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chapter6 俺と男前・・・考える <同じく9月>
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「飯塚は結婚したいとか考えたことある?」
俺は里崎さんと別れてから自問自答していた、ずっと。結婚って・・・・なんだろう。
そもそも別れてもちっとも悲しんでいない俺がいる。
結婚ちらつかせ作戦に完全にドン引いた俺は、ゼクシイ目撃をなかった事にした。俺の雑誌置き場の一番下に埋もれさせて、存在自体も抹殺したのだが、里崎さんは俺が何も言わないことにとうとう我慢できなった。当然だ。
『武本さんは自分の将来とか考えないの?』
そう言われましても・・・。考えないわけではないが・・・しかし結婚=将来なのだろうか。
俺達の会話は平行線をたどり、互いの価値観が交わらないことを二人揃って実感するに至った。
そして里崎さんの問い。『武本さんは私のこと好きなんですか?』
そう・・・互いに好きで必要だと思えるのなら、溝や価値観の違いも歩み寄りにより違うものになるのかもしれない。だが・・・しかし・・・俺はここでやらかした。
即答できなかったのだ。「好きにきまってるだろ!」こういう場面では言うべきなのだろう。
でも、俺はこの子を好きな自分を全くイメージできなかった。
ぼおっとリフレインしていた俺に飯塚の声が重なる。
「いつかするものだと子供の時は思ってたけど。実際お年頃ってのに片足つっこみ始めて思うのは、しなくていいもんならしたくないってことかな。」
したくない・・・のか。
「俺は自分の子供を欲しいと思ったことがない。自分の分身をこの世に生み出すなんて怖くないか?北極の氷が溶けてしまうような時代に生み出していいのか?
ネットやよくわからない時代になって攻殻みたいな世界が現実になりそうだろ?
純真な子供を立派に守り切れる気がしない。子供いらないなら結婚しなくてもいいわけじゃん。
一緒にいたいならそれだけでいいわけだし、社会的責任で相手の親や親戚とか?
俺は絶対無理だと思う。」
何も考えていなさそうだと思っていたのは大きな勘違いだったようだ。
俺よりずっと将来というか自分のこと考えてんじゃん・・・負けたような気がする。
「親はなんも言わない?」
「んん・・・うちは俺の小さい時に離婚してるからさ。
彼女できたら連れてこい程度はいうけど、ドラマみたいにいきなり見合い写真が送られてくる事はなさそうかな。お前のとこは?」
「俺は恋愛欠陥人間だとねえちゃんが知ってるから。」
「なんだよそれ。欠陥人間?」
「お前の男前伝説には劣るけれど、実際の中身より穏やかに見られるというか優しいと勘違いされるというか。まあ、単に嫌な人間に思われるがイヤつうかさ、相手の言う事一回受け止めてそれから物言うとかさ、じじいみたいな外面だったせいなのか、俺が誰かを好きになる前に、誰かが俺を好きになってスキだって言ってくれるわけ。
嫌いじゃないからつきあうんだけど、好きってことがよくわかんないっていうか・・・
かわいいとか思うし、ヤルこともできるんだけど。恋愛で自殺しちゃったり殺したりする人いるじゃん。不謹慎かもしれないけど、羨ましいっていうか、そういう心情を経験したいかなって思う。これ姉ちゃんに言ったことあってさ・・・恋愛欠陥人間だって言われた。」
飯塚はソファから起き上がると台所に向かいビールを持ってきた。
「飲み過ぎじゃね?今日。」
「いいんじゃね?、休みなんだし。」
俺達は黙りこくってビールを飲む。俺がこの話を誰かにしたのは初めてじゃないからこの先の会話は容易に想像できる。『本当に人を好きになったことがないんだね』←これがまもなく言い放たれるはずだ。
「わかるよ、それ。」
へ?なんですと?
「自分が誰かを好きになる前に、いつも誰かが好きだ好きだと攻めてくるわけだろ?
気持ちに応えようとしているうちに疲れてしまう。それを繰り返していたらさ、誰かを好きになるなんて一生ないんじゃないかと思ってしまうよ。」
ええええ~!初めて聞いたぞ、こんな反応。
(若干なんか自慢が入っている気がしないでもないような、そうじゃないような。)
「だからさあ・・・武本。」
「ん?」
「次は断ってみろよ。たぶんまた好きになれないうちに終わってゲッソリするだけだから。
別にお前が悪いわけじゃないのに、自分が悪者みたいに言われるわけだろ?」
「でもまあ。向こうからしたら、好きでもないのに付き合って煮え切らんみたいな話だろうから、俺自分が悪くないとか思ってないし。うん・・でもそうだな、今度は断ってみようかな。」
「それがいい。俺はそれでけっこう気が軽くなった。断る時に悪いことしたような気になるのはどうしようもないけどさ、1回で済むし。」
そういえば、こいつから彼女がどうしたとか聞いたことがない。
入社して3年が俺達の付き合いだけれど、その間ちゃかしても真面目に聞いても「彼女がいる」っていうのは聞いたことがない・・な。
「好きな人間ができたら意地でも落とす。それまで無駄な努力はしないことにした。」
うわあ、すげえこと言ってらっしゃいます。
「ふ~~ん。じゃあ、お前の横に誰かがいれば、それがやっきになって落とした子ってことになるなあ。なんか楽しみだな。一番に紹介してくれよ。」
「お前もな。」
「そうだね。」
「ビール飲んだら小腹がすいたな、ソーセージ食う?そのあとあんかけ焼きそばにする。」
「食べる、食べる。ソーセージはマスタードとケチャップたっぷりで!うまそう!」
ビールのお代わりをとりにいこうと立ち上がった俺の背中に聞こえた飯塚の声。
「お前ぐらい素直でかわいいといいのにな。」
うわ~これはいけません。頭クシャと同じで、こそばゆいというか知らない方がいい何かが背中をすべっているような・・・。だからお返しをしてやることにする。
「お前みたいな料理上手だといいのにな。」
そのまま背をむけて冷蔵庫に向かう俺、あっぶねえ、あっぶねえ。
(えっ、何が?・・・あぶないって・・・)
でもまあ、こういうの、悪くないって思うんだ・・・よな。
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