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december.25.2015 ミネとハルノクリスマス
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「もうちょっと味に変化あったほうがよかったかな・・・。」
「ピクルスみたいな酸っぱいものがあってもいいですね。」
「ピクルスね・・・。でも色がイマイチじゃない?」
「じゃあ、カリフラワーと赤いパプリカぐらいにして、イタパセを飾りにしたらクリスマスカラーですよ。」
「おおお、そりゃあいいね。」
「あと一人用は2段になっているじゃないですか。冷たくても食べられるものと温めるものとわけたらどうでしょうかね。片方はレンジで温めればアツアツをいただけると、より一層美味しく感じられそうですよ。」
「なるほどね。そこまで考えなかったなあ。ふむふむ。ってことはレンジ対応の容器を用意することを書いておかなくちゃならん。」
ミネさんのご自宅にお邪魔して(来年からはここが家になる!)クリスマス、な・・・はずが。
ビールでお疲れ乾杯したあと、クリスマスBOXを二人でつついています。
美味しいですね~なんていう会話がいつのまにやら、すっかりお仕事モード。
「ミネ帳」を片手に、来年に備えてのメモまではじまって、これはクリスマスではありません。
SABUROの日常的な場面、でも違うのは相手が僕だってこと。
飯塚さんでも理さんでもない、僕の意見を真剣に聞いてくれていて、なんだか嬉しくなっちゃいました。
「お客さんの会話をちゃんと聞いていてよかったです。それが商品になるんだから、どこにヒントが転がっているかわかりませんね。」
「厨房にいると、どうしても其処まで気が回らないわけよ。サトルのおすすめメニューのおかげで、お客さんと会話する機会もふえたけど、ずっとホールにいるわけじゃないからさ。ハル達の情報はほんと役に立っている。」
理さんが言った「お客さんと厨房の橋渡し」は僕にはとても大きい言葉だった。
だから来てくれた方が笑顔で満足してくれているか気になるし、料理の感想を言ってくれたりすると、全部ミネさんと飯塚さんに伝えます。
料理が残った皿が返ってくると、「お口に合いませんでしたか?」と聞くようにした。
お腹がいっぱいとか、アンチョビが苦手といったお客様の言葉をメモしています。今度みえられた時に苦手なものを出さないようにするために。顔を覚えるのが苦手な僕にはハードルが高いのですが、日々努力しています!
「クリスマス終わっちゃうな。」
リビングの壁にかかっている時計をぼんやり眺めてミネさんがそう言った。
「ほんとですね。怒涛の3日間が終わります。」
「俺さ、料理の話しをしちゃうと夢中になるみたいでさ。」
「料理に興味のないシェフが作るものなんか食べたくありません!」
ミネさんはちょっとびっくりした顔をした。なんで?
「彼女と食事にいくと、どんなレシピなんだろうって想像するし、考えながら食べるだろ。まさしく味わってだ。それで聞くわけ、これ食べてどう思ったか、どういうところが美味しい?盛り付けは?」
「それのどこか変なんですか?僕にはわかりません。」
「『私の話聞いてた?ソースに何が入ってるかなんてわからないわよ、美味しいからいいじゃない。
それより、連休は絶対無理なの?クリスマスは?』という展開になる。」
「ああ、なるほど。」
「だから、さっきハルが全然いやがらないで話をしてくれて、感想とか意見とか言ってくれたじゃない。
ミネ帳だしてガツガツ書きだしても嫌な顔しなかったし。なんか新鮮だったなって思ってさ。」
なんでこんなにイライラするんだろう。ミネさんにとって料理は職業だ、おまけにプロだ。
その相手が真剣に取り組んでいるのに、おざなりな対応ってどうなんですか?と言いたい。
会話を楽しみたいのなら、料理を前にしている時はあきらめて他の時にすればいい。
腹立つなあ・・・なんか。
「言ってもいいですか?」
「んん~?いいよ。」
「ミネさんがこの仕事をしている以上、隠居でもしないかぎりクリスマスは地獄ですよね。
世間一般がクリスマスに浮かれているのを横目に、その浮かれ気分を盛り上げるために頑張るわけです。
人が休んだり楽しんだりする時に働くのがサービス業じゃないですか。
ミネさんと一緒にいることを選んだのなら、それを理解して応援するのが彼女です!
他の誰かと一緒のようにベタベタしたクリスマスを過ごしたいなら別の人を選べばいい!」
「えっ」
まずっ、怒りにかまけてつい本音を言ってしまった・・・。
ミネさんはビックリした顔をしたあとフニャっと笑った。
そしていきなり僕をギュウギュウ抱きしめたあと、頭をガシガシする。
合わさった胸が離れて両腕を掴まれた後、そのまま揺さぶられて、僕の頭がカクカクした。
「うわあ~そうだよな。そうだよ。クリスマスに一緒にいてやれないことを負い目みたいに思っちゃってたけど、そうだよな!
一生俺にはクリスマスこないわけだよな。無いものねだられたって無理なんだよな!
