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12年・・・重ねた時間の目指す先 2
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寝顔だけみていれば素直な男にしか見えないのに・・・。
その詐欺みたいな顔を見下せば出るのはため息。
最近ギイはすぐに潰れるから何か悩むことでもあるのかと気になっていた。思いつめたり、酒で何かを紛らわせようとしたとき程、アルコールにのまれるものだ。
かすれ始めているとはいえ、この男がもつ魅力は健在だし、人を惹きつけるには充分だ。
自分が歳をとって見た目が衰えていると考えているようだが、それは違う。
場を楽しみ、覇気に溢れていた姿が変わったのだ。漲るような自信を隠そうともしない、それがギイという男の裏打ちであり、散々な結果になるとわかっているのに口説かれる男が後を絶たない理由だった。
半年くらい前からだろうか、ギイから少しずつ消えていく何か。
仕事はきちんとする男だから、それなりのポジションを任されながら仕事をしている。忙しくなると店に顔を出すことができない、そんな月もある。
「俺はこのまま生きて・・・何歳になったら幸せになるのかな。それとももう幸せを喰い潰してしまった後で、
これ以上は無い。そんな人生なんだろうか。」
昨日独り言のように呟いた言葉に、俺は返事をすることができなかった。
将来を憂う、そんなことが一番似合わない男だったはずだ。どういう心境の変化だ?俺はそれを言葉にできなかった。言ったところでどうしようもない。
「相思相愛の恋人をつくれば何かが変わるかもしれないぞ。」
俺が言ったのは救いにもならない言葉で、ギイ自身が気付いていることを上塗りする結果になっただろう。
自信に溢れているがギイは小心者で臆病だ。誰かの手を掴んで心を砕いたあと、それが離された時に自分がどうなってしまうのか。それを思うと誰の手もいらないと考えてしまうのがギイだ。
取り上げられるくらいなら、自分のものにしなければいい。
そうやって意味のない関わりを重ね、相手の心を見て視ぬふりをする。相手に惹かれる前に逃げ出すことを繰り返して関係を持った男の数だけが増す。
男の数は自分の臆病さを自覚した数に比例するから、ギイの中に溜まり続ける自分の弱さに雁字搦めになっている。
30歳という年齢を迎え、その心のうちから目を逸らせなくなったのかもしれない。
何かから逃げるようにして飲む酒に主導権を握られ、カウンターに突っ伏して閉店を迎える。
だから最近、ギイの周りに男達はこない。
遊ぶ相手と定めるには、最近のギイは・・・弱すぎるのだ。
コーヒーを淹れるためにベッドを抜け出した。
朝だよと起こすことに意味はない、寝たいだけ寝ればいい。目覚めて一人じゃない、誰かが居る。そんな朝を迎えればいい。ただ3日も続けてこの状態だということが気に入らないし心配だ。
相変わらず水と酒しか入っていない冷蔵庫の中身を確認してコーヒーをセットした。トーストを食べるにしてもパンがなかった。卵もない。これといって料理ができないから出来上がったものを買うか、食べに行くか。
その二択しかない生活を変えるべきだろう。ただでさえ太陽を浴びる時間が少ない生活は身体に負担をかけているに違いないのだから。
玉子とヨーグルトくらいは酒を買うついでに買い物カゴにいれよう、そう決めた。
コーヒーのいい香りがただよい始めたからシャワーを浴びる。煙草の煙、アルコールのすえた匂い。
それを洗い流さなければ新しい一日を迎えることはできない。
リビングにもどるとギイは膝を抱えてソファの上にいた。
「おはよう。」
「ん・・・おはよう。俺また迷惑かけたんだな。」
「迷惑っていうか、潰れてるからさ。店に放置しておくわけにもいかないだろう?ってこの3日間、俺、毎朝同じこと言ってるよ。」
「そうだな。潰れたわりには頭も痛くないしムカムカもしていない。」
「当たり前だろ。ビール1杯とスミノフのロック2杯だ。そんな程度で二日酔いになるかよ。」
「肝臓が弱ってるのかな。」
弱っているのはお前の心だよ。
やっぱり俺はそれを言葉にしない。弱っていると人に見透かされていると気付いたら、この男はショックを受けて今以上に弱るだけだ。
俺の甘やかしも大概だな。このドMが。
「何か可笑しいことでもあったか?」
「なにが?」
「変な顔で笑ってるから。」
ドMだと自分を笑ったんだ、そう言ったら、お前は何て返事をするだろう。
「別に何もないさ。シャワー浴びてこいよ。着替えはこの間置いていったのを洗濯しておいた。下着は新品だから安心しろ、安物だけどな。」
「いつも悪いな。お前が友達じゃなくなったら、俺かなり凹むと思う。」
「お前の暴挙を見ても友達なのは俺くらいだろ?安心しろ、そんなことにはならない。」
ギイはポンと俺の肩を2度ほどたたいてギュっと握り、ふわっと笑みを浮かべて背を向けた。
俺の心臓がキュウと捩れた。
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