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december.15.2015 「ほうほう」が少し顔をだす
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「ねえ、トア君。レンタルにあっても借りられることなく埃をかぶっているDVDって結構あるじゃない?モノクロだとさすがにクラシックすぎるけど、ちゃんとカラーで忘れ去られている名作でおすすめはない?」
本日すずさんは友人の方とディナータイムにご来店です。類は友を呼ぶとよくいいますが、すずさんのお連れさんは黒のパンツスーツにピーコック色のシャツを着たバリっとした女性。
さぞかし、有意義で楽しい食事なんでしょうね、なんて呑気に眺めていた僕は、すずさんに質問されて少々焦りました。顔にはだしませんけどね。
「埃をかぶっている・・・ですか。回転することなく棚にひっそり挟まっている作品ってことですね。」
「そうそう。」
何故に、そのようなセレクトを希望されているのかわからないですが、SABUROエンタメ担当としては希望どおりの作品を提示しなくてはいけません。うむ・・・適度に古く、あまり知られていなさそうな名作。
「フランス映画でもいいですか?」
「トア君、フランス映画好きよね。」
「特にお国柄に拘って好き嫌いがあるわけじゃないのですが、どうにもフランス映画を敬遠する人が多いですよね。僕はそれが残念で、ついついおすすめしてしまうのです。」
「難解なイメージがあるわよね。」
お連れ様の一言。そう言う人は多いですね。でもなんといいますか、心をガバっと開いてみれば作品に埋もれているメッセージを受け取れますし、それを見つけたときの充実感は格別なんですよ?
「そうですね・・・。難解といいますか、アメリカの映画のように答えがビシっと提示されないというだけです。ちゃんとそこには答えがありますしね。フランス映画では『出逢って、戸惑って、すれ違って・・・答えなし。』
というパターンは結構ありますが、恋愛ってそういうものだと思います。答えなんかないし、上手く行っても行かなくても、それが二人の姿です。この先どう過ごすのだろうか。歩み寄るのか、反対に歩いていくのだろうか。そういう余韻を心の中にポトンと落す観方もある、それが僕の持論です。」
ええと・・・。またやってしまいましたかね。びっくり顔のお二人の視線が痛い・・です。
「ああ、すいません。こういうことになるとついつい話すぎるのが僕の悪い癖です。」
いきなり手首のあたりをギュッと握られた。おおおお連れ様?ええええと如何いたしましましたかぁ~?
「こんな所にこんな逸材が!さすが直美!」
へえ~。すずさんの名前は直美さんだったのですか。てっきり鈴子さんとか、そういう名前だと思っておりました。いや、そうじゃなくて、あの・・・お連れ様?
「初めまして、私は東といいます。企画の仕事をしているものです。続きを聞かせてもらえますか?
あ、忙しかったら手がすいているときでいいし、何ならお店締まってからでも構いません。」
店内を見渡したところ、ワタワタしている感じじゃない。5分くらいなら大丈夫だと判断。
「あまり時間はとれませんが、5分程度なら。」
「いえ、3分で充分。映画のタイトル教えていただけますか?」
がっちり握られていた手が離れていきました。あ~久しぶりに女性に手を握られました(手首だけど)
ちょっとドキドキしつつテンションが上がり目なのは勘弁していただこう。
「『サンドイッチの年』というのはどうでしょうか。主人公の少年の両親はナチスに連れていかれてしまって、一人パリに戻ってきます。終戦直後の設定ですね。頼ろうとした親戚もみつからない、自分が住んでいた家には他人が住んでいる。そんな状況で一人の少年に出逢います。意気投合し、親友という存在を得た彼は偶然通りがかった古物商の働き手募集の張り紙をみて、雇ってもらう。そこの店主は偏屈だけど心優しいおじさんなんですよね。屋根裏部屋に住まわせてもらい、周囲の人達や親友、そして店主のマックスと心を通わせて生きていきます。
しかし何事もうまくいき、それが続くことはない。とあるアクシデントで親友とのつきあいを相手の親に禁止され、少年は打ちひしがれます。
そんな少年をマックスが慰める。「サンドイッチがあるだろう?薄いハムしか挟まっていない時もある。たくさん色々なものが挟まっている時もある。人生はサンドイッチみたいなものだよ。美味しかったり、不味かったり、辛子がききすぎて涙がでたり。でもそれは全部食べきらなくてはならない。それがお前の血となり肉となる。
噛めば噛むほど味がでる、ちょうど今がサンドイッチの年なんだ。」ということを言うのです。セリフは定かじゃありませんが。だいたいこんなことを静かに少年に言うシーンにぐっときます。
感動巨編とは違う、本当に素朴で心に深く深く沁みこんでくる映画です。」
あ・・・また喋りすぎたようです。
「サンドイッチの年、フランス映画。ええといつごろの作品かわかりますか?」
「あ~どうだろう・・・。たぶん80年代ですね。90年代ではないと思います。」
「トア君ありがとう。これ以上引き留めたら実巳君に怒られちゃうから。また質問しちゃうかもしれないけど、とりあえず持ち場に戻ってね。本当にありがとう。」
「いいえ、こちらこそ、お役に立ったのかどうか・・・。」
「役に立ったどころではありません、本当にありがとうございました!」
ピーコックさんが立ち上がって頭を下げるものだから、店内中の注目をあびてしまって、変な汗がでました。お辞儀もそこそこにレジ脇に退避。いったいなんだったんだろう。
ハルさんがピョコンとやってきて肘でグイグイ突きます。
「トアさん、手を握られていましたね~。」
「いや、そういう色っぽいものじゃないですね。なんでしょう、あれは何か仕事っぽいですよ。」
「トア?すずさん何か言ってた?」
「珍しくすずさんに映画の質問をされまして、どうやらお連れ様も興味深々な模様でした。でもなんでしょうね、真剣具合からいうと、ちょっとおすすめ映画教えてくれる?といった感じじゃないのです。
なんだったんでしょうね?・・・ミネさん?」
ミネさんはすずさんの座るテーブルを見るためにカウンターに乗り出すように前のめりになった。
ミネさんの視線の先にはすずさんとピーコックさんが何やら密談の姿勢。楽しいお食事会で会話が弾んでいますという雰囲気ではありません。
「トア、あれはたぶん、ちょっと前にすずさんが言っていた「ほうほう」の正体だ。」
「ほうほう?」
「なにがほうほう、かわからない。だがあれは企み中の相談に間違いない。
たぶん、この先トアの身に何か起こるはずだ。背中に気を付けて通勤するように。」
「なに怖い事言うんですか!」
「相手はすずさんだぞ?ハル父とおじさん並に上級ウィザードだ。」
・・・・・・・・・・・・。
僕が何をしたというのでしょうか・・・。
東さんといいましたね、ピーコックさん。なんか西山さんといい、北川さんといい、東西南北の人には注意したほうがいいのですか?
一体この先なにが待ち受けているのか!トアの身になにが!→つづく
という予告編が頭に浮かびました・・・。
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