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August 27.2015 証
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「夏は終わったね。」
俺の部屋のベランダで武本は夜風にあたりながらそう言った。
最高気温は25℃を超えることがなくなった。今朝一番気温の低かった場所が5℃以下だという、そんな気象情報も耳に入る毎日だ。
「もうこんな季節になってしまったのですね。」
そんなコメントを言うアナウンサーに共感する。
武本がSABUROに来るころには初雪が降っているはずだ。
缶ビール片手に俺はソファ、武本はベランダに腰を降ろして外を眺めている。9Fの部屋は豊平川の花火大会の時は絶好のロケーションだ。もう何年も花火をじっくり眺めたことはないのが残念だが。
ヨシさんに切ってもらった髪の評判は上々だった。(まだよし兄とは呼べない。サトルと同じくらいハードルが高い!)
「タケさんの腕は確かです!」何故北川が誇らしげなのかわからないが、村崎は羨ましがりトアでさえ美容室を教えろと言うほどだった。
来月からどうしたものか、本気でバスに乗って散髪に行くことを悩んでいる。
そしてもう一つ考えていることがある。悩んでみたり、引っ張りだしたり、押しこめたり。ひっくり返して裏返して、色々な角度から眺めてみたが、最後にいきつくところは全て同じだった。
武本に言ったら笑うだろうか。
「あのさ。」
「ん~なに?」
・・・もう一つの質問を先にしよう。
「ヨシさんが言っていた「交際期間ゼロ」で結婚ってどういう意味なんだ?」
武本はヨッコラショとベランダから降りて俺の前に座る。
「どっかの飲み屋で姉ちゃんと初めて話をして、そのあとずっとその飲み屋で張り込んだんだってさ。
それでお友達になってくださいって、よし兄が頼んでずっとお友達。よし兄は親がいない環境に育ったから、自分に向けられる好意を全部愛情だと受け取った。好意も愛情も同情もすべて「好き」
言い寄る人間すべてになびいたらしいよ。」
まあ、あの人になら可能だろう。男でも女でも常に傍に誰かがいたのは想像できる。
「少しずつ姉ちゃんはよし兄を教育したらしい。二人で色んなことをして過ごしたって、友達としてね。
それで田舎に帰るってよし兄を札幌に残して実家に帰った。
姉ちゃんがいなくなって絶望したんだって、思い出すだけでいつも涙目になるんだよ。
よっぽど身に沁みたみたい。
それで田舎に飛んでいって、両親に「紗江さんをください!」って大泣きしながら言った。
だから交際ゼロでプロポーズ。」
「あの人をそんな長期作戦で落したのか・・・。想像以上にすごい女性だな。」
「まったくだよ。」
「皆の子供だって言ってくれた。武本をよろしくって、嬉しかった。」
「俺もおじさん、飯塚もおじさんだ。」
紗江さんはキラキラしていた。紗江さんと呼ばれるのはなんかピンとこないと言われたけれど、「ヨシ兄」同様棒高跳び並の難易度だ。
お姉さんと呼べといわれて・・・呼べるわけがない。
やはり散髪に通って訓練をしたほうがいいのかも・・・。
いや、俺が言いたいのはそんなことじゃない。
「武本・・・ヨシさんに「よし兄」って呼べって言われて本当に兄貴ができたような気持ちになった。
そして子供が生まれる。
俺はこの1週間ずっと考えた。何回イメージしても同じ言葉に辿りついてしまう。
俺は武本と恋人だけど・・・家族になりたい、そう願っているってことなんだ。」
武本は持っていたビールの缶を落しそうになって慌てて両手に持ちかえた。
やはり驚かせてしまったか。
「・・・ええっと・・・。それってどういう意味?結婚したいってこと?」
「いや、そうじゃない。」
武本はしっかり俺の目を見て、ちゃんと聞いてくれている。笑いもしないし引いてもいない。
俺の真意を聞こうと真剣だ。やっぱりいい男だなと思ってしまう。
「籍を入れるとか、一緒に住むとかそういう次元じゃない。なんて言ったらいいのかな・・・。
俺にとって半身をみつけたと思えるぐらい、武本の存在は大きなものだ。
そして二人で並んで歩いていけるという想い。それを実現させてやるという気概。
同じものを見て笑って、悩んで、前進していきたい。
それは結婚を決める男女が思うことと違うような気がするんだ・・・ゴメンうまく言えなくて。」
武本は俺の言葉を噛み砕いているのか、腕を組みながらじっと考え込んでいた。
少し唇を噛んだあと、またしっかりと俺を見詰めた。
「それを考えたきっかけは?」
「ヨシさんと紗江さん、そして生まれてくる子供。皆が望む幸せと家族の形だろ?でも俺が欲しいとおもう物は違うということに気が付いた。
別に武本との子供が欲しいわけでもない。「結婚」という形をのぞんでいるわけでもない。
常に相手を思い、そして一生切れない縁を望んでいる。
どんな場所にいても、離れていても、一緒にいても・・・ずっと途切れない形。
それを言葉にしたら「家族」ということになったわけだ。」
1週間考えたけれど、これ以上の形にならなかった。互いの場所が帰る場所であり生きていく家。
そこにいる二人は「家族」じゃないのか?
