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octber 25.2015 face - 7
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昨日もきたというのに帰る前にどうしても行きたくなって、私は再び「SABURO」に来てしまった。
期待通りのランチの美味しさに調子に乗ってしまい、ワインを一本あけてしまったから、気分が最高にいい。昨晩はけっこう遅くまで飲んでいて、ホテルの部屋に帰ったのは2:00を回っていた。それでもいつもどおりの8:00に目が覚め麦茶を買いにコンビニに行こうとホテルをでたのに、私はいつもと違う事をした。
カフェにいき、たっぷりのコーヒーとクロワッサンサンドのモーニングセットを注文したのだ。
意味のないカフェインレス気取りが何だかバカバカしく思えたから。
久しぶりのコーヒーはとても美味しくガツンと脳に響いて目が一気に覚めた。
そして色々なものから覚めた。
自分を守るために、虚像を飾るために体にぶら下げている物が鬱陶しく感じたから辞めようと心に決め、朝食をとりながら麦茶の定期購入をキャンセルするとスッキリ。
必要だったから身につけていた虚栄、それを振りほどく必要に気が付いたのなら一皮むけるのは今だと思えたことは自分にとって大きい。
それもこれも、高村さんと北川さんのおかげ。そして元上司の石田さん。
石田さんは昔のことを一切言わず、最近の自分の仕事のことや札幌の動きを面白おかしく聞かせてくれた。私のブログは欠かさず読んでいると言ってくれて嬉しかった。昔私がした不義理に触れることなく応援してくれていると感じられるのはとても特別なことだ。
東京にそんな存在はいない、本当の友達だっていないことに昨日気がついたのだから。「知り合い」ばかりが増えていくのに、どんどん一人になっていく。その現実を実感しただけでも大きな収穫。
石田さんは最後に言った。
「何年かしたら自分の会社をつくるつもりだ。西山の席は作ってやるから、気が済むまで東京で頑張ればいい。いざとなったら帰る場所があると思えば冒険もできるだろう。
保険ぐらいは俺がつくってやるさ。」
照れくさそうに言って背を向けた石田さんに私は頭を下げた。見えなくなるまで。
言う事を聞かなかった昔の自分の分も。
酔い覚ましのコーヒーをトアさんが持ってきてくれた。
この店をUPしなくてはいけない、高村さんが「強要」と言ったぐらいだ。さてどうしたものか。
「あの・・・。」
置かれたコーヒーとともに、問いかけられて視線をあげる。
そこには控えめな声とは対照的に興奮気味のトアさんがいた。眼鏡の奥の真剣な瞳に釘付けになる。
なかなかどうして、やはりここはイケメン揃いだ。
「西山さんですよね、磯川さんと対談した。」
「はい。読んでくれたんですか?」
「はい!」
いきなりのハッキリ声に少しだけビクっとしてしまう。
「磯川さんを大好きすぎてちょっとオカシイことになっているのは自覚しいてます。高村さんのおかげでご本人に一度だけ逢った事があるのですが、本当にいい人で感激したのです。その磯川さんと、あんなに面白い会話ができるって凄い!と感動したのに、僕は昨日ぜんぜん西山さんだって気が付かなくて、もうなにやってんだ!な気分で対談記事を家で30回以上読み返してしまいました。おかげでオコエが楽天に指名されたので楽天ファンになるための調べものをすっかり忘れるという失敗をしてしまったわけです。ですから、ええと、西山さんはすごいです、面白かったです!を絶対いつか言おうと思っていたら、なんと今日も来ていただけて、ありがとうございます!」
お・・・どろいた。
たぶん私はびっくりした顔をしていたのだろう。トアさんの顔が一気に赤くなったから。
「はわわわ、またやってしまいました。夢中になると話しまくる癖・・いえ癖じゃないですね。そういう性格というか人間なので、失敗ばかりです。すいません。」
なんだ、可愛いじゃないの。クスクス笑うことを止められない、なにせワインをあけたあとだ。
「いえ、可愛いと思います。」
「は?」
「可愛いですよ、一生懸命で。」
トアさんはビキっと固まった。赤い顔は白くなってしまっている。不味い事言っちゃったかな。
いくらなんでも可愛いはないか・・・。
「コーヒーのおかわり・・・いかがですか?」
「いえ、大丈夫です。これ以上水分をとったらお腹からカポカポ音がしそうです。チェックお願いできますか?」
「かしこまりました。」
ギクシャク歩いて行くと予想したのに、相変わらずふわっとゆったり歩いていく姿を見ながら荷物をまとめて立ち上がる。お腹も満腹、心も満腹。
そしてこの店を恋しいと思うだろう自分を簡単に想像できる。ここに来るために帰ってくるのも悪くない。
たまには私のことを気に掛けてくれる人に逢って自分を確かめる。それは必要な時間なのかもしれない。
レジに向かいカードを差し出すと、元部下営業のホープさんが会計をしてくれた。高村さんの保証付きか・・・一緒に仕事をしたら面白かったかもしれない。伝票にサインを促されて、サインをしてボールペンを返す。
「いつでも大歓迎ですから、またいらしてください。お待ちしております。」
う・・うわ。なんだか嬉しいんですけど!
