アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
december.25.2017 特別な日 その2
-
「メリークリスマスって気恥ずかしくないですか?」
僕の言葉に坂口さんがニッコリ。
「いつもどおり「お疲れ様」にしましょうよ」
「ですね。お疲れ様です」
グラスを合わせて一口コクリ。シュワシュワのスパークリングワインです。坂口さんが用意してくれたランブルスコは口当たりがいい。
「BOX今年もいただけました」
「楽しみに待っていたかいがあります」
「味の感想よろしくとミネさんが」
「ええ勿論です」
腹ペコの僕達はBOXの中身を次々平らげた。パック入りのお惣菜だと「せめて皿に移そうか」という気持ちになりますが、このBOXはそんな心配ご無用です。綺麗に盛り付けられているし冷たくても美味しい。ハルさんのアイディアで1段目は冷たくてもいいもの、2段目は温めOKという仕分けがされていますが、そのままパクパク。
「いつ食べてもフライドチキン美味しいです」
「いつ食べてもって賄いででるってことですか?ずるい!」
「あ~いえいえ、試作だったり、そういうタイミングです。少しフレーバーを変えた時とか。でも結局今年もいつもの味に落ち着いたようです」
「美味しい味は変わらないでいてほしいな」
「なるほど、そういうものですか」
「味が変わったって喜ぶ人より残念がる人のほうが多いと思います」
「そう言われればそうですね」
「このBOXの料理って普段お店にないメニューじゃないですか。このBOXをオーダーしないと食べられない。しかも年に1回!
お店で食べたことのあるメニューばかりのオードブル食べたことありますけど、オードブルでしか食べられない!のほうが嬉しいですよ」
「実はミネさんと飯塚さんが毎年変えたほうがいいかもしれない議論を何日もしたんです。理さんが「去年も食べたね」って食べながら思い出すのが多数だよ。写真見て去年と同じだから頼まない」っていう理由にならない気がするな」って言いまして」
「うん、そう。だって私も「あ、去年と同じで美味しい」ってなりましたもん」
「大幅変更は必要ないということでしょうかね」
「変わるにしてもお店のメニューと被らないものがいいかな。これをオーダーしないと食べられませんっていうのに女子は弱いですよ」
「そうですか、参考意見として伝えます」
「このテリーヌも美味しい。テリーヌって不味いものだと思い込んでいました。ホテルの結婚式で前菜にでてくるの、美味しかったことがなくて」
僕の心臓が100万ボルト飛び跳ねました!まさか、まさかのテリーヌがこんな破壊力を持っていたとは!!落ち着くんだ重光稔明。冷静な僕でいないとダメなのだ!今ここでハルさんに「トアさん大丈夫ですよ」と言って欲しい!ミネさんに「にゃはは~」と笑ってほしい。飯塚さんに背中をポンとされたい!「トア、頑張れよ」と理さんに言って欲しい。なんならモンキーバーナードがここにやってきて場を和ませてほしい。ほしい、ほしい、ほしい、ほしい!!!
「トアさん?」
「ああ、すいません。お、美味しいですねテリーヌ」
「クリスマス期間がハードだったからお疲れなんですね。ランブルスコがまわっちゃったかな?」
「あ~飲みやすくてグイグイしてしまいました」
坂口さんはアハハハと笑った「まだ2杯ですよ」って。
あ~僕の言動すべてが自ら首をしめる真綿のようだ。窒息しないで乗り切れるか!いや、またやりなおしのクリスマスは嫌だ。頑張れ自分!
「さ、さ、さ、さかぐちさん」
「トアさん?」
もうこうなったらヤケクソです!
「本当はイッポのように格好よく決めたかったのです。あ、イッポというのはフランス映画の「愛さずにいられない」でエッフェル塔の電気を消して彼女に魔法をかけた男性です……ええと、ええと」
「シネマレストランにでてきましたね。年下くんリーマンが格好いい女性の食べ物の世話をするエピソードでした。あ、私まだあれ見ていないの。トアさんDVD持ってます?」
「あれはDVDもなくてVHSを焼いたものしかないのですが、コレクションに備蓄しております!ええとそうじゃなくって!!」
テーブルに向かいあっているからこんなことになっているんです。ちゃんと目をみて、もっと近い位置で、坂口さんの前にいかないと。
あぐらをほどいてヨタヨタと坂口さんの前に移動した。変な生き物みたいになっていないだろうか。いや完全になっているはずだ。もうどうにでもなれ!いやどうにでもなってはダメです!どうにかせねば!!
「坂口さん!」
「は、はい」
「格好悪くてすいません!」
坂口さんがふんわり笑ってくれた。それを見てまだ何も言っていないのに泣きそうになる。
「僕と‥…僕と」
坂口さんは微笑みながら僕の手を握ってくれた。バクバクしていた心臓がヒューンとおとなしくなってホカホカと温かくなる。やっぱりあなたは特別だ。
「僕と結婚してください。いろんなことを坂口さんと一緒に……僕と生きてくれませんか?」
映画のようにはならなかった。サプライズも用意できなかったし、拙い言葉しか言えなかった。
坂口さんはクスっと笑ったあと握った手を持ち上げた。
「トアさん、立ってください」
「え?あの僕は今……坂口さんに」
「立ってください」
訳がわからない、そう感じながら僕は立ちました。床に座る坂口さんはニッコリ笑って跪いた。僕の左手に坂口さんの左手が添えられる。右手はポケットの中へ。
「トアさんが言ってくれなかったら私が言うつもりでした。25日にって」
右手に光るシンプルな指輪を見て、身体も心も一緒くたになった何かがこみ上げる。僕の薬指に指輪がふんわり収まった。
「返事は勿論喜んで。トアさん、私と結婚してください」
「映画だと……あの……男性が跪いていて……」
「いいじゃないですか。私とトアさんはこういうプロポーズでしたって。映画より面白いし特別です」
しゃがみこんで坂口さんをしっかり抱きしめる。力いっぱい。想いを込めて。
一緒に生きてくれる人に出会えました。もうこうなったらどの神様でもいいです。本当にありがとうございます。僕は幸せです。
でももっと幸せになります……坂口さんと一緒に。喜びに満ちた時間を積み重ねます。
坂口さん……ありがとう。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
472 / 474