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december.27.2015 12年・・・重ねた時間がみせる未来
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何時だろ・・・。
イブイブだと客に言われ、日曜・祝日は定休日なのに開店するはめになった。毎年24日と25日は微妙になる。相手がいる人間は店にこないし、来ている奴らは聖夜を共にする相手を探しにきている。
フリーだという看板を背負って店内に座っているのと一緒だ。そういう遊びはしたくないという、俺にとっては面倒がなく酒を飲みにきてくれる客はこの時期店にこない。
イブイブでもイブでも本祭りでも何でもいい。とにかくガッつく男達が増えるわけで、店の空気が普段より薄い。だからいつもより余計に気疲れする。
そして26日になれば、気分は年の瀬に切り替わる。クリスマスという横文字から、大晦日、正月、師走、仕事納め、そんなふうに一気に和風にチェンジ。日本人は切り替えが早いというか不思議な国民性だ。
いつもより長く寝ていた怠さがあるから、昼近い時間だろう。とりあえず買い物に行かなくては食べるものが無い。料理の道を極めるのは自分には無理だと最近降参ぎみだ。
なんせ何かを作ろうとするとベースがない台所は金がかかってしょうがない。調味料も食材も少量ほど高いということに気が付いてしまった。1.8Lの醤油は安売りしているのに、500mlサイズはいつも同じ棚に鎮座していて特売ワゴンに山積みになることはない。
このサイズだって、いったいいつになったら消費できるのか自信がない。
カット野菜の袋を買っているが、これに栄養が保たれているのか疑問だ。一袋は100円程度だがキャベツ一玉でこの袋がどれだけ作れるのか考えたら、随分無駄遣いをしている気がしてしまった。
だからキャベツを買ってみたが、千切りなるものがイメージ以上に難しく簡単に諦めた。
それからは炒めて食べることと、焼きそばを作ることで何とか一玉やっつけることができた。
俺の料理道はそんな程度だから、身体にいいのか懐に優しいのか判断できない。
「休みの日くらい、旨いものが食べたい。」
独り言を言ってみたところで、魔法のように皿が現れるわけもない。ベッドの横から水をとりゴクゴク飲んだ後シャワーを浴びる為に浴室に向かった。
とりあえず、店の名残は洗い流さなくちゃな。
頭をゴシゴシ拭きながら時間を確認しようとスマホを覗くと着信のランプが光っている。誰だろ。
そこにはメールが届いていると羊がおせっかいをやいていた。これはいらない機能だと毎回毎回思うが、随分このキャリアであるから変える手間が面倒だ。
儀・・・。
件名『開けろ。めしだ。』
本文・・・なし。
届いた時間は10分前。
すぐに電話を折り返す。開けろってことはここまで来たって事か?
「もしもし?」
『悪い、寝てたか?』
俺様なメールと打って変わって、「悪い」なんて言われて面食らう。
「いや、さっき起きてシャワー浴びてたから気が付かなかった。」
『鍵あけておいてくれよ。今から上がる。』
「わかった。」
話しながら玄関に向かいロックを外す。
俺が気持ちを打ち明けたあと、本当に儀は店にこなくなった。よく届いていたどうでもいい内容のメールの数が減り、俺の部屋に顔をだす機会が少しだけ増えた。日曜の昼ごろ、あとは平日の日付の変わった頃が週に1回くらい。
平日は缶ビールを1缶くらい飲んで寝るだけだ。会話はあるが、どうでもいい事や俺にはさっぱりわからない仕事の話しだったりで、結局俺達の関係は何も進んでいなかった。
11月も残り10日、そんなタイミングの告白から1ケ月を超えた最近は変化がなくてもいいと思い始めている。
自分の店で姿をみなければ外で何をしてようと関係ない。知らないことは無かったことに簡単にできる。儀の遊ぶ様を見なければ友達を続けることができるかもしれない。
このひと月でそんな風に考えることも多い。
簡単に言うと、俺は諦め始めていた。
アメリカ製のとんでもなく暖かい裏起毛のパーカーとスエットを身に着けた。タイマーをセットして寝たおかげで部屋の中は温かい。冷蔵庫を確認したら6本パックの500ml缶のビールが残っていた。
足りないとホザクなら買に行かせればいい。
ビールを二本とりだしテーブルに置くと玄関の開く音がした。
「よう。」
「よう。いいクリスマスだったか?」
儀は顔をしかめる。この表情をどうとったらいいのかさっぱりだ。
「仕事に決まってるだろ?年の瀬だぞ?家族持ちを解放してやった皺寄せをかぶるはめになった。
若い奴らはソワソワしていて見ているだけで効率が下がるから、そいつらも貸しにして帰したからな。
休日出勤、残業、残業。昨日は一日ゴロゴロして過ごした、そして今日ってわけ。」
「そうか、お疲れさんだな。俺もまあ・・・わかるだろうけど、気疲れして今朝は寝坊だ。」
「何も食ってないだろ?」
ああ、食べていない。俺は儀本人より、部屋に入ってきた瞬間からのいい香りに釘づけだ。
絶対旨いに違いない何かの香り。
儀はワインを3本買ってきたらしく、包みとボトルをテーブルに並べた。
「グラスを出すか。ビールは缶で飲む。ヒロは?」
「俺もそうする。」
ソファに並んで座ると思ったのに、儀は向かい側に座った。なんだかそれが気恥ずかしくて俺は何も言えないままビールをゴクゴク飲んだ。
休みの日、起き抜けのビールは旨い。ただし・・・けっこう回る。
