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July 29.2015 両親襲来
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「ミネさん!来ちゃった!」
焦った顔満載のハルが厨房に来た。時刻は13:25。ラストオーダー約30分前という絶妙な時間、かつ平日。ハルの焦りようは、主語のない言葉に明確に現れている。こんな事はめったにないから、よほど動揺しているに違いない。
俺だってちょっとドキってしちゃったよ?
「生理がこないの・・・。」と同じくらい緊張するじゃない。「親に逢ってくれない?」ってのはね。そう、まさに今がそれ。ハルのご両親のご来店でございます。
「何が来たんだ?」
「ん~ハルの親御さん。」
「それはそれは・・・。」(飯塚!・・もっと元気のでること言って!な気分)
「ハル、いつもどおりにな。昼休み後半組はまだ来る時間帯だし、もうひと踏ん張りだ。ちゃんとご両親のオーダーもとってきなさい。」
「はい。」
「大丈夫、俺を信用しな!ほら、頑張るぞ、ホール戻って。」
ハルはペチペチと頬を叩き気合いをいれなおしてホールに戻っていった。江別から札幌はわずかの距離だし、父親の勤務先も札幌だ。お休みの日にのんびりいらっしゃるのかと思いきや、平日に不意打ちとは・・・なかなかやってくれちゃいますな。まあ、そんだけ子供が心配ってことだろう。
一皿くらいサービスしなくちゃいかんなあ。あまり気合い入りすぎて裏目にでてもまずいし・・・。
直感で2品作ることにする。
飯塚は俺を見て何をつくるのか察したようで、バルサミコでドレッシングを作り出した。
「オーダーお願いします!ポモ2です。」
「はいよ。」
シンプルなパスタだったから、出そうとした料理とバランスもとれる。
「お願いしま~す。」
お願いしますと厨房から声をかければ料理があがったサイン。
ハルがやってくるまでの間に盛り付けの最終チェック。うし、うまそうだ。
「はいこれ、ブロッコリーのガーリックオイル和えとカプレーゼ。ブロッコリーはビタミンCがみかんの4倍だぞ?お肌にもいいし疲労回復にもなる万能君だ。カプレーゼは特製バルサミコドレッシングでどうぞ。これはご両親への賄賂!」
「ありがとうございます。」
「いつものように、いつものように、わかった?」
「はい!」
素直でよろしい。
カウンターに座っていたすずさんが不思議そうにやりとりを見ていた。
「何かあったの?実巳君。」
「卒業したらここで働いてもらおうと思ってるんですよ、ハルにね。でもご両親が心配しちゃって乗り込んできたってわけ。ラストオーダーになったら俺真剣に説得というかお願いしなくちゃいけなくて。」
「あら、そうなの?ハル君いなくなったら私だって困る!」
「心の中で応援してください。」
「あからさまに応援して帰るわよ。チェックお願いね。」
すずさんはサクサク会計をすませてバッグを肩に掛けた。じゃね、と手をふって出口に向かっていく。あいかわらずヒールのコツコツが格好いいですね。大人の女性で仕事ができるって、眺めているだけでも気持ちがいい。ハルはすずさんの姿を認めて声をかけた。
「ありがとうございます。午後の仕事がんばってください。」
「こちらこそ、ありがとう。ハル君にそういってもらえると頑張れるわ。あなたはこの店の宝なんだから、お客さん皆を元気にしてあげて。また逢いにくるわ、じゃあね、ハル君。」
すずさんはハルのほっぺたをキュとつまんで、見惚れるような笑顔を見せてくれた。ちょっと声がいつもより大き目ですよ?すずさ~ん。
でも効果はバッチリだ、店内のお客さんが今のやりとりを聞いてハルに視線を送っている。もちろんご両親も。
出ていくすずさんに深々と頭をさげてお辞儀しているハルの後ろ姿は、すずさんの言葉を裏付けているように見えた。丁寧でイイコ、そうハルはSABUROの宝だ。
そしてすずさんが出ていった入口に二人のシルエット。
んんん・・・?何故?
「俺が電話した。応援団は多い方がいい、無愛想な俺よりいいだろう?二人揃えば最強だ。」
あはは、だね、間違いない。さすが飯塚だ、こういうそつのないところがリーマン時代の姿を想像させるね。要領よくそつなく先回りで物事を進めやすくしていたんですね、鉄仮面君。
魔法使いのおじさんとサトル様ご来店。
さあ、ニヘラオーナー実巳の出番だ。SABUROに預けて大丈夫だって納得していただきます。
頑張るもんね、俺!
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