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november.9.2015 二人の誕生会 <夜>
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カーテンを閉めようか・・・。
もう外は暗くなりはじめている。
飯塚は独り言のように零れそうになった言葉を飲み込んだ。ベッドを抜け出しリビングで立ち止まって見たのは窓とテーブル。
空の皿と、空のボトル、空のグラス。デキャンタの底に1cmくらいのワインが静かに揺れていた。
向かい側にある笑顔をたしかめながら、美味しいと喜ぶ姿にいいようのない安堵と愛おしさがつのった。明日のことを考えるにはまだ時間が浅かったし、たっぷり持ち時間があった二人は、食欲を満たし、お互いの存在に心を満たした。
「休憩~。」
そう言って床に転がった武本の横に座り、特に意図もなく相手の指先をつまんでは離す。
そんな単純な刺激のせいか、だんだん瞼が重くなってくることに必死に抵抗している顔を見て言ったのだ。「少し寝ればいい。ちゃんと起こしてやる。」
その言葉に安心した武本は、ふわっと眠りの中に沈み込んでいった。それを見て頬が緩むことを自覚して、相当武本に惚れこんでいる自分が何故か誇らしく感じた。
そしてきっかり20分で武本の肩を静かに揺すった。
「理・・理?そんなに眠いのならちゃんと寝たほうがいい。」
ボンヤリと半分開かれた瞼の奥で、瞳がユルりと光ったのを飯塚は見逃さなかった。
「衛・・・俺、眠くないけど、ここは嫌だ。背中が痛い。」
直接的に「ベッドにいこう。」そんなふうにいう事が多いのに、今日に限って中途半端な誘いだ。
一緒に住むようになってから、随分自分に甘えてくれている。そう感じることが飯塚には嬉しいことのひとつだ。対等のパートナーであり「家族」である武本が自分にだけみせる隙と甘さは心の現れだと思えるからなのかもしれない。
「そうだな、俺はここでもいいけどな。」
だから少しだけ意地悪をしたくなる。何と返してくるのか知りたい。そして楽しい。
「意地悪言うな・・・よ。」
伸ばされた指先がつま先に触れ、親指の爪をカリっとひっかく。
武本の返答はいつも違っていて、色々なバリエーションがある。
今回はゾクゾクする類のものだ。
「・・・わかっているくせに。」
足の指を一本ずつ撫で、爪でひっかく。馴れない刺激は心拍数をあげるには充分で、飯塚の体温が一気に高くなった。
武本は両腕を差し出す。
「起き上がるから、ひっぱって。」
言われるままに引っ張り上げると、予想よりも勢いよく起き上がった武本の唇が鼻先をかすめた。
わざと触れそうで触れない距離を保ちながら、悪戯めいた視線が投げ返される。
「衛・・・わかっているくせに。」
「ああ・・・充分すぎるほどに・・・。」
もうこれ以上何かを言われてしまえば、身体だけではなく脳まで爛れてしまいそうだ。
何かに追われるような切迫感に背中を押されて飯塚は静かに口づけた。
塞がれた唇はもう言葉を発しない。
ここからは蠢く舌と肌の上を踊る指先、お互いの肌と体温が言葉の代わりになる。
二人は言葉を使わなくても饒舌に愛を囁くことができる。
お互いの重さが心の証なのだから。
少しまえの自分達を思い返しながら飯塚はカーテンを閉めた。
事後のまどろみ、そして散々明るいうちから飲んだアルコールのせいで体はだるく喉が渇いていた。
空いた皿をキッチンにさげ、冷蔵庫の中からペットボトルをとりだし一気に飲み干す。
喉を滑り落ちる水は身体に沁みこんでいく。もう一本ペットボトルを手にとり、寝室に戻る前にバスタブに湯をはった。
このまま寝かせておいてやりたいところだが、そうもいかない。
寝室に戻ると武本はベッドに起き上がり、ぼうっと空を見詰めていた。
髪は乱れ、気だるい表情は色の名残を映したままで、暗く翳った空気の色がミステリアスな雰囲気を添えていた。なんとなく腰のあたりに巻きついたタオルケットと乱れたシーツ、漂う空気。
ここにあるものは全てが濃密で自然に呼吸が浅くなってしまうことに飯塚は抵抗できなかった。
どの女にも感じたことのない身体の底から湧き上がる欲望。この欲は相手を欲するごく自然のもので、排泄欲求とはまったく違うものだ。
二人の間に存在するSEXは飯塚にとって未知の領域に位置していた。
「生き死にを繰り返すような生命の本質を体験している、それが一番近い。」武本は前にそう言った。
たぶん同じように感じているのだと思う。気持ちがいいという快楽とは別の何か。
お互いの底に潜りこんでいくような一体感、そしてそれができるのは飯塚にとっては武本であり、武本にとっても飯塚だけなのだ。
「かけがえのない存在」であることを深く確かめる、それが二人にとってのSEXだ。下世話な欲にまみれた行為ではない。
