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chapter12 距離 <1月>
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「そういや帰ってくるのいつなんだろうな、聞きそびれた。」
大晦日と元旦は両親の所に顔を出してきた。それぞれにもう家族があるから足が遠のいて久しいが、年に一度ぐらいは形ばかりの親孝行に重い腰をあげる。
武本の家は商売をやっているから休みではないだろう。うっかり店番をやらされているかもしれない。(コンビニの制服姿・・・想像できない。)
武本はなかなか本調子にならず沈んだ様子は続いていた。体調は戻ったと言い張っていたが、目の下に隈。寝不足になるほどの悩み事?
何も聞くなと言われてしまえばそれ以上突っ込めない。「大丈夫だ。」を連呼する武本に呆れつつも結局心配で・・・俺も寝不足になりそうだった。
社内の忘年会に加えて取引先にも呼ばれることが多く、年末の仕事とつきあいでヘトヘト。
武本の家に泊まったのが最後で、それからあいつの家に行ってないし、俺の家にもこなかった。
メシぐらい食わせてやりたいと思うのだが、金曜の夜は飲み会ばかりだし、食べるためだけに家にこいと言えないような有様だった。
泊った日、普通に朝を迎えてメシを食わせて薬を飲ませて帰ってきただけなのだが、なんとなく俺達の間の空気、距離感、そういったものが微妙に変化した。どうしていいのかわからない、そんな状態だった。
そのまま迎えた仕事納め。「正月は実家帰るんだ。開拓おかき全種類買ってこいって言われたよ。大丸混んでるだろうな~」そう言って会社をひきあげていったきりだ。
電話かメールをすればいいのだろうが、携帯をぼんやり見つめたり手をのばして引っこめてを繰り返す。なんだかひどく情けない気分だった。
正月休みもあと2日。週があけて月曜日がきたらまた出社の日々がはじまる。
こういう時の月曜は「憂鬱な月曜日」なんていう例えでは全然足りない。この世の終わりな月曜日、死神さんの祝日、最後の審判な月曜日・・・一人でいるとロクな考えが浮かんでこない、つまらない。
映っているテレビはありきたりの正月番組。消してしまおうとリモコンに手をのばしたら床に転がっていた電話が鳴りだした。まさか!
『武本』-しかめっ面の画像が映りこんでいる。
「・・・よう。」
『あ、俺だけど』
「帰ってきたのか?」
『うんさっきね。バスすっげ~混んでて疲れちゃったよ。』
「そうか、みんな元気だったか?」
『うん、かわりなくね。』
会話が途切れる。いつもみたいに言えばいいじゃないか「腹へってないか?」と。
そして思い当たる、今日は土曜日だから誘ってもいい曜日だ。
「 『あのさ』「それで」 」
二人の声がかぶる。ここで待っていてはいけない。
「どうせ冷蔵庫からっぽなんだろ?疲れてすぐ寝るっていうならあれだけど、腹減ってんならうちこいよ。」
電話の向こうからホっとため息が聞こえてきた。
『何か食べさせてくれないか?って・・・電話したんだ。』
「リクエストあるか?」
部屋のすみにあるラッピングされた箱に。ずっと渡そうとしてそのままになってしまったシャツ。
『和食意外がいいかな。茶色いものばっかり食べてきたから。』
「よしわかった、気をつけてな。」
うっかりいつも言わないようなことを言ってしまった・・・。
電話を切って冷蔵庫を確認すると人のことを言えない有様。急いでコートを羽織り財布を掴んで家を出る。茶色くないもの・・・・頭のなかで献立を考えながら急ぎ足でスーパーに向かった。
「そそ、こういうものが食べたかった!」
茶色じゃなければ白、赤、緑、黄色・・・。サラダとトマトソースのパスタ、もちろんバジル付。
デビルドエッグで黄色も万全だ。
「びっくりした?変かな。気分転換にね。」
久しぶりに見たら、えらい髪が短くなっていた。坊主というわけではないがスッキリとしたカットは絶妙だ。今までのも悪くなかったが、これはこれでいいと思う。
「前よりソフト感が落ちて男っぽくなったかな。」
「じゃあ、狙い通りだ。」
「狙い?」
「そ、俺、周りが思うほど優しい人間じゃないから。」
何を言い出すんだ、コイツは。
「年末使い物にならなくて迷惑かけた。助かったけど、大変だっただろ?」
「大変も何も、俺が体調崩した時とアイコだぞ。」
「いや、体調もだけどさ・・・俺暗かっただろ。考えなくちゃいけないことがあって、あんまり寝られなかった。」
まさか、また誰かに告られたわけじゃないだろうな。
「考え事?」
「・・・うん。」
そういって武本は俯いた。俺はじっと待つ。もしどこかの女がちょっかい掛けてきたなら言ってやる。『次は断る、そう言っただろう?』と。
「答えはでなかったけど・・・悩んだところで解決しないってことだけはわかったんだ。だから成るようになるさって思うことにしたから。だからもう大丈夫。悪かったな。うし、この話はこれで終わり。いっただきま~す。」
全然大丈夫に見えない武本は笑みを見せながら料理にかぶりついた。それがいつもよりわざとらしく、そして強がっているように見える。
隣の部屋に置いてあるシャツの包み・・たぶん今夜も渡せない。
こんなことならさっきまであったように、この部屋の隅に転がしておけばよかった。「もってけよ、例のシャツだから。」なんて言って渡せたはずなのに。
いつになったら今までの俺達の時間が戻ってくるのだろうか?
武本の落ち込みはのちのち解消されるのだが・・・手を差し伸べたのは俺ではない。
武本を救ったのは、俺ではなかった・・・。
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