アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
octber 22.2015 face - 1
-
「おはよ~。」
当然返事は返ってこない。でも挨拶は人間関係の基本だし、自分も社会に属している以上、一日の最初を労わってやっても誰も文句をいわないだろう。たとえそれが独り言みたいなものだったとしても。
朝8:00、仕事で外に出かけなくてはいけない時以外私の起きる時間は決まっている。
サラリーマンがギュウギュウの電車に揺られている頃に、ゆったり起きるのはとても贅沢。
それもこれも自分で今の生活を勝ち取ったご褒美なのだから、受け取って当然だ。
ダンボールに入っている2Lのペットボトルをキッチンから移動させてラッパ飲みをする。
ゴクゴクと喉を流れていく麦茶は体の細胞にいっきに沁みこむような気がして実に気分がいい。
麦茶のパックを買って自分でつくればいいのだろうが、私はそれをしない。
何故か?答えは単純、面倒だから。
毎日1本以上減る麦茶を買いに行くことすらしない。あんな重いものを持って家まで歩くのはごめんだ。便利な世の中だから、ネットの定期購入に申し込んで勝手に届く麦茶をゴクゴク飲むのがいい。
何故麦茶かって?カフェインがはいっていないしミネラルが他のお茶より含まれているから。人間健康に気を使っている事が一つくらい必要だ。特に私の仕事において「こだわり」の一つもないとつまらない人間だと思われてしまう。
私の「こだわり」はカフェンフリーの生活。特に何か思う所があってこれを選んだわけじゃない。一番簡単そうだから。コーヒー、お茶全般を避けるだけで、ちょっとした「こだわり」が獲得できる。
コーヒーが恋しいと最近は思わなくなった。
ペットボトル片手にPCを立ち上げる。この小さいマシンが私の生活を支えているのは不思議な気がする。この箱が無限に広がり様々な人と繋がっていることを時に忘れがちだが、これを構築した人間の欲深さには驚きしかない。そして今やこのシステム無しに世界は動かないのだから、自分の世界を広げているのか首を絞めているのか・・・それを考えている人はいるだろうか?
私にとってはどうでもいい。それを考える役目にはないから。
受信ボックスをチェックする。最初に始めた時はすべて自分で情報集めをし、話を聞き、了承を得てブログにUPしていた。その作業はまだしているが、随分機会は減った。自薦、推薦、売り込み、口コミ、そういった形でどんどん情報が来るから、私の役割はふるい分けと実物の確認という動きにスライドしてしまった。やはり東京には星の数ほど人が居て、星の数ほど店がある。次々生まれ、どんどんなくなり、延々にそれが繰り返される。
つまりはこのサイクルがある限り、私は喰いっぱぐれないということだ。
手帳にあるスケジュールを確認して、メールと照らし合わせ今日の動きを組み立てた。これが朝にする大事な仕事で、誰かに任せる気はない。自分の管理は自分でする、誰かにああしろ、こうしろ言われて一日をすごすなんて、考えただけでウンザリだ。
歯を磨いて顔を洗う。鏡から見返してくる顔とのつきあいは35年。若いのか若くないのか、なんだか中途半端な立ち位置にいるような気がするものの、年齢ばかりは自分でどうしようもできない。
太めの眉と大きな目。でもかわいい目ではない。意志の強さの証だな、なんて言われ続けてきたこの目のおかげで、随分助けられた。意志を宿して相手をひたと見つめれば、私の真剣さが容易に相手に伝わるから。
鼻の先がもうすこし尖っていたら、もっとスマートな印象になったと残念に思っている。先が少し丸いから、上に存在する目に比べて間抜けな感じがする。
そして唇。ここからでてくる言葉は皮肉しかないだろう、そう相手に思わせてしまうへの字口。思春期の頃は口角をあげようと必死にマッサージしたり引っ張り上げたりしたものの変わるわけもなく、私の顔の上に居座っている。
そうはいっても悪いことだけではない。
楽しいことを見つけて目が笑った時、口元が緩む。その笑顔は相手を面食らわせるのだ。笑うことのない人間が笑うと効果が絶大。結構笑うし、表情だってくるくる変わる。ただそのデフォな表情と変化した表情のギャップが人を惹きつけるってこと。
おおむね満足、それにそこそこモテるし問題なし、不満なし。
♪♪♪
私にとっては朝のノンビリ時間だけど、世の中はすでにめまぐるしく動いている。スマホのディスプレイには馴染みの名前。さて、どんな用件かしらね。
