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その2
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絶対上を見ないと決めていたはずが、思わず課長の顔を見てしまった。
「若造の頃の俺は・・・お互い取り返しのつかない場所に片足つっこんでいるってことがわかっていた。それで・・・なかったことにしたわけ。ちょっと強烈な方へ友情が発酵しただけだ、友情以外の何物でもないと言い聞かせた。」
「なかった・・・ことに。」
「そうさ、そんなことはありえないと蓋をしたんだよ。俺はアイツに蓋をかぶせて、俺も同様ズッボリ栓をされた。『取り返しのつかない事』そんなふうに考えたから、俺達には越えられなかった。」
そんなことがあったのか・・・結婚する前の話なんだろう。課長の愛妻家っぷりは有名で社内のネタになっているくらいだ。
「別にそれを後悔しているわけじゃないし、自他ともに認める愛妻家の今は幸せ以外の何物でもない。なんていうの?お前ら二人が横並びで歩く姿は、昔選ばなかった道の未来みたいに思えてさ。
代償?昇華?なんとでも言え・・・ま、そういうことだ。お前だって俺に勝るものが一つくらい欲しいだろ?だから突き抜けちゃえよ。」
「随分簡単に言いますね。」
「そ、物事って突き詰めると単純明快。」
俺は飯塚が好きで、課長の言うように横並びで歩き続けたい。二人の見る先が一緒であればなおいいと思っているし・・・俺と同じように思ってくれることを望んでいる。いたって単純明快。
「そろそろ始めちゃってもいいかなって頃合いにきたし。」
「何をですか?」
「SABURO使って、大々的に遊びを初めてもいいかなってこと。色々ごったまぜにして巻き込んで、プロデユースのパッケージを作ってしまう。それを叩きにして、次のターゲットを得る。」
「課長の頭の中のことはサッパリです。」
「大丈夫だよ、お前ならついてこれるさ。店側と話はついてるし。」
「ミネ、あ、村崎さんと?」
「実巳のほうじゃない、オヤジの三郎。」
「し、知り合いなんですか!」
「うん。」
どこまでこの人は俺を驚かせるんだ!でもそう考えると、飯塚のやりたいことを知っていたのも頷ける。ミネとこの人グル?・・・なんかちょっと、それは嫌だな。
「あ~もう、そういう顔しなさんな。実巳は俺がお前らの上司だなんて知らないぜ?
実巳は俺に「高校時代からの友達が入り浸ってて助かる。」と楽しそうに言っただけだ。
それが飯塚だってわかったときの俺の喜びっぶり、わかる?」
「筒抜けだったってことじゃないですか・・・なんか色々考えて、必死だった自分がバカみたいですよ!渡辺と石川にも申し訳ない気分です。」
「そんなことはないぞ。」
ノラリクラリといつものように話をしていた課長の顔が急に真面目になった。
「お前の一生懸命さが俺を動かした。会社っていうシバリ以外の所で、一緒に遊んで楽しめるヤツにようやく出会ったの。実巳と飯塚と俺と武本で、少しヤンチャをしてみよう、楽しそうだろ?」
「だろ?・・・って言われても、俺なんて言えばいいんですか。」
「実巳の父親には兄貴がいたんだ。そいつから死ぬ前に「三郎を頼むって」言われてるわけ。
だから今より悪いことには絶対しないし、するつもりもない。
実巳と飯塚が友達で、武本と飯塚がいて俺がいる。偶然ってのはあまり好きじゃないないが、偶然を必然に変えることは大好きだ。この縁は絶対神様が「今だぞ!」って言っている、間違いない。
しばらくは二足の草鞋になるから、俺もお前も超ハードになるぞ、覚悟しとけ。」
やれやれ・・・
でも人の縁は不思議だ。まるで別々の場所にいたというのに、今同じ所に立とうとしている。
ミネの父親の三郎さんと亡くなったお兄さん、後を頼むと言われた課長、そして俺達。
ん?・・・・お兄さん?
『アイツに蓋をした』
『選ばなかった別の道の未来』
もしかして・・・?!
思いつきが確信に変わる。そうでなければ、自分の微妙な昔話をするはずがない。でも、聞いた所でこの人が言うはずがないし、否定だって肯定だってしない。
じゃあ、それに付き合えばいい・・・それが答えだ。
「じゃあ、具体的にどういうものを目指しているのか聞かせてください。」
課長は頬杖をつきながら笑った。
「やっぱり、お前はイイね。今回は『わかりきってることは、知らないふりをしとけ』が正解。」
・・・俺の推理は肯定された。
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