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chapter4 ヤサ男怒る! <8月>
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「盆は帰るのか?」
「3日しかないだろ?家でゴロゴロしていたいところなんだけど。」
もう少し甘くしようかな。半分だけいれたガムシロを全部投入することにした。北とはいえ夏は夏。ビアガーデンだって開催されている短い夏本番な季節。スーツ姿で移動はやはり暑い。予定より早く終わった打ち合わせのおかげで俺は大好物のアイスラテにありついていた。
「実家に帰らないなら彼女とまったり過ごすってことか?」
「そっちも夏季休暇ってことで・・・いいかなと。」
「うわ、放置かよ。」
放置というか、なんというか・・・俺はもともと恋愛度が低いから別に逢わなくても気にならない。
オハヨウとかオヤスミとか押し寄せてくるメールを捌くにも一苦労だ。何をしているのか気になればこっちから聞く、聞かれないということは気になっていないということなのだよ、おわかりか?そう言ってやりたいものだが・・・さすがにNGワードだということくらいはわかる。
ふう、だから俺はやめておいたほうがいいよって最初に言ったのに。
メールの返事がこないとぶーたれられたところで、カワイイな~なんて思う男じゃないのだよ、俺は。
「ばあちゃんの初盆だからさ、やっぱり手ぐらい合わせにいかないと。一泊してすぐ帰ってくるつもり。飯塚は?」
「家にいるさ。ゴロゴロと。」
うわ、憎たらしい。いいですね、ゴロゴロできて。
「武本の実家ってどんくらいかかるんだ?」
「バスなら2時間ちょいってところかな。でも盆だと道が混んでるからもう少しかかるかもしれない。」
実家に帰ったところですることはない。盆といっても商売人の家族に休みはないのだ。もともと酒屋だったがこのご時世、右に倣えでコンビニになった。姉は婿を貰って両親を手伝っている。
婿は美容師だ。1対1の完全予約制の店は田舎にあっては珍しい存在で、けっこう賑わっているという話だった。帰ったついでに散髪でもしてもらおうかなあ。飯塚も髪のびてんな・・・。
『一緒にいくか?俺の実家に。』
のどまででかかったその言葉を飲み込む。なんだかそれは言っちゃいけないような気がしたからだ。何故と聞かれてもよくわからない。まだ早い・・・そんな気がした。
<数日後>
「私も一緒に行ってもいいでしょ?」
相手の言葉に絶句する俺。「行きたいわあ~」ではなく「行ってもいいでしょ?」ってどういうこと?
「なんで里崎さんが俺の実家にくるんだよ。」
疑問よりなにより、俺はふつふつと沸いてくる怒りと苛立ちのせいで能面のようになっていたと思う。少し怯んだ彼女の顔を睨みつけながら、こいつは何様なのだと思い始めていた。
付き合ってくれと言われ続け、断りきれなかった俺も悪いのは確かだ。未だに手さぐりな俺の気持ちを放っておいてどんどん先に進む彼女をまったく理解できないでいる。
「だって間近でサラブレッドとか綺麗な牧場とか見てみたいじゃない。」
俺の生まれた町はサラブレッドの生産地だ。馬は沢山いるし当たり前のように毎日馬を目にして育った。学校に行く道すがら草をやったり撫ぜたりは当たり前にしていたし、ぽーぽーぽーと呼べばこっちに寄ってくる馬はとてもかわいい。だから馬肉なんか絶対食べられない。(いやこんな脇道に逸れている場合じゃない。)
「俺はばあちゃんの初盆に手を合わせに帰るんであって、遊びに帰るわけじゃない。」
「好きな人が生まれ育った街をみたいって、そんな怒られるようなこと?」
俺はぐっと詰まる。確かに怒るようなことじゃないかもしれないが、どうしても不快感以外の感情は沸いてこないのだ、残念ながら。
「どういう意味で言ってるのかわからないけれど、里崎さんを家族に紹介するとか、まだ全然思ってないから。馬を見たいなら友達と行ってくれないか。どうせなら桜が咲いてる時期のほうがいいだろうし。」
里崎さんはハラハラと泣き出した。泣かれてもどうしようもない・・・色々面倒だ。俺の考えていることは酷いことなのはわかるが、俺の気持ちや都合はいいのか?
3ケ月ももたないみたいだよ、飯塚。
降ってわいたように飯塚の人懐っこい笑顔が俺の脳裏に映る。俺はなんだか可笑しくなった。
気持ちは別にしておいて一応付き合っている彼女が付いてきたいと言ったことにこんなに苛立っているというのに、俺は何を思った?飯塚に「一緒にくるか?」と言いそうになったのだから。
「ハハハ・・・。」
俺の乾いた笑いが二人の間に零れる。さっきまで泣いていた里崎さんは今や俺を睨みつけている。
だからなんだ、俺が悪いのかもしれないが絶対謝ってなんかやんない。
「休み明けたら連絡する。」
俺はそう言い残して背を向けた。
恋愛度が低いとかじゃなく、とんでもない人でなしだな俺は。優しそうとか勝手に思われても、俺は優しくなんかない。ここまでイライラする自分や、突然出現した飯塚の顔とか、考えなくちゃいけないことがあるけれど全部投げ出した。
よし兄に散髪してもらって気分転換だな。
たいして解決にならないことを思いながら、駅に向かう。
男前の笑顔とうまいメシがとんでもなく贅沢で素敵なものに思えた・・・。
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