「俺は・・・。
人生のパートナーだと、そう考えていたよ。結婚する男女も人生のパートナーっていう言い方をするけれど、男は子供を産めない。女性は子供を産めるけれど、それとキャリアを両立することが難しい。
お互いに平等だといっても役割が違うから完全な平等なんて机上の空論だと思う。
でもな、俺と飯塚は対等だ。互いに男で上を目指す強い気持ちを持っている。
プライベートのパートナー、そしてビジネスパートナーでもある。
それは俺達すべての世界を共有しているということだ。
だから「人生のパートナー」だと思う。お前の言う「家族」もそうだろ。
俺達の世界が一緒で、それを違う目だけれど同じように見ることができる。
俺にとって飯塚はそういう存在だ。たしかに半身かもしれないな。ぴったり合うもんな、色々と。」
色々は・・・とりあえずおいておこう。
人生のパートナー、家族。
同性の俺達の場合、世間が言う結婚と家族の有り方を実践することはない。それを望んでいるわけでもない。
だからこそ、俺達の想いが「形」になる。選んだ言葉は違うけれど、武本と俺は同じ場所を見詰めて同じ歩調で歩いている。
なんて素晴らしいことだろう。
この共有こそが愛のかたちなのかもしれない。
武本はニッコリ笑って俺の手をとった。
「いつも真剣に考えてくれているって、それを実感するのはすごくいいものだって思わないか?
飯塚はちゃんと俺を見ていてくれている。
そして俺も飯塚を見詰めている。
俺達は仲良しで、お互いを必要として、未来を共有して生きていくことを歓びとしている。
すごくいい気分だ。」
「ああ・・・心が澄みきるような清々しさがある。」
「それじゃあさ、月曜の休み。俺適当にスケジュール組んで外回りにでるから買い物に行こう。」
「買い物?」
「ファミリーリングを作ろう。姉ちゃんとよし兄と、お前と俺。お揃いの指輪。
子供ができたお祝い、俺達を認めてくれたお礼。
俺と飯塚の家族記念。」
「ファミリーリング・・・。」
「飯塚には虫除けにもなるし。あ~でも仕事中は指輪できないか・・・。じゃあ、あれだ。指輪はチェーンにつけて首からぶら下げろ。
それでランチとディナーのラストオーダーがなしってなったら、首からひっぱりだして指輪にキスしろ。」
「はああ?」
「気持ちこめろよ。武本、俺は今日もがんばったぞ~とか思いながらブチュウって。
よし決定!
姉ちゃんとヨシ兄にはサイズを聞いておく。
なんて顔してるんだよ。」
そりゃあ、こんな顔にもなるだろう。大勢の前で(特にカウンター周辺は女ばかりだというのに)指輪にキスだと?考えただけで顔から火がでる!
「言っておくが俺だってするぞ会社で。」
「えっ?」
「社員がなんとなくおやつ食べてダラダラしている時に、みせつけてやる。
想像してみろよ、俺がお前を思って指輪にキスしている姿。」
・・・・それはいい眺めだ。
武本の姿を見て、女どもは悲鳴をあげればいい。
「わかった・・・する。」
ファミリーリング・・・それは二人の証と家族のしるし。
そして・・・虫除け。
まあ・・・いいか、いいことにする!
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