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February.10.2016 理とハルの中休み
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「それにしても・・・思い出すだけで顔が赤くなります。」
「だったら思い出すな。」
思い出すなと言われましても、僕の向かいには理さんが座っているわけで・・・。飯塚さんの指輪にチュー事件を思い出すなというほうが無理な話ですよね。
「皿洗いしながら何か言われました?」
「なにも?無言。」
無言・・・なんかそれもそれで、ちょっと恥ずかしい。
「なんで正明が照れるんだよ。」
「いや~なんか。仲良しさんですね。」
「仲は良い、当然だ。」
随分あっさり言うので驚きました。だって理さんはちょっと照れ屋さんでうっかり地雷を踏むと怒りそうだったんですよ?それがどうですか、この潔い認めっぷり。
あっさり、きっぱり断るというのが、あんな荒業だったとは。僕は荒いといえば手荒な方だったと思い出して、ちょっと自己嫌悪。飯塚さんのように甘~~い断り方をすればよかったなと考えてしまいました。
「ホールに背を向けていてよかったですね。あんなの見せられたら理さん、ボンっと赤くなって皆さんにバレバレでしたよ、きっと。」
「それは認める。目撃してたら正気を保てなかったと思うよ。」
理さんの正気を失うってどんな風になるのかな。・・・・いやいやいや、いけません、身近な人に対して余計な想像は禁物です。
「飯塚さんとの暮らしは快適ですか?」
理さんは少しだけ僕の顔を長く見つめた。・・・僕なんか変なこと言いましたか?
「そうだな、快適だ。まず食べる心配をしなくていい。」
「ああ~それはありますね。」
「一人暮らしの時に、1週間分の米を炊いて冷凍。あとは適当に買ったものを食べていたわけ。焼くと炒めるしかできないし、実はその違いもイマイチわかっていない。味は全部塩コショウ。
だから週末が楽しみだったんだよな~。」
「ああ、飯塚さんの御飯日ですね。」
「そそ。」
飯塚さん、着々と餌付けしていたわけですね。「男を落すにはまずは胃袋。繋ぎ止めるのも胃袋。」とはよく聞きますが、落すのと繋ぎ止めるの両方ですから最強ですよ飯塚さん。
「仕事も一緒、家も一緒ってどうなんですかね。飽きたりしないのですか?」
理さんはまた僕の顔をじっと見ました。何かを探るような目で。
「飽きると思うか?」
・・・どうだろう。一緒に家を出て同じ職場に出勤する。ミネさんは厨房に入り、僕はホールを整える。お客さんを笑顔にしてちょっとくたびれて家に帰る。「おやすみ」を言い合って自室に引き上げる。翌朝同じ朝ごはんを食べて・・・。
「あき・・・ないような気がします。」
「なあ、正明。」
「なんでしょう。」
「正明は大丈夫なのか?」
さすが、おサルさんですね。「なんのことですか?」とすっとぼけることもできますが、理さん相手に誤魔化しはきかないだろうし、バレちゃっているなら嘘を言っても仕方がありません。
「大丈夫かどうかは・・・正直わかりません。そんなバレバレですか?僕。」
「いや、それはないかな。俺がミネ派だからわかったっていうか、先が見えたというか。」
「先?」
「俺が正明の立場だったら、絶対おかしいことになる自信ある。衛がいるからそれは有り得ない事なんだけど、「もし」として想像すると、それ以外見えないわけだ。だから正明も当然そうなってしまうだろうなって、まあ、余計な心配なんだけど。」
ミネさんは最初からスルっと僕の中に入ってきた。ニヘラオーナーなんて思っていたけど、僕がマニュアルにはない仕事ができる人間だって言ってくれた。人に試されることをされるのは嫌なのに、あの時は思わなかった。一緒に働いたら楽しそうだとワクワクした。
僕の事もちゃんと聞いてくれたし、両親にも向き合ってくれて・・・そうですね、すでにおかしいことになっています、充分に。
「どうなるか、いやどうにもならない事はわかっているんです。でも笑っている顔を見られるうちは傍にいたいと思っちゃうだろうから、どうしようもないですね。」
「結局はそこか・・・。」
「どこですか?」
「ん?どうしようもないって事。自分の事なのに自分が自分に刃向うだろ?止めておけっていくら言っても聞いてくれない。惹かれるものから逃げ出せない。そう、どうしようもない。」
本当ですね。自分が自分に刃向うか・・・理さんのことだ、随分ヤメロ!って自分に言ったんだろうな。暮れ前あたりから元気がなくなって、飯塚さんとコンビニに来ても笑っているけど何だか気になる笑顔だった。そしてバレンタインの日に僕は思い切って行動を起こした。それが繋がって今の僕が居る。そう考えると何だか不思議です。理さんから飯塚さんに、そしてミネさんに繋がっていく。クランキーチョコが橋渡し。
「理さん、今年もクランキーにしますから。」
「ああ・・・あのチョコは素敵アイテムなんだ、俺にとって。」
「素敵アイテム?」
「あのチョコのおかげで正明と知り合えた。そして20枚の時は、勇気が沸いて現状打開してやるって決めたんだ。だから14日とクランキーは俺にとって大事なんだよ。正明がいなかったら、俺はここにいなかっただろうし、衛と暮らしていなかったと思う。」
理さんはニッコリ笑ってくれた。
そうですね、僕にとっても大事な日です。そしてクランキーチョコも。
「今年は何枚にしようかな。」
「ん?1枚で充分。」
「それじゃ、あまりに芸がないです。」
「じゃあ、何枚か楽しみにしているよ。」
「ポストイットに理由を書いて貼っておきます。」
「そうだな、ポストイットは重要だ。」
理さんが僕の頭をポンポン。SABUROの皆にポンポンされるのは好きです。大事にされているって実感できるから。お客さんからされるのは・・・ちょっとな~。あ、でもすずさんなら大丈夫です。
今年は何枚にしようかな。
14日まであと少し。
理さんと話をして、なんだか少し落ち着きました。そうですね、どうしようもない事を思い悩むくらいなら、そこにある笑顔を見ているほうがずっといい。
カウンターに飯塚さんと並んで座っているミネさんの背中を見ながら、笑っているはずの笑顔を思い浮かべる。
それが僕のできることで、望む事-ミネさんの笑顔。
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