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november.9.2015 二人の誕生会 <昼>
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「やっほ~!すっごくいい匂いがする!」
オーブンから平鍋をだすと理は子供のように喜んだ。これまだ未完成だぞ?
肉はトロトロになっていたから問題なし。あとはソースをつくってかければ出来上がりだ。
「理、パン焼いてくれるか?」
「おう!まかしとけ!」
お湯をわかしてフィットチーネを茹でる。こういう濃厚で重いソースには幅広のパスタが良く合うから付け合せには最高。
肉とローリエの葉を取り出すと、クタクタになった野菜とブイヨンをミキサーに移した。本当は濾したスープでソースを作るらしいが、俺は全部食べられる方法が好きだ。ミキサーにかければ美味しそうな濃い色の緩いペースト状に変わる。
エシャロットとニンニクを炒めて香りをだしたあと、ミキサーの中身を加える。なじませて塩コショウで味付けをしたあとコニャックで香りづけ。
茹であがったフィットチーネはオリーブオイルをかけて肉の隣に盛る。
ソースの仕上げにバターを加えれば俺なりの牛テール煮込みができあがった。理はこれが大好きだが、すぐにできる一皿じゃないので、なにか特別の日に食べることになる、俺達のとっておきだ。
◇◆◇
休日にしなくてはならない事を二人で黙々とこなした。掃除は自室をそれぞれしたあと、リビングと寝室を分担。水まわりの掃除を理にまかせて洗濯機をまわしたあと、スーパーに出かける。
歩いていかれる距離にあるのがありがたい。1週間分買えると楽だが、車がないので持てるだけの量にする。調味料や日用品が主で、食品は少ない。仕入に便乗して発注したり、中休みに買い物をするほうが楽だったりする。
車を持つことを相談したが二人の至った結論は「いらないね。」だった。遠出するときはレンタカーを借りればいいし、連休がない状態でどこかに出かけることは難しい。
駐車場に車のローン、ガソリン代に保険、維持費。
理は言った「月間3万円タクシー使うほうが安いくらいだよ。」
タクシー通勤したとしても、その程度ですむ計算だ。じゃあ、いらないねという事になったわけだ。
田舎ならともかく、都会は車がなくても充分暮らしていかれる。
宅配便と牛テールの様子が気になっていたので、買い物は早々に切り上げ部屋に戻った。
「ただいま。」
「おかえり。」
理はふんふん鼻歌を歌いながら、お気に入りのベランダに洗濯物を干していた。さすがに夜ベランダにでることはなくなったが、この場所はとても大事なスペース。春になって夏がくれば、ここに座ってビールを飲めるようになるだろう。たとえ一言も言葉をかわさなくても、並んですわりながら夜の街の灯りを見たり、晴れた景色をみることで同じ時間をすごしている実感がわく。
一緒に住む前から、理はこのベランダで時間を過ごしていた。月を眺めたり、休日の時間を満喫する姿を見るのがいい。そこに佇む理を目にすると、なんだかとても充実した気持ちが沸きあがってくるのが不思議だ。理は俺のどんな姿を見たら、そんな風に感じるのだろうか。
「一足先にワインが届いたよ。」
キッチンに3箱置かれたワインが18本。一見すごい量に見えるが、二人で飲めばすぐになくなってしまうだろう。プレゼントにもらった倍の大きさのボトルが2本同じく並んでいる。
「芸がなくてすまんな。」「来年はリベンジします!」村崎とトアがくれたマグナムボトルは結構な重さで、帰りは一本ずつ持って帰ってきた。あ、そういえば北川のプレゼント。
インターホンがなり、どうやら宅配便が届いたようだ。
オートロック開錠のボタンを押して玄関に行く理に受け取りを任せることにして、冷蔵庫にいれておいたカプレーゼをだす。バルサミコとオリーブオイルに塩コショウ。買ってきたバジルをちぎってのせるだけ。
シンプルだがワインにはぴったりのつまみだ。
「衛~これなに?開けていい?」
二人の為に買ったと言っておいたのに、開ける気マンマンだ。中身が何だかわかるだろうか?
