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december.4.2015 12月の夜は、どこか寂しげです
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「いつもの12月より、随分実巳は落ち着いているな。」
クローズした店に居残っているのはおじさん(高村さんですよ~)と俺だけ。いつも仲良く5人で帰るわけでもないし、今日は帳簿や来年のこと、そして今月の見通しを含めミーティング。
なんだかほら、社会人っぽいじゃない?「ミーティング」
売上は徐々にあがっているし、去年に比べれば結構な右肩あがりだ。でも人件費は確実に増えているし、模様替えや色々始めた事にかかった経費もそれなりにある。
それにおじさんに支払うマネージメント料だって実は発生している。額は二人だけの秘密だけどね。
「ん~まあ、人がいるっていうだけで、自分だけに圧し掛かってくるプレッシャーが分散されていくような気がするし。飯塚がいるから分担すれば作業量は単純にUPだしね。
何より去年と違うのはホールかな。固定しないバイトにはウンザリだったけど、ハルが勤勉だったおかげで学校にそんな行かなくてすんだでしょ?だからびっちりシフトいれてくれたから楽だった。
8月にトアを見つけて来てくれたし、サトルもきたから。11月からなんだか万全な感じ。」
「ようやくだな。人員には苦労したな。飯塚が来ればホイホイ人が寄ってくるかと思ったが、ありゃあ誤算だった。」
「まさしくです。やる気があるのは最初だけで、鉄仮面が崩れないと知るや戦意喪失。まあ、サトルが傍にいるのにそんなアホいふわふわした人間になびくかって事だよね~。
最近の二人は盤石すぎて面白味がないというか、からかう気にもならない。」
「会社にいた頃のオタオタぶりを見せてやりたいぜ。」
「へえ~オタオタしてたの?おかわりビールでいい?」
ジョッキグラスをそのままサーバーまで持って行っておかわりを注いだ。泡の立ち具合は悪くなるけれど、身内はこれで充分。もちろん俺も同じく充分。
「はいどうぞ。つまみいる?」
「グリッシーニでいい。ポリポリするぐらいにしておかなくちゃな。」
「そろそろ体調が気になる御歳ですか?」
「言ってろ!三郎だってたいして変わらんぞ。父親の体調を少しは心配してやったらどうだ。ハイカロリー王国の外国住まいだぞ?」
「かあちゃんいるのに、俺がしゃしゃり出る必要はないで~~す。」
「ま、しいちゃんが傍にいるしな。」
「しいちゃん・・・ね。」
しいちゃん。これは俺の母親の呼び名だ。詩織がしいちゃん。オヤジとの出会いがまさにこの店だ。バイトで入ってきた一生懸命に働く母親に少しずつ惹かれていったオヤジ。
よくある話だよね。
「二人とも真面目で真っ直ぐ。よかったな、その血を引いて。」
「え~俺まっすぐかな?ひねくれてない?よく言われるけど。」
「ここの面子は言わないだろ?」
まあ、そう言われると確かにそうだ。・・・真面目だって言われちゃったりするくらいだしなあ。
仕事以外の俺がひねくれものってこと?あんまりワイワイ皆と群れたりしなかったからかもしれないね。
「そういうところが俊己に似ているよ。」
叔父さんの事を思い出す時、いつもこんな顔をする。どこか遠くを見るようで何も見えないことを寂しがっているようなね。見ているほうが切なくなるような、なんとも言えない感じになる。
「叔父さんって、どんな人だったの?オヤジはあんまり聞かせてくれないんだよね。生きていたら実巳をかわいがっただろうなって言うくらいでさ。」
「だろうな、可愛がっただろうな。似ている所は自分で決めてそこに真っ直ぐ進むことだ。迷いがなく優先順位が揺るがない。実巳は三郎の跡を継ぐことを随分早くに決めて、それを目標にずっと頑張ってきただろう?