「先に入ってて。」
ペットボトルのキャップをひねり切ってから渡して、優しく言えば武本はコクンと頷く。
肌を重ねたあと、二人はともに素直になる。すべてを晒し、身体を開き、心を寄せる。それをしたあとに意地をはったり恥ずかしがる必要がないからだ。何もかもそぎ落とされた「個」の二人は本質だけが残り、空気は緩やかに流れる。
「ありがと。」
半分ほど残ったペットボトルを飯塚に渡して、武本はバスルームに行く。
飯塚はシーツを引きはがし清潔なシーツを用意してベッドメイクをする。洗濯機に洗い物をセットしてからバスルームにいくのも毎回のことだ。
言葉を交わさなくても自分のすべきことを理解し行動する。
「無駄がない・・・な。」
今度こそ独り言として心の内が零れだし、飯塚は苦笑した。
「でもいいじゃないか、これが俺の幸せだ。」
意志をもって発した言葉。独り言とはまるで違うもの。実感と充実、そして幸福。
飯塚は考える。
武本という存在を失ったら、自分はどうなってしまうのだろうか。以前はこれを考えると怖くてたまらなくなった。今も怖いことには変わりはない・・・しかし何かが違う。失いそうになれば足掻けばいい。離れてしまいそうになれば必死に腕を伸ばせばいい。そう思えるからかもしれない。
そう思わせてくれるぐらい近くにいると実感できるからかもしれない。
バスタブの中にいる武本は名残を洗い流してしまったようで、スッキリとした顔をしていた。
もう少し見ていたかったと悔やんだところで、武本はそういう男だ。ベタベタしたところがなくサッパリとした性格と行動力。ベッドからバスルームに至るまでの僅かの時間、その時に見せる無防備さを知っているのは自分だけだ。
身体を洗ってバスタブの中で向かい合う。
「今、何時?」
「四時過ぎだった。暗くなりはじめたよ。」
「もう一日が終わりそうだな。」
「いつもなら夜の営業を準備している頃だ。まだ今日は残っているよ。」
「ん・・・そうだな。」
「腹減ってないか?」
「ん・・・今は色々満腹な感じだけど、きっと減ると思う。六時くらいになったら絶対お腹が鳴ると思うよ。
ワインはまだ沢山あるし・・・ローズマリーのクラッカーにチーズをのせて食べよう。奮発したプロシュートも残っているし、ピザでも頼む?」
飯塚は眉をひそめた。
「なんだよ・・・。」
「ピザなら台だけ焼いて冷凍してある。好きな物をのせて焼けばいいじゃないか。バジルも残っているからトマトソースをたっぷりで。」
武本はくるっと向きをかえ、飯塚の足の間に入り込んだ。背中越しに回された飯塚の腕を肘から指先までゆっくり辿る。
「この腕と、この手と指のおかげで、俺はいつも満腹だ。」
それは料理のことを言っているのか?それとも?と言いそうになった言葉を飲み込む。せっかく武本から自分に寄り添ってきたのだから、それをフイにする必要はない。
「お湯で背中があったかい。俺、背中があったかいの・・・好きなんだ。」
ああ、知っている。
「じゃあ、寝るときもこうやって寝よう。俺も理を抱きかかえていると安心する。」
「ふ~ん。」
気のないような抜けたフリの返答を見逃すことにして、飯塚は毎朝のようにうなじに口づけた。
武本は何も言わずに、身体を預けたまま飯塚の腕ごと自分を抱き締めるような仕草をする。
「うん、それがいい。」
「いい考えだから今日からそうしよう。逆上せる前に上がろうか。とりあえずビールで乾杯だ。」
「そうだな。まだ俺達の今日は残っている。」
「ああ、そのとおりだ。」
こうやって時間が重なり日々が過ぎていく。
時間の漂いの中、確実な事は飯塚の隣に武本がいることだ。そして武本は毎日背中から伝わる体温に心を寄せ続けることだろう。
二人の夜が更けていくとしても、その先には陽の光に導かれた朝が来る。
冬がきても隣に存在する春がやがて来る。
連鎖が紡ぎだす物、それは未来。
二人の時は更けて・・・満ちていくのだ。この先もずっと。
そう願うから叶う・・・この先も・・・ずっと。
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11月にはいってからの誕生日エピソードが延々続きました。おつきあいいただきまして
ありがとうございます。
さすがに非R18を看板に掲げていますので、<夜>をどうしたものかと悩みました。
二人の強固で濃密な雰囲気をどうにかだせないものかと苦心しまして、通常の一人称から三人称に
変えてみました。(意図的に飯塚よりにしたので少し中途半端です。)
少し暗くなった夕刻と事を終えたあとの二人の空気が皆さんに伝わっていたら嬉しいのですが・・・。
今のところはこれが精一杯です(笑)
今後ともこの二人とSABUROの面々を見守り続けてください!
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