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december.19.2015 高村のギャフン
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「こんな感じで考えてみました。」
さすが武本、話が早い。
トアがテレビ局のスタッフの目に止まった件を告げた2日後、武本はざっくり手書きのフローチャート兼プランニングシートをテーブルの上に置いた。
「思うに、トアの見た目は問題ないですが自分の記憶と知識をぶわ~~と言いますよね。その映画を見たことがある人にとっては「そう、そう!」という事も、基本情報がない人にとっては「?」の連続です。お客さんに聞かれて教えた映画、「見ました!」という反応を誰からももらっていないようですし。」
「まあ、そうなるだろうな。おまけにフランス映画や一風変わった映画ばかりだ。聞いたことが無いし、知っている俳優がでていないとなると、どうしたって最新作を手にとるのが一般人だ。」
「ですからね、小芝居が必要になる。それがこのスタートです。」
<※女性と二人で進行する> という但し書き。男同士よりは画面に軽さがでるはずだから、これはOKだろうし局側も反対する理由がない。
「相手役の女性ね。」
「ええ、質問やインタビューじゃなくて、仲良しの二人が休憩時間に話すような感じというか。中休みのトアと正明みたいなのがベストですが、さすがにそれだとスポンサーさんから苦情が来そうですよね。」
「来るだろうな~。じゃあ、こっちの社員を出す!ってことになるだろう。」
「そうなると色んなことが付属になって、軸がブレかねない。今回はやはりトアが中心だし、なによりSABUROにとっても大きなチャンスです。」
「そりゃそうだ。」
「ですから思い切って、スタジオから出るというのはどうでしょう。」
ほおお、それは考えなかったアイディアだ。
スタジオを出る、仲良しの二人、中休み。
・・・・?
「おい、まさか。」
「そのまさかの、まさかです。けっこういい考えだと思います。」
「これまたスポンサーさんが怒るんじゃないか?じゃあ、うちのショップで撮影しろ!ってことになるだろう?」
「ですから小芝居がいるんですってば。」
「小芝居ね・・・。」
ミツに小芝居ができるか?カチンコチンになって超大根にならないか?素人の大根っていうのは見ていて居たたまれない気持ちになる。
農家のおじさんとおばさんが、「おいしいよ~~。」「食べてね~~。」なんて野菜持っているCMをみただけで胸が苦しくなる。超棒読みか、頑張ってます!という精一杯を見せられると、こっちが謝りたくなる。あれはいただけない。
そして残念ながら、ミツはその可能性がとても高い・・・。
「スポンサーにしてみれば、なんで関係のない人間と店が出て来るわけ?という事になるだろう、なるよな。そこはどうクリアにする?」
「そこ考えたんですよね・・・。で、いっそうのことSABUROの店名を画面に出さないというのはどうです?」
「はあ?そりゃあお前、目的から外れるだろうよ。」
「いえいえ、「撮影協力:SABURO」のクレジットは番組最後のテロップが流れる中にいれてもらいます。衣装やらの他の協力と並ぶことになるし、小さい字だし番組終わりのテロップまでみる人間は少ないですよ、確かに。でも西山さんのブログと同じかなと思いまして。
「市内のとあるレストラン、遅めのランチをとってコーヒーと少しのデザートで満足。といいたいところだけれど少々浮かない顔ですね。」というイントロが入る。
そしてトアがまもなくクローズですと言いに来る。女子話しかける。
「最近楽しいことがないのよね~。スカっとしたり元気になったりするおすすめの映画はないかしら?」
という流れです。そのあとはトアがぶわ~~と一方的にトークする。台本ナシ。
「はわわ。また僕やっちゃいましたね。ついつい止まらなくなっちゃって。」もアリ。
そっから先はスポンサーと局さんの擦りあわせでいいんじゃないですか?
