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december.28.2015 僕だけのクリスマス
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「うぉお!」
子供の成長は早い。翔のタックルは逢う度に力強さを増している気がします。
敵わないな、なんて思う頃には思春期を迎えて、「とっちゃん。」なんて言ってくれないかもしれない。
叔父さんなんて呼ばれたら、それはそれでショックだったり・・・。
「今年はクリスマスに来れなくてごめんな。」
翔は僕の腰に絡みつきながら、見上げてくる。・・・ううう可愛い、顔を見る度にメロメロ度が増してしまうから困ったものです。
「大丈夫だよ、今年からサンタさんも来なくなったんだ。だからパパとママからプレゼント貰ったんだ。」
「へえ~なんでサンタこなかったのかな。」
サンタはいる、いない、あれって親がこっそり置いてるんだぞ、俺うそ寝して確かめたから絶対だ!なんていう議論をしたのだろうか。そういう僕はサンタはいる派で中学生になって母親に「実はね・・・。」と教えられるまで、ずっと信じていました。
「僕より小さい子がいるお家に行かなくちゃいけないからだよ。赤ちゃんはどんどん生まれるから、小さい子は増えるから忙しくなるみたい。
だから僕のところはこれからパパとママがサンタさんの代わりをするんだ。」
「へえ~。」
「パパがそうサンタさんに言ったんだって。」
子供を育てるって大変だなと感じました。サンタという存在を信じている子に居ないと言うのは簡単ですが、「じゃあサンタがいるって嘘ついていたの?」なんて言われたら・・・。僕なら何て返していいやらでハワワワ~状態になってしまう。
「遅くなっちゃったけど、これクリスマスプレゼント。」
「ありがとう!今度は何の図鑑かな!」
翔は図鑑が大好きで、毎年1冊ずつ図鑑をプレゼントしています。今年は『季節の図鑑』
最初が恐竜で次が動物、その次が昆虫だったから、今年は少し趣を変えた。自分の周りにある四季やそれにまつわる様々なもの。そういう文化的な情報があってもいいかな、という僕なりのセレクトです。
「おなかすいちゃったよ!早く行こう!」
今度はグイグイ手を引っ張られて、うっかりよろけてしまいました。少し体を鍛えるべきだろうか。
ヒョロヒョロよりはちょっと筋肉がついているくらいが望ましいかもしれない。自分の逞しさのかけらもない白い身体を思い出してそんなことを考えたり。
白いのは仕方がない、ここは北国だ。でも筋肉に東西南北はないわけで・・・コンビニで「Tarzan」でも買ってみようか。
□
食事のあと義姉さんと翔はリビングでさっそく図鑑を開いている。僕と兄さんはダイニングテーブルの上で、晩酌を継続中だ。
「こんな年の瀬に押しかけて、義姉さんにも申し訳なかったです。」
「いや、いいんだ。クリスマスは忙しかったんだろう?クリスマスに暇だったら、そっちのほうが心配だ。」
僕は毎年24日か25日に兄の所にお邪魔してクリスマスをしていました。兄的には僕が「今年は彼女と過ごすので。」という断りを引きだすために始めた試みだったようですが、毎年律儀にやってくる僕を見て、ため息をついて笑顔で迎えてくれる。
そりゃ、僕だって「申し訳ない、今年は彼女と。」なんて言ってみたいですが、これがなかなかの難関です。最近は突破できる気がしません。
「クリスマスで一山越えましたが、大晦日のオードブルがありますからね。営業は29日で終わりですが、クリスマス以上に殺気立つでしょうね。厨房チームが大変そうです。年内最後の月曜は必要な休みですね。」
「繁盛は何よりだが、なかなか気が抜けないな。」
「大晦日の引き渡しが終わるまでは頑張らなくちゃ。」
「大晦日は何時頃来れる?」
「どうかな、引き取りのお客さん次第ですね。13:00以降の引き渡しですが、仕事の人もいるでしょうし、できれば厨房チームは帰ってもらって最後まで残ろうかと。だから時間はなんとも。当日電話します。」
「そうだな。大晦日は翔の夜更かし日だから、遅いくらいの到着が丁度いいかもしれないぞ?散々纏わりつかれるだろうから。」
子供の頃の大晦日、何時まで起きててもいいよと言われる唯一の日。僕は小学生の頃夜8:00に寝るのが約束事でした。兄は起きているのにずるいと思ったものです。よく寝たせいで背が伸びたのかもしれないですね。
「そういえばサンタさん、今年から来なくなったって。」