「いいぞ。」
カプレーゼと取り皿を持ってリビングにいくと理が箱の中身を見て頭をひねっていた。
「お、うまそ!」
カプレーゼを見ての第一声。なんでも「「美味しそう、旨そう!」にはじまり、「美味しかった~」で締める顔をみれば、作り甲斐があるというものだ。
最初から変わらないな、そんなことを思い出す。ハニーマスタードのポテトだったか・・・。
「それ、何に使うかわかった?」
「いや・・・このガラスはデキャンタだろ?えらく潰れたフラスコみたいな形だ。これならちょっと手がぶつかったくらいじゃひっくり返らないだろうな。で、このステンレスのジョウゴみたいの、初めて見た。」
「じゃあ、準備しよう。そういえば北川のプレゼントあけなくちゃ。」
「あ~そうだ、そうだ。正明プレゼント。」
紙袋から取り出し包みをあければ木箱。
「へえ~。うわっ、これすっごい薄い!」
ペアのワイングラスは「うすはり」というネーミングのとおり、とても薄いグラスだった。北川は去年の万年筆といい、なかなかいい所をついてくる。
「これ、足がないから、ひっくり返る心配が少ないな。」
「ひっくり返るって所から離れろよ。」
「いつも使っているグラスで飲むより、ずっと美味しく飲めそうだな。やるな正明。」
確かにな。この前ここに来たとき、俺達が普通のグラスにワインを注いでいるのを見て、若干眉間に皺がよったのを目撃しているだけに、このプレゼントは納得だ。
「ちゃんとしたグラスで飲んでくださいよ、大人なんですから。」そんな北川の言葉が聞こえてくるようだ。
「じゃあ、洗って準備してテールを仕上げよう。」
グラスとデキャンタを綺麗に洗って拭きあげて洗ったワインシャワーをデキャンタにセットする。
「これはワインを開かせる道具だよ。」
「ワインを開く?」
「赤ワインは空気に触れて美味しくなる。でも俺達はそんな準備をするまえに飲んでしまうし、味が開く前に一本あけてしまうだろ?それをより美味しく飲むための道具。」
ワインシャワーには穴があいているから、注いだワインが四方八方に広がりながらデキャンタの縁から下に溜まっていく仕組みだ。表面積を増した液体がどんどん空気にふれてデキャンタに収まっていく。プレゼントにもらった大きいボトルの半分がデキャンタに移った。
「よし、これで準備は万端。料理を仕上げて飲もうぜ。」
「おう!飲む飲む、食べる!」
◇◆◇
「かんぱ~い。」
「誕生日おめでとう。」
「もう、何回目だって。じゃあ、衛も誕生月おめでとう!」
「ありがとう。じゃあまず、ボトルのワインを飲んでみよう。」
半分残っているボトルのワインを少しだけグラスに注いだ。コクンと一口飲んだ理は首をかしげている。
「まあ、普通にうまい。けっち臭いな、こんなちょびっとかよ。」
「何言ってんだよ、テイスティングだって。じゃあ、今度はこっち。」
デキャンタの中身を空になったグラスに注ぐ。同じくコクンと一口。
「うわ!うわあ!なんだこれ!格段に旨い!同じワインとは思えない!」
「だろ?」
「おお~。これさえあればワインが旨くなるわけね。これはいい!俺達みたいにすぐ飲んじゃう人間にぴったりなアイテムだね。これはまさしく俺達には必須アイテムだ。
うわ、嬉しいな。それに全部ワイン絡みのプレゼントで、皆の気持ちも俺達の想いも全部嬉しいな。」
「ああ、そのとおりだな。」
「いただきます~。・・・うううぅぅぅぅ、相変わらずすっげ~~うまい。美味しすぎる!ありがとう、衛!」
満面の笑みを浮かべる理。そうやって笑顔を俺にくれるたびに「ありがとう。」と心の中で言ってしまう。
沢山の喜びと嬉しいと楽しい、それを重ねる為なら俺はなんだってできる。
理が傍にいてくれれば、なんだってできる。
出逢えたことに、一緒にいることに
ありがとう・・・理。
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