この人に言われると、特別感があるのは何故?
「ありがとうございます。また来ます。」
「ええ、スタッフ全員お待ちしております。」
その言葉がとっても心に響いた。
名残惜しいけれど帰らなくてはならない。寂しいなんて久しぶりに感じる感覚だな、そんなことを自分に言いながらドアに手をかけたらトアさんが横にいた。
「西山さん、さっきはびっくりしまして固まりました。すいません、気をつかわせちゃって。」
「いえいえ、私の方こそ、ごめんなさいね。不躾な事を言っちゃって。」
「西山さん、僕・・・ずっと何かなと考えていたのですが、答えがわかりました。」
「?・・・なんですか?」
「西山さん誰かに似ているなと、そしたら誰だかわかりました。ジャンヌ・モローです。大きな目とへの字口のせいかもしれません。西山さんのほうが可愛いですよ、僕なんかより。」
お・・・どろいた。
この人、ド天然だ。こんな顔をくっつけて無自覚でなんてことを言うの!
「ありがとう・・・また来ます。」
「お待ちしています。ジャンヌ・モローなら『エヴァの匂い』がおすすめです。」
店の外にでて振り返ると、ガラスの向こうに手を振るトアさんが立っていた。私はデジカメを構えてその姿を捉える。
ちょうど雲がきれたのか陽を浴びて舞う雪がキラキラ光っていた。太陽の光がレンズにはいり、ガラスに反射した光とぶつかった格好になってしまう。
ディスプレイで確認すると、逆光のようになったシルエットのトアさんが立っていた。笑っている表情と眼鏡の存在が陰影の中に映りこんでいる不思議な写真だった。
店構えはわかるが看板は写っていない。
笑顔の男性の姿、でも顔のつくりはわからない。
雪が舞っているからおおよそどこの地域か見当をつけることができる。
これだ、この写真を使おう。
フランスの大女優に例えてくれたお礼はしなくちゃいけない。
ジャンヌ・モローは『死刑台のエレベーター』しか知らないけれど、トアさんのおすすめはレンタルショップにあるだろうか・・・。
決めた、帰ったらまずレンタルショップに行こう!
コーヒーを飲みながら映画をみるのも悪くない。
私は来た時とまったく別人になって東京に帰る。
そう、それが「SABURO」の魔法の威力の証明だ。
「face」-END
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ちょっと一言、「あとがき」みたいなものを書かせてもらいます。(面倒くさっ!な方は飛ばしてねw)
おじさんたちがミネの頑張り説得をよそにキャイキャイしてたとき登場したのが「西山」の名前。
ついでに出番の少ないトアに少し色っぽいエピソードでもつけましょうか・・・。という思いつき。
その時のおぼろげなストーリーは⇒以前イケメンに痛い目にあい、今は「観賞用」としてイケメンをおっかける女の人。SABUROに来てみたら、イケメンのくせに全然モテないだろう天然のズレっぷりがMAXのメガネ男子に遭遇。
こんなイケメンもいるのか!そして、二人はエンタメ話で盛り上がりメアドを交換。トアさんはPCに向かって長文エンタメメールを打ち彼女とのメール交換が始まる。さて遠距離恋愛に発展するのか?しないのか~?