「そうなんだ。信じている翔に実は親でしたって言うのがしのびなくてね。プレゼントを渡す役目をサンタから仰せつかったことにしてしまった。ちょっと苦しかったけれど、プレゼントは両親から貰う、そしてサンタさんは小さい子の家に行くってことにね。
やっぱり屋根に足跡があったせいだろうな、サンタを信じているのは。」
「え?兄さんもしたんですか?」
兄は笑いながら頷いた。兄と僕がずっとサンタを信じていたのには理由があります。
たぶん僕が4歳くらいの頃。サンタを一目見てやろうと寝ないで頑張ったつもりが、やっぱり寝てしまって、朝目覚めると枕元にプレゼント。
嬉しくなって包装紙をビリビリしていると兄が窓の外を見ながら僕を呼んだ。
兄が指差しているから、何事かと横に立って外を眺めました。玄関のひさしの役割で2階の窓の下には屋根がついていた。
その屋根に足跡があったのです。足跡は屋根の端から窓に向かって点々とありました。でも降りていく足跡はない。
「お兄ちゃん!これサンタさんの足跡?すごいすごい!ソリを屋根のところに待たせてたんだね!だって降りていく足跡はないよ!!」
僕は大喜びで両親のところに飛んで行き、さっきの翔と同じくグイグイ手をひっぱって足跡を披露した。
「あら、ちゃんと来てくれたのね。」
「よかったな。」
そんな両親に頷きながら、日が照り雪が溶けてしまうまで僕はずっと足跡を見ていました。
兄は小学5年生、信じるには微妙な年頃だったかもしれないけれど、この物的証拠は子供心に大きく響いた。
中学生になって「実は・・・。」の後に続いた母の言葉。
「あの足跡ね、父さんがつけたのよ。」
僕はびっくりしてしまい、何を言っていいのかわからなくなりました。
子供たちが深い眠りにつくまでじっと待ったあと、両親は積もった雪に足跡をつける作業をはじめたそうです。長靴を履いた父が屋根に降りて窓のところから一歩一歩バックしながら端まで足跡をつけて、その足跡を辿って、また窓に戻る。
12月の寒い夜中に、子供のためにそんなことをしていた両親の姿を思い浮かべると、嘘だったのか・・・という考えは全然浮かばなかった。
なんだかとても大事にされているという事が理解できて、ものすごく嬉しかったのです。
サンタさんはいないかもしれないけれど、自分には両親がいる。サンタを信じている子供のところにだけサンタさんが存在すればいい。
思春期という微妙な時期を迎える前に教えてもらったエピソードは僕の心に沁みました。
何があっても味方でいてくれるだろうという確信は反抗期を素通りさせるほど強いものだったのです。その代り兄に矛先がいったのは大変申し訳ないことでした。
「二世帯住宅に建て替えると、あの屋根はなくなってしまうことがわかってね。建て替えの時期を遅らせて俺も屋根に足跡をつけたんだ。」
「そうだったんですか。」
「あの時の稔明と同じくらいの歳だったから、翔は大喜びだった。部屋中跳ねまわっていたよ。」
「そうでしょうね。」
そうやって血がつながり、親から子へ気持ちが受け継がれていく。それはとても素敵なことで、クリスマスは終わってしまったけれど、プレゼントを貰ったような気持ちになった。
「この先どういう未来があるかはわからない。そのうち両親もいなくなる時がくる。そうなってもしタイミングが合えば、ここに住めばいい。二世帯住宅が必ずしも親子である必要はないからな。兄弟だってありだろ?」
「兄さん・・・。」
両親だけではなく、義姉さんができて、翔がいる。人数の増えた家族がまた何かを次の世代に伝えていく。
彼女ができないとか、結婚できる気がしない、そういうことではなかったのですね。
今ある家族とともに、僕と一緒に歩んでくれる人を待とう。現れてくれなくてもそれは仕方がないこと。現れなくても僕には「家族」があるし、翔に伝えてあげられるものだってあるかもしれない。
そうですね、なんだか気が楽になって・・・暖かくなりました。
「今決めろってことじゃないさ。先は長い。」
「これからもちょくちょくお邪魔します。」
兄は何を言ってるんだという顔をした。
「ここはお前の実家だろう。自由に出入りしていいんだから、もっと顔をだせ。翔も喜ぶ。」
「はい。」
目をキラキラさせて図鑑に顔をくっつけている翔を見ながら思いました。
クリスマスは日付の問題じゃないですね(特に日本においては。)
家族と繋がっている事を実感する、大切な日。
来年の月曜日は何日かわからないけれど、僕のクリスマスは毎年日付が変わる。
僕だけのクリスマス。
傍にいてくれる人が現れても、ここに来よう。
その人と一緒に・・・。
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