「レンタe-zoにいけばDVDあるかもしれない。」って女子が言うとか、ナレつっこむとかテロップかぶせるとかね、そこはもう任せていいと思うのです。
「BRUTUS」でたまにあるじゃないですか、映画特集。ちょっとオシャレなサブカルの人や有名人、監督に俳優たちがクレジットされていて「見てほしい5本、教えてもらいました。」的な企画。
メジャーな映画があまりでてこない。でてきても「スターウォーズは外せないですね。」なんていう昔の作品リスペクトな感じ。
あの路線を狙ったらどうでしょう。
いい雰囲気でギャルソンと客のちょっとしたおしゃべりがある店がイントロ。閉店間際で店内は忙しく働くスタッフがチラチラうつって、まかないを作っているシェフがいる。つくりこまれた物ではなく自然にいつもある景色です。
二人の会話にでてくる映画は知らないけれど、今度見てもいいかな。元気になれる映画か・・・。と視聴者が思えば儲けもの。」
武本・・・会社を辞めさせたのは間違いだったのかもしれんな。
これだと、別にSABUROの店名が映らない設定だとしても「どこのお店なんだろう。」「あ~私知ってる!」という会話につながるかもしれない。西山のブログを見た人間ならすぐわかるだろう。そして眼鏡男子のトアが動いて喋るわけだ。
・・・なるほどな。
「あとは充さんのアイディアを盛り込んでくれればいいですよ。オファーがきたら捻じ込んでください。」
「なんだよ、俺一人で行けってか?」
武本はジロっと俺の顔を見た。なんだよ、なんだよ、その困った子供を見るような視線は!
別にお前に甘えたわけじゃない!断じて甘えてなどい・な・い!
「今は12月ですよ?稼ぎ時ですよ?書入れ時ですよ?皆がアクセク働き、ミネと衛なんか超無口ですよ。そんな中スーツ着こんで「打ち合わせにいってくる。」なんて言えますか?俺は言えませんね。
それができるのは充さんだけです。
あとは宜しくお願いしますよ。そもそも俺を巻き込まなくても、このくらいサクサク考え付いたでしょうに。
充さんらしくない。」
なんだ・・・いつのまに生意気君になったんだ?
しかし認めようじゃないか。その通りだ武本。
俺は腹の底で考えていた・・・ミツは役不足じゃないか?
実は、飯塚を引っ張りだそうとしていたのだ。本人は相当嫌がるだろうが、武本が説得すればウンと言うだろう。それに武本はハリウッド作戦なる野望を持っている。飯塚を有名人にして、近寄りがたくするという作戦なのかイタズラなのかわからない案だ。
今回飯塚を露出させれば、その作戦実行になるぞ?という俺の目論見はあっさりかわされてしまった。男前を電波にのせれば何とかするだろう、局はプロなんだし。その考えは・・・認めよう!手抜きだということを!
「武本のハリウッド作戦はいいのか?トアと交代制でという案だって練ることができるだろう。」
「あ~、あれは忘れてください。」
「は?」
武本はキリリと表情を引きしめた。何を言うつもりだ、おい。
「俺達はどんなダイナマイトでも吹き飛ばせない岩盤ですよ。まさに盤石。雑魚な男も女も入り込む隙はありません。色々大丈夫すぎて困るくらいです。」
「・・・お前・・・なに言ってんの?」
「奥さんいるのに、プロポーズ受けて来世予約済なんていう方に何言ってんの?って言われてもね。」
「だっ!なんだ!どっからそんな話が漏れた!」
「へえ、本当だったんだ。どこからって俊己さんに決まっていますよ。」
俺は頭を抱えた。恥ずかしすぎて顔をあげたくない。なんということだ!
「ドギマギさせられるって、けっこう恥ずかしいですよね。今までのお返しです。ということで、この案件は充さんにお任せします。今日も予約入っていますから、俺はそろそろ準備にはいりますので。
お疲れ様で~~す!」
武本は頭を抱える俺の肩をポンポンと軽く叩いてマグ片手に厨房に向かった。
恥ずかしい・・・そして他人に知られている!秘密が知られている!
くそっ・・・俊己の奴。これ以上誰かに言わないように口止めしなくちゃいかん。命日来たばっかりじゃねえか、覚えているか?1年先の俺。
カバンをさぐり、今月買った手帳を開く。
10月3日のスペースにデカデカと書いた『俊己に口止め』
年に一回しか逢えないっていうのも不便だな、俊己。
俺はため息をついた。
ため息ぐらいいいだろう・・・武本にギャフンと言わされる日がくるとはな。
そうはいっても経験値はまだまだ俺に分がある。アイディアは武本のものだとしても、それをまとめる交渉は俺の腕にかかっているわけだ。
やってやろうじゃないか。いや、やってやるさ。
手帳を閉じてカバンに押しこむ。
さてとテレビ局さん、早いとこオファーってやつをくれないかな?
ニッコリ笑って、こっちの案を捻じ込んでやる!
ふふふ。
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