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octber 23.2015 ちょっとだけ遡って「送別会の夜」
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『飯塚、武本を迎えにこい。』
仕事あがりで電車の停留所までタラタラ歩いていたら電話が鳴った。掛けてきたのは高村さんで、ああそうか今日は送別会だったと思い出す。
「何次会ですか?」
『明日俺は用事がある。東京から酒の強い女が来るから、今日深酒するわけにいかない。ここで俺が締めても、「「もう一軒いきましょう!」な人間だらけだ。いつまでたっても武本の解放は無いとみていい。』
想像はできる。石川達後輩もやいのやいの言うだろうし、当然女子社員も同じだろう。明日は・・・ああ夜はいいがランチがまずい。大口の予約があるし、トアが親戚の結婚式でランチは休みになっている。
「明日のランチ、武本がいないとまずいですよ。」
『だろう?なんかそんな事を実巳が言っていたような気がした。』
「俺の時みたいにタクシーに放り込めばいいじゃないですか。」
『あれは上手い具合にお前が潰れただろ。介抱するって武本が連れ帰ったからサッパリと終えることができたが、武本はピンピンしている。石川達じゃ飯塚も怒ることはないだろうが、女子が纏わりついてるぞ?
いいのかな~』
いいはずがない・・・。
指輪の効果はどうなっているんだ?そんな存在蹴散らしてやるわよ!ってことかよ、不愉快極まりない。
「いますぐ行きます。それまで見張っていてくださいよ。」
『さすが元部下。物わかりが良くて助かるよ。』
聞いた店に急ぎ足で向かいながら、さてどうやって理を奪還しようか作戦を練った。
「おうおう、来た来た。」
高村さんの姿を認めて全体に軽い会釈をする。
「キャ。」
「うそっ、飯塚さんだ~。」
キャイキャイうるさい。理の周りは女子社員まみれだった。そこに石川と渡辺がテコでも動かないとばかりに両脇に陣取っていた。偉い、さすが、理が仕込んだだけのことはある。
「御無沙汰してます。」
なんとなく他に思いつかず、面白くないことを言ってしまった。
「お疲れ様で~す。」「こちらこそです。」「御無沙汰してます。」
返ってくる返事にまた会釈・・・はやくここから出たい。
「迎えがきたから、お開きだ!これ以上武本を連れまわすのはナシ!武本と飲みたい奴は努力してアポをもぎ取るしかないぞ。武本相手にクロージングかけられる奴が何人いるか楽しみだな。」
高村さんはニヤニヤ顔でそう言った。確かに「飲みに行きませんか?」と言ったところでかわされるだろう。
理は俺と家で飲むのが一番落ち着くし酒が旨く感じるといつも言う。絶品つまみ付きだぞ~と笑いながら。
その顔を思い浮かべると、帰りにコンビニで何か買っていくか?そう聞く理に首をふる。
風呂に入っている間に何か作ればいいだけのこと。
添加物にまみれたものよりも。必要なものを少しだけ酒の肴にするほうがいい。
「まも・・・あ、飯塚だ。」
ん?使い分けができないほどに酔っ払っているのか?顔は赤くも青くもない。しかし…駄目だこれは、目がとんでもないことになっている。
とんでもないこと・・・それは俺にしか見せない表情の片鱗が覗きはじめているということで、こんな顔を他人に晒す義理はなし!
「石川、渡辺悪かったな。悪いが腰が抜ける一歩手前だ。」
「え?まじっすか?そんな感じ全然なかったですよ?」
まじっすよ。他人にわからなくても俺にはわかる。そう言ってやりたいが、そういうわけにもいかない。
俺はそのまま武本が座っている所に移動して腕を引っ張り上げた。
「帰るぞ。」
「んん~~。んん、帰る。ベッドにかえろ~。」
おい!こら!
身体のアチコチが反応しないように努めて冷静を装うのにどれだけの気力と理性がいるかわかってんのか!バカヤロ~が!
「うわ~武本さんの甘えんぼモード初めてみました!」
石川・・・その反応は駄目だ。俺の逆鱗に触れるつもりか?甘えんぼだと?どの口がそれを言った?
