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March.1.2016 二人の初めての朝
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「おはようございます。」
「おはよ~ちゃんと寝れたか?」
「はい、ベッドありがとうございます。」
「の~うぇるかむ。」
どういたしましてって言葉だけど、僕のこと「いりませんよ~。」に変換されて聞こえてしまった。
いけないですね、朝から。
ポジティブ、ポジティブ。
「ミネさん、コーヒー飲みますか?」
「お、淹れてくれる?」
「はい、朝イチの僕の仕事にします。」
ミネさんの後ろを歩いてキッチンへ。4帖くらいの細長い間取りのキッチンだった。築30年以上たっているマンションなので対面式じゃない。調理台の上に物がほとんど置いていなくてスッキリしています。実家のキッチンはスパイスとかなんかよくわからないものがコチャコチャおいてあったりする。家庭によって全然違うことを実感。
「引出とかガンガン開けていいから。物の場所をおいおい覚えてくれればいい。んで、コーヒーはここ、一緒にフィルターもあるから。食器棚にマグがある。そういやハルの食器はある?」
「いいえ。オール100均だったし、欠けたりしてたので理さんにごみ袋行にしろと指令がでまして。」
「理は食器に思い入れがないらしい。飯塚が嘆いていた。盛り付けのセンスもないし、料理も作れないらしいぞ。なんでもできそうなのにな。」
「ですよね~テキパキさんなのに。飯塚さんがいなかったら飢え死にしそうです。」
「まったくだ。」
僕はコーヒーメイカーのスイッチを入れながら食器棚の扉をあけると、マグが6つあった。ミネさんのはどれなんだろう。
「ミネさんのマグはどれですか?」
「