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July 5.2015 大ピンチ5
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「お疲れ~。なんだか今日はうまいことまわった感じ?売り上げもよかったし。」
「そうなんですよね、お客さんをあまりお待たせしなかったし。」
「ドリンクの売上がいい。正明頑張ったな。やっぱり、思った通りだったよ。」
理さんは売上伝票をざっと確認したあと言いました。思った通りとは何ぞや?です。
「ミネと飯塚でメニューを根本から見直したから利益率はあがってきていた。でももうひと押したりないと思っていたんだよ。やっぱりサービス面だね、課題は。」
「固定スタッフでまわしていかないと、売上増加には繋がらないって感じている。ハルは良くやってくれてるけど、今経験を積んでいる段階だしね。」
「正明は対応力があるよ、今日見て思った。」
うわ、褒められた。気恥ずかしいけど嬉しい・・・な。
「今日の動きを説明するね。まずドリンクに関して。料理に比べて利益を上げやすい。グラスに注ぐ短時間だけでお金に変わるだろ?
グラスが空になった時に、「何かお持ちしましょうか?」と聞けば、じゃあ何か飲もうかなって思うわけ。
「もう結構です」と言われたら、そろそろ帰るという目安になるから、ウエィティングのお客さんにどれくらいの待ち時間になるか提示できる。」
「何かお持ちしましょうか、だけで・・・そんなに色々。」
「そういうこと。」
席にご案内して、オーダーをとる、出来た料理を運ぶ。あいた皿を下げる。僕がしていたのは作業であって、サービスじゃなかった・・・。
「料理を取り分けるとね、皿があくでしょ?ちょっとだけ料理が載った皿でも皿なわけ。
テーブルにスペースがないと、追加はしないのが人の心理だよ。グラスと一緒、何もなければ「何かお持ちしますか?」と言える。
サービスとして取り分けるけど、こちら側の事情もあるってこと。
女性同士、男性同士は問題ないけど、カップルや合コンみたいな時は様子をみる。料理をとりわけて「気が付く女」をアピールしたい人もいるからね。
そういうときは任せる。もし料理が少しだけ残っているようなら、サイズの小さい皿に盛りかえて、スペースをつくるんだ。」
「サーバー使うのって難しいですか?」
「練習すれば誰でもできるよ。持っておいで。」
サーバーを二組、急いで取りに行く。
「気が済むまでやってていいよ、片付けはこっちでするからさ。」
「ありがとうございます!」
ミネさんは、こういうときホント優しい。少しばかり誇らしげな飯塚さんはどうかと思う。俺の武本はデキル男だろ?とか思ってんの?
面倒くさい!
「俺が教わったのがジャパニーズスタイルだから、これしかできない。ウエスタンのほうが簡単らしいけどね。というわけでジャパニーズスタイルを伝授するよ。まず箸を持つように上をフォークで下がスプーン。箸みたいに持って?」
「はい、持ちました。」
「じゃあ、中指を始点にして人差し指と親指で回転させて、フォークとスプーンが向かい合うようにする。」
指が・・・つりそうです!痛いし、これでサービス?ありえません!
「具材を盛り込んでソースは下のスプーンですくえばいいし、箸をイメージすれば行けると思うよ。」
「い・・・けません・・・。無理。」
理さんは僕がギクシャクした動きしかしない右手を眺めて面白そうに笑う。
あのね、こっちは必死です!
「俺バイトの時さ、このサーバーでマッチや爪楊枝20本を皿から皿に移動できるまでタイムカード押してもらえなかった。」
「まじですか!そんなブラックな勤め先、告発もんですよ!」
「そこに差がでるわけ。バイト代を満額ほしい人間は家で練習するか早く入る。仕方がないなと目減りするバイト代を諦める人もいる。そういうスパルタな所はタメになったけど、一番大事なことを教えてくれなかったかな。」
「大事な・・・こと?」
「そ、お客さんが笑顔で帰ること。今日は楽しかった、美味しいものを食べたって。
正明も思うだろ?ミネや飯塚の料理は旨い。でも二人は客に直接皿を出せないんだ。お客様と厨房の間で橋渡しするのが、正明だよ。」
そういう・・ことか。賄いにだって手間がかかっていて、それをありがたいと感謝する気持ちを持った。
見ず知らずの誰かの為にベストを尽くすシェフがいる。
その代弁者が僕だというのなら・・・すべてを見直さなくてはいけない。
「そういうことだよ、正明。お前は賢い、そして人の心を受け止めることができる。
それをそのまま、お客様に出せばいい。あのオードブルの時、ミネの作る物は旨い!って思っただろ?それを素直に伝えてあげればいい。」
「僕・・・ここにずっと居たいです。」
「ミネが大喜びだろうな。俺も正明がホールにいたら安心できる。」
必要とされるということ、それを初めて体感した僕は、正直震えました。
恋愛感情とは違う・・・僕の能力や人間性を好きだと言ってくれている。
必要だと・・・言ってもらった。
知らなかった、それがこんなに心地いいってこと。
しかし問題が・・・就活がまた遠ざかりそうです!
(ごめんなさい、お父さん、お母さん)
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