その口握りつぶしてやろうか・・・。
「しょうがないだろ、武本も気が緩んだのかもしれないな。お前らが解放しないから、こいつはずっと笑って気を使う羽目になったわけだ。
そこに愛しい飯塚が現れたのだからホットして当然だ。なにせ飯塚と武本は同性で同棲の仲だしな。」
「高村さん!?」
「なんだよ~間違ってないだろうが。」
間違ってはいない・・・です・・・。
「今度遊びにいっていいですか!」
は?石川何言ってるわけ?
「家賃節減をもくろんで飯塚さんの所に無理やり間借りしたって聞いて。俺と渡辺いつか遊びにいきます!って言ったら武本さんOKしてくれたんですよ。」
「はああ?」
「いつか絶対行きますんで!」
武本が俺にしがみついている状況を誰も不思議に思っていないことに驚愕する。
同性が同棲で・・・俺に抱きついているわけで・・・これで何も思わないわけ?
遊びに行きた~いというヤイヤイ煩い複数の声に顔をしかめながら輪の外に立つ高村さんを見る。可笑しそうに、それは面白そうに親指をビっとあげた。そのあとにスマホをフルフルふって悪戯っぽく目を大きく見開いたおどけた顔。
ずり落ちそうな理を片腕で抱えながらスマホを確認するとメールを受信していた。
<お前らの同棲は「同居」として公然になった。同棲は言葉のアヤだと受け取ってるし「同居or間借り」以外を誰も疑っていない。俺が散々日々周知した結果だ。理想のルームシェアとしてお前らは羨望のマトなわけ。
この仕込みは俺の餞別がわりだ、これからも頑張ろうな、次のステージだ!>
くそ・・・相変わらずのキレキレじゃないか。
「じゃあ」とか「またな」を繰り返し、理を抱えたまま店を後にする。帰り道には反対車線になるが、タクシーに乗ってしまおう。
理を押しこみ座ってようやくホっとした。
「悪かったな。」
横をみればシャンとした理がいた。
「はあ?」
「家帰ったら乾杯しよう。晴れてリーマンおさらば記念だ。フワフワのオムレツが食べたい。」
「お前酔っ払っていたんじゃないのか?」
「あ~芝居。充さんにもう勘弁してくれって頼んだ。まさか衛を呼ぶとはね。でも結果オーライだ。
衛の顔見た時は、ちょっと緩んじゃったけど。
俺達の仲良しぶりを見せつけたのは自己満足。指輪の「彼女」がいると思い込んでいるから、衛にベタベタしたって誰も疑ってないよ。」
俺は頭を抱えた。理の行く末はあのキレキレのオッサンか?
「衛・・・まもりってば。」
「なんだよ・・・。」
「俺さ、お前の送別会でお疲れさんって言えなくて。」
「ああ。それは俺が潰れたからだろ。」
「だから、家に帰ってお互い頑張ったなって乾杯しようぜ。」
リビングのソファのように理の手が伸びてきて俺の右手に繋がる。
「衛と一緒の家でよかった・・・。」
理・・・。
握った指に返ってくるキュっとした力。
「同性の同棲だろうが、何にせよただの単語だ。俺達の日々はそれ以上の密度がある。」
パチンと手が払われて理の身体がドアの側に移動した。このタイミングで何を言っても返事は返ってこないからそのまま放っておく。
「運転手さん、そのタイルの建物です。」
車を降り、タクシーが走り去ってからようやく理は口を開いた-あさっての方を見ながら。
「恥ずかしいこと他人が居る時に言わないでくれないか。俺はどうにもいたたまれない。」
俺は迷わず理の手を握る。
「もう誰もいない。俺と理だけだ。オムレツだろ?」
「ん。」
「キノコの生クリームとトマトソース、どっちがいい?」
「んんん・・・どっちも。」
同意のしるしにギュウと理の手を握る。
「お疲れ会しに、早く帰ろう。」
「うん。衛・・・。」
「ん?」
「迎えにきてくれて・・・ありがと。嬉しかった。」
これが外じゃなければギュウギュウに抱きしめていた。それができない場所にいる必要はない。
理の手をひっぱり、足を進める。
俺達の家に、家族の居場所に向かって。
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