「つまみになるようなものが何もないんだ。」
「いや、俺買ってきたんだよ。ちょっとキイに無理言っちゃったかな。」
「キイちゃん?」
「あの店の開店直後に行ってテイクアウトできないかって無茶なお願いをした。ヒロも俺もクリスマスのせいで仕事疲れだから身体にいいもの食べたいんだって言ったわけ。
そしたらいつもあるパニーニの他にサラダと煮込みハンバーグを用意してくれたんだ。」
「うわ、うまそ!」
「だろ?最初は怖い顔して俺を睨んだ男がシェフだった。キイが何か言ったら俺を見て、キイを見て、頭をポンポンだ。そして出てきたのがこの料理。」
「へえ~。」
「眼鏡の男は気にしてない振りをしつつ俺をマークしていたけど敵意はなかった。この間席に案内してくれた男いただろ?今回は笑ってくれたぞ。
何だかよくわからないが、キイが俺のこと説明したのかな。それに料理が二人分だったから、それもよかったのかもしれない。
やっぱり疲れたあとは旨いメシだ。あったかいうちに食おうぜ。」
キイちゃんは大事にされているようだし、そのおかげでこんな旨いものが食べられる。
今度逢うことがあったらお礼を言わなくちゃ。
缶ビールを急いで空にしてワインに取り掛かる。こういう料理を食べるならワインがいい。
そして思った以上にパニーニが旨かった。
「これ、旨いな・・・。」
「なんでできているんだろうか?シェフが作っているってことは俺達にもこの1/100くらいのものが作れないかな。」
「馬鹿だろ、お前。1/100ったら影も形もないよ、おまけに味がしない。」
儀は俺の顔を見て笑った。やっぱりコイツの笑顔は俺の心を引き攣らせる。こういう瞬間に思う、やっぱり友達継続案は無理かなと。
「でもヒロの作った焼きそば旨いぞ。」
「嘘つけ~。麺が完全にほぐれない時もあるし、ベチャっとなることも多い。何回やったらちゃんとできるかわかんない。」
「たぶん・・・俺の為に作ってくれるから旨いと思えるんだ。俺はそれに気が付いた。」
「は?お前のためって・・・俺だって食うわけだし。」
「それでもだ。誰かが俺のことを想いながら作ってくれるって、俺は経験がなかった。
豪勢なディナーなんていうのは格好つけてやったことはあるけど、誰かと朝飯を食べるとか、こうやって休みの日に同じものを食べるなんてした事がなかったんだよ。」
「そう、まじまじと言われると・・・何が言いたいんだよ。」
「あの日、ヒロが俺に言ってくれたこと、ちゃんと考えた。自分にとってのヒロの存在とか、今までの自分とか、この先の自分とか。
で、辿りついたのは「今までの自分」にも「この先の自分」にも必ずついて回るのがヒロだった。」
「え・・・。」
「面白いことがあったらヒロに教えてやろうか、旨い店をみつけたらヒロと行くのもいいかもな。俺はそんな風にずっと考えていたってことに気付いていなかった。
そしてヘタクソかもしれないけど、作ってくれた焼きそばを食べた時、なんだかホっとして・・・うっかりすると涙がでそうになった。
こうやって俺の知らない男に焼きそばを作ったりするのかな、そんな疑問が沸いたとき、ちょっとビビったよ。ビックリするくらいそれが嫌だった。」
「儀・・・。」
「ちゃんと言うには勇気が必要で、それがこの料理だ。美味しいものを笑顔で食べるヒロの顔を見ながらだったら、ちゃんと言えると思った。あの日ヒロが言ってくれたように。
だから嫌われているのを承知で、あの店に乗り込んだんだぞ。俺の本気度がわかるだろ?」
照れくさそうに笑っているけど、それは嘘でもなく本当の気持ちをのせた瞳の強さだった。だてに長年付き合ってない、儀の嘘も本気も目を見ればわかる。
「俺・・・でいいの?」
「ヒロがいい。」
「もう男遊び出来ないよ?」
「ヒロも同じだ、遊びはやめてくれ。」
「料理が上手くなる予定はない。」
「ああ、俺もな。でも二人で研究すれば焼きそばはクリア目前だと思う。」
「マジかよ・・・。」
「まじだ。」
俺は信じられないような、嬉しいようなフワフワした感じに包まれながらソファに座っていた。
儀がテーブルの向こうから俺の前にきて床に座る。ソファにだらしなく置かれていた両手がしっかり握られて俺の膝の上に置かれた。
「色々困らせたり我儘を言う自信があるし、際限なく甘えたり嫉妬したりしそう。でもそうやってお互いワイワイ過ごせば今まったく見えない将来ってやつも乗り越えられる、ヒロとなら出来ると思うんだ。」
「・・・ん。」
下から見上げてくる儀の瞳はキラキラ光っていた。堪えきれずポトリと零れた涙が重なった手の甲に落ちる。
儀はそこに唇をおとしたあと、しっかり俺をみつめて言った。
「お互いがお互いの彼氏になりませんか?」
どっと溢れた涙。俺はソファから転がるように床に降りて儀をしっかり抱きしめた。力強く回された腕が二人の間の距離を縮める。
「お互い、彼氏になろう。ありがとう儀。」
俺は12年の想いを成就させることができた。
そして俺と儀の背中を押したのが、あの店の料理であることは偶然じゃない。
「SABURO」
あそこは特別だ。儀と行って、見せつけてやろうか。
キイちゃんが困る?
そんなことはない。
美味しいと感じて、オイシイをかみしめる。
だな・・・儀
俺たちの世界はつながっている
そろそろ怖がらずに、「将来」っていう未来を見てみようか。
儀
お前がいれば、俺はなんでもできそうなくるぐらい
浮かれているけど幸せだよ
ありがとう・・・・儀
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