「おはようございます。」
『おはよう、お世話になっています。急で悪いけど今日空いている時間ある?』
開きっぱなしの手帳を確認。スケジュール立てたあとでよかった。空いている時間につっこめばいいだけだ。
「午前中は10:00~11:30、午後は・・・ちょっと厳しいな。どんな案件かわからないけど、途中で中座しなくちゃいけなくなる可能性がある。けっこう打ち合わせがつまってて。」
『じゃあ、その午前中、私が押さえる!いつも申し訳ないけど、ストックから助けを借りたい。監督がオーディションの人選に不満足で、ごねているのよね。芝居できなくていいから、キャラクターの持っている「素」のテイストを持っている人間がいないのか!っておかんむり。』
「監督さんは誰?」
『弓矢よ・・・。脚本も書いてるもんだから、思い入れがありまくりで妥協がない。』
「なるほどね、でもホン読まなくちゃキャラのイメージわかない。」
『10:00に来たときに読んでくれる?打ち合わせといってもいつもの流れなわけだし。』
「そうね。もしかして早めにいけるかもしれない、その時は連絡します。時たま思うけど、昔の女衒とかこういう感じだったのかしらね?」
『何言ってるのよ。吉原に斡旋するのとプロダクションじゃ大きな違いよ。それに貴方は男専門なんだし。
じゃあ、とりあえず、何かあったらメールか電話します。』
「それでは、後程。」
切れた電話をテーブルに置き、手帳に予定を加える。「男専門」まあ、確かに。それに陰で「イケメンブローカー」なんて言われてることだって知っている。
でもこれは自分が始めたことが広がっていった現象でしかなく、これを目指していたわけじゃない。
副産物的な仕事だから、何を言われても平気だ。
弓矢監督ね・・・。私としては芝居のできない人間がスクリーンの中にいることに違和感がある。この監督の映画はだいたいそうで、始まったあたりは「あららら。」なんて思いながら見始めるのに、ラストになると、この人選でよかったわけか~へえ~となる。たぶん今回もこのラインでオリジナルのホンだとすれば絶対間違いない。何人かを思い浮かべながらクローゼットをひっかきまわす。
さて、今日は何を着ましょうか。
メール着信の音がしてブルーのライトが点滅している。石山さんはせっかちだから、さっき言い忘れたことがあったのだろう。受信ボックスにあった名前は「北川」
札幌の広告代理店にいるこのオッサンは、とても面白くて興味深い。そして発想が素晴らしい。「ブッコミの北川」という通り名は伊達じゃない。
磯川さんの件はとどこおりなく済んだし、対談も好評だった。今度はなんでしょうか?
メールの件名は『好物だろ?』・・・ってスポーツ新聞のエロページのダサイ小説にでてきそうなチープさ。
まったく何をしたいのか。本文なしの添付画像だけ。
画像をひらいて驚いた。
「正明くん?うわ~予想以上に育っている!」
おもわず大きい独り言を言ってしまった。北川さんに全然似ていないかわいい顔は、生き生きと輝いている。
・・・輝いている。
・・・そしてもっとすごいものが揃っている。
正明君と一緒に写っている男子4人。
即パソコンに転送して大きな画面で確認。これは・・・これは・・・宝の山じゃないの!ここどこ!
ええ、ええ、大好物ですよ!北川さん!
♪♪♪
パソコン画面にかじりついていたら、スマホが再びなった。
≪北川≫
ひったくるようにして手をのばし、ダッシュでタップ。
『久しぶり、どうだ?最近は。』
「北川さん!こんな隠し玉持っていたのですか!」
『お気に召したか?』
「召しまくりです!」
『スケジュールあけて1泊2日で札幌こないか?LCCなら足もOK,枕も手配する。顎はもちろんここでおごってやる。』
「ここ?」
『息子の就職先だぞ。このスタッフが切り盛りする「SABURO」だ』
「スケジュールにねじ込みます!日程決まったら連絡しますから!なんとしてもぶち込みます!」
『ブッコミは俺の専売特許だろうが。あと高村さんも噛んでるから、どうだ、ワクワクするだろ?』
ワクワクどころの話しじゃない。ワナワナ震える武者震いとはこのことだ。
暇の挨拶も適当に電話を切ったあと、手帳のスケジュールの再構築にとりかかった。
あまり夢中になりすぎて、今日のアポに遅れそうになったほど。
「さぶろ」・・・「三郎」・・・名前はかなりダサイ。でも久々の大物だわ・・・。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
110 / 474