た。ああ!あったね!南瓜様!
「これならいけるだろ?」
「さすが飯塚!雪化粧だったよな」
「さつま芋が入荷待ちだったので雪化粧をグラタンにしました。そう格好つけて言ってもらおう」
「「雪化粧?」「ええ、カボチャの品種です。皮が白いカボチャなんですよ」「へえ~そうなんだ」なんていう会話を繰り出してもらおう、もちろんサトルに」
「時間がないぞ」
「うえ~い。んじゃカボチャは300wで加熱しよう。ジワジワいかないと固くなるから。そっち頼む、俺は自分の分担をやっつける」
ドレッシングを容器に移して~ジェラードも移して~~そして器具を洗う。作業をすれば成果もでるが洗い物も結構な量になる。調理器具、ボウルなどなど。仕込みと洗いを同時進行しないとこれまた大変なことになるのです。
飯塚はホクホクにカボチャを解凍&加熱した。ホワイトソースにカボチャをいれて粗くつぶす。カボチャの食感を残しつつカボチャをホワイトソースに溶かして綺麗なオレンジ色に仕上げる。黒豆の黒がキリっときいているし真っ白のモッツァレラのシュレットが上にのるからコントラストがいい。
「カボチャの備蓄も悪くないな」
「来年の秋はもう少し冷凍してもいいかもよ。カボチャ団子はメニューにならないかな」
「芋餅と同じか?」
「そうそう。でもバター醤油じゃないほうがいいかも。バターとは合うけど醤油よりもっとスッキリしたものができないかな」
「カボチャと言えばシナモンか?」
「ああ、スイーツよりの仕上げもいいかも。アツアツのカボチャ団子の横にジェラードとか」
「シメパフェ風にか?」
「おおお~~飯塚君、それもアリじゃない?」
忘れないうちにミネ帳!ミネ帳。
「ミネ!大丈夫なの?4:30回ってるよ!お客さん早めに来ても対応できるようにしないと」
あららサトルにみつかっちゃった。
「ほいほい、大丈夫よ。あ~3000円コースのグラタン、さつま芋じゃなく雪化粧でいくから」
「了解。あとで説明聞くから。正明!ウエィテイングのパンはOK?」
開店時間を前にホールも厨房も慌ただしくなる。
食材は一定していない。剥いて割って開いて味をみてみないと中身がわからない。ある程度の目利きがあったとしても「あちゃ~」なことはある。だからといって安心の為に沢山仕入れをすれば原価率があがって利益に跳ね返る。食材を無駄にするのも同様。
ただ鍋を振るだけではなく、そういう数字の積み重ねが利益を生み出し俺達の待遇に還元されるから、真剣に取り組むところだったりするのです。
脱サラして居酒屋や蕎麦屋をやりたいよ、なんていう方。そんなに甘くないから覚悟して参戦してください。けっこう頭使うのよ?情報もいるのよ?
俺達そうやって頑張っているよっていう……お話しでした。それでは本格的に仕事に戻ります!
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