ハルはその話を聞いて、「やっぱりトアさんはズレていると思うのです。」とため息をついて終幕。
しかしこれ(今、あらためて書きましたが、ひどい内容ですな!)どうやら女子もトアも気に入らなかったようで無視されました(笑)
(全然動かないわけですよ。キーを叩いても叩いても文字が増えていかないw)
それでボツ。
すずさんレベルに達していないが、オジサンの期待(又は飛び道具とも言いますw)を背負う女子がいてもいいかもしれない。
そっから始まったのが「face」です。
最初西山を「うわ、いけすかない女」だと思ったはずです。彼女はまだすずさんほどに自分の立ち位置と目的が整理されておらず、突っ走ることこそが正しいと信じて前に前にと何かに追われて仕事をしている。
これは昔の自分の姿を投影したもので、たぶん私こそが相当いけ好かない人物であったろうと、今なら理解できます。
毎週毎週開催されるイベントを全国の各都市で行う業務だったので、バスに乗るように飛行機に乗っていました。年間50回を軽く超えるフライトでしたからマイルがアホみたいに溜まったものです。
イベントには1千万円以上の売上目標がついていましたし、それを4~5日で回収しなければならない。
人を呼ぶのに販促をどう組み立てるか?地域性のリサーチ、商圏をどこまでとするか、媒体の選択は?宣材物のデザインは?会場のブッキングは?
もうまさに「?」を調べて考えて埋めていく作業の連続。
あげく、年に何本か億の桁が売目のイベントが存在するわけで・・・。
(そのあたり、すずさんのお仕事に少し書いちゃってますw)
会議をすれば夜中の3時になっていたり、休みといえども会場は動いているので電話はガンガン鳴るしで
休んだ気にもならない。
部下は全員男だし、弱い所を見せてたまるか!な変な心意気の塊でした。
仕事に追われ、男なみに遊び、酒を飲みまくるという、殺伐としたあの数年。
まさしく西山さんの年齢です。
20代後半から30代半ばの自分は、相当オカシイことになっていたと思います。
でもその中で正気を保っていられたのは、周りにいてくれるオジサンでした。
代理店やプロダクションに籍を置いている彼らと話すのはとても楽しかったし、時にはおしかりを受け、励ましてもらい、超ワンマンの社長の悪口を愚痴っぽくこぼす私の話を聞いてくれました。
彼らもかつては突っ走り、何キロの速度で走ることが正しいか見えない時期があったはずです。
それを乗り越えたからこその彼らの自信と仕事ぶりは本当に格好よかった。
現在はすっかりリーマン生活から一抜けしております。これはこれで間違った選択ではないと思える毎日なので平穏です(時にミネベーダー化しますがw)
でも、バカみたいに突っ走っていたあの時の自分があったからこそ、今の生活を選択できたとも言えます。
何事も無駄はなく何かに繋がり自分に返ってくる。そうやって人は生きていくのかな~と。
仕事を頑張っている彼氏さんや旦那さん達もきっと高村さんやハル父のように、西山みたいな人の救いになっているのでしょう。
こそこそBLやMLを楽しみながら是非彼らをサポートしてあげてください。
書くことは自分を晒す、いささか恥ずかしい行為ではあります。でも自浄作用もあったりするので過去の自分の経験値を盛り込むことも悪くないと最近は考えています。
「男前とヤサ男」が嘘っぽい世界にならないように、しっかり自分を埋め込んでSABUROの面々を書き続けていければなと。
時々「せいさん」」が顔をだすエピソードがでてくるかもしれませんが、しょうがないな~この作者と思って見守てくださると有難い。
今後ともよろしくお願いします!
あと、働く女子の皆さん。色々あるかと思いますが、あまりヘンテコリンにならない程度のところで周りを見渡してみてください。きっと誰かが笑顔で見守ってくれています。
たまには立ち止まって、聞き耳をたててみたり、自分にご褒美をあげたりしてください。
皆様の日々の生活が善きものでありますように!
せい
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