すっげ~すっきりした!ハルありがと!」
カクカクするから!揺さぶらないで!
「イベントを大事にしたいなら、日程を前倒しすればいいだけですよ!アホみたいにシティーホテルに泊まるとか、豪勢なディナーとプレゼントとか面倒くさいですよね。
僕は楽しいです、こんなクリスマスも。
そして来年、クリスマスBOXの試作するときに、「そうだったな、ピクルスとか話したよな~。二人でクリスマスだったな~。」なんて言いながら思い出すんです。ずっとそっちのほうが素敵じゃないですか?
僕がミネさんの役にたって、それがお客さんの喜ぶ顔につながる。
それが一番嬉しいじゃないですか。」
「ハル・・・。」
「あ、それとクリスマスですから。日頃の感謝をこめて、どうぞ。」
用意していた包みをミネさんに渡す。
綺麗にラッピングされた箱を壊れ物みたいに手にとるのが子供みたいで何だか可愛い。
「あけていい?」
「もちろんです。」
包装紙を破らないように丁寧に剥がしていく。はがした後きちんと畳むから可笑しくなった。
僕は包装紙ビリビリ派だから。
箱の中身はルクルーゼのマグカップ。
フルーツグリーンの色が店のカラーのオリーブグリーンに似ていたから一目でこれだと決めた。
口コミレビューでも「口当たりがいい」って書いてあったのも好材料。
「店で使っているマグ、チップしていますよね。唇切ったら大変です。料理人が口元に傷をつくるなんてよくありませんからね。」
「ハル・・・。」
クリスマスにプレゼントを貰ったことはいっぱいあっただろうし、もっと高価なものばかりだったはずだ。
理さんと飯塚さんにプレゼントを渡した時もこんな反応だった。
予想していないプレゼントは驚きを与えるみたい。
そんな相手の表情を見ているだけで、プレゼントした甲斐がある。
「俺…何にも用意してなくって・・・。」
「いいですってば、美味しい賄いのお礼です。」
「あのさあ、ハル。」
「はい?」
「来年も俺と一緒にクリスマスしよっか。その時は俺がプレゼントするからさ。」
ちょっと照れくさそうな顔。
嬉しさをかくしれない素振り。
大事そうに両手でマグカップを握る姿。
これは盛大に不味い・・・です。
踏ん張らないと、踏みとどまれ自分。
「はい、プレゼント・・・楽しみにしています。」
僕は自分を裏切ってしまった。
ミネさんの笑顔に・・・抵抗できるはずが・・・ない。
これから始まるのは楽しいことより苦しいことが多くなる・・・それがわかっているけれど
やっぱり僕は、この人の笑顔を見続けたい。
そう・・・思っちゃったんです。
僕はずっとずっと長い間、見て視ぬふりしていた鍋の蓋をあけちゃいました。
とうとう・・・ね。
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いつも読んでくださっている皆さん、ありがとうございます。
この展開に「え?」「なんだって?」という反応があることは重々承知の上です。
実は「オードブル大作戦」でミネに出逢ったハル。初対面にもかかわらず、ミネがすっと入り込んできた様子を書きましたが、そんな風にハルの心の中にはつねにミネがいた・・・のです。
最初に完結させたとき、もし続編があるとしたら、仕事を頑張りつつ、ミネに恋をして苦しかったり切なかったり楽しかったりなハルの物語になるだろうと考えていました。
その展開に最初からしてもよかったのですが、SABUROに集う面々の生活に起こる少しの変化を積み重ねていくことで、ハルとミネの関係性が変わるかもしれないと書き続けてきました。
でもやっぱりハルの心はミネから離れることがなかった。
ミネにとってハルは仲間であり大事なスタッフです。そして思いっきりノンケの自覚がありますから、この先がどうなっていくのか、正直なところ私もまだわかりません。
一緒に住むようになって変化が起こるのか。
それともこのままなのか。
ハルが心を断ち切るのか。
これからはハルの心模様を織り込みつつの「男前とヤサ男」になるかと思います。
ご意見は様々あるかと思いますが、随分前にハルの気持ちがあった以上、そこを表にだしてやりたい。
毎日のアクセスが300程度の完結時であれば、すんなりハル編にいくこともできたのかもしれない。
でもだんだん読んでくださる方が増えていく中、きっちりとSABUROの面々を動かしたかった。
彼らの日々を丁寧に伝えたかったので、物語上では「オードブル大作戦」から約1年が過ぎてやってきたクリスマス。
この日を変化の日とさせていただきました。
今後とも読んでくださると大変うれしく思います。
毎回ハルが中心に物語が進むことはないでしょう。
仕事や日常のちょっとしたこと、高村の企て、ギイさんやマスター、すずさん。
彼らもSABUROに顔をだし、日々を彩ってくれるはず。
ちょっとしたお知らせというか・・・言い訳のような・・・ですが
今後もBL界のサザエさんを目指して更新を続けたいと思っております。
せい
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