俊己もそうだったよ。大学が疎かになるのは本末転倒だが、3人で店を持つことに意欲的だった。実現していたら、こことはまた違う場所になったかもしれないが・・・。」
「しれないが?」
おじさんはニヤっと笑ってビールを一口。
「結局実巳は、俺達の店を継ぐって言ったに違いないだろって思ってな。俺は一人、3人の夢から離れた場所に逃げるように進んだ。でも結局は離れることができずに、グズグズとへばりついている。
三郎が「次は高さんの番ですよ。」って言ってくれて、嬉しかったし居場所をもらえた気がした。
でも実巳は違うだろう?俊己が生きていても、いなくても・・・やっぱりこの店を居場所にしただろうってこと。
俺にはそれが嬉しい反面、羨ましくもある。」
ハル父と何かを企てていたり、サトルとコソコソ話をしているキレキレで腹グロな魔道士の顔はここにはない。純粋にそう思っていて・・・オヤジや叔父さんとのことを想いだして、俺の存在を認めていてくれる。とっても優しい笑顔だ。
「叔父さんに逢いたいな・・・いつか逢えるかな。」
「普通に考えれば死んだら逢えるんじゃないのか?」
「いや~それが、サトルは逢ったって!命日に!」
ブゴォ!ふごぉ!!・・・ごほ・・ゴホ・・。
「どうしたの?変なところにビール入っちゃった?」
しばし咽たあと、息をゼイゼイしながら顔を真っ赤にしているのが何だか可愛い。
でもなんで?俺変なこと言ってないよね?
(もしかして・・・あなた知ってますね?おじさんが咽た理由!)
「失礼。」
ぶっ!
今度は俺が噴出した!なにが「失礼。」だよ~。急にビジネスマンになられても困るよ、マジで。
「それで・・・?武本は何て?」
「なんか俺のケツをビシビシ叩いていいからって。スパンキング王に命名とか、なんとか。なんかもう少し愛する甥にたいする温かい言葉を期待してたのに、サトルには化けてでて俺を無視って、それどういうこと?」
「んん・・・まあ・・・わからん。」
「なんか盛大に歯切れ悪いね?なんか知ってるの?」
「知っているというか・・・。」
「なによ~、なんだっていうの?言わないなら最初から言うな!っておじさんのセリフじゃん。」
残ったビールを一気に呷り、しゃーないなって顔をしながら不本意なのがありありな声。
「俊己は命日の日、夢にでてくる。三郎のところに顔をだしているかは知らない。お互い言った事がないからな。たぶん自分にだけに逢いに来ているのなら気まずいという思いが二人ともあるからだ。
だからこれを三郎に言った事がないから、実巳も黙っておけ。」
「親友のところに顔だしてるなら、当然弟のところにいくでしょ?
俺だったらSABURO全員にいくし、おじさんもオヤジももちろんかあちゃんも…そう考えるとどんどん広がっていくな。すずさんにも挨拶したいし、そうなればハル父と広美さんにも。
うわ、けっこう大変だな。もしかして盆とか彼岸ってあちらの人は大忙しなのかな?」
「聞いたことが無いから・・・それは知らん。」
「今度聞いておいてよ。」
「嫌だよ。自分で聞け、くだらん事を聞いている時間はないの。なんせ1年に1回の限られた短い時間だしな。そうはいっても、言いたいことや、聞きたいこと、それを伝えたいのに、どれから話せばいいのかよくわからなくなってしまう。」
「へえ。」
「話をちゃんとする前に、「せっかくきたのに充は愛想なしだな~。つまんないの。じゃあなっ!」って消えちゃうんだよ。単に話したい事がいっぱいで何も言えないだけなのにな。
・・・実巳の叔父さんは・・・短気・・・だ。」
叔父さんは頬杖をつきながら、ジョッキについた水滴をすくいあげ、また指を下側に滑らせてまた戻ることを繰り返す。
実巳の叔父さんはな・・・って言った。
「俊己」って名前を言葉にしたら、泣いてしまうんじゃないか。
そんなことが頭に浮かんで、心に刺さる。
たぶんそれは当たりで、おじさんは意味のない仕草で必死にこみ上げるものを押しこめている。
だから俺は何も言わない。
二人の間に横たわる俊己叔父さんの存在に想いを馳せながら。
黙って静かに佇む。
言葉を使わないことでおじさんの心に寄り添えるかもしれない・・・
そんな気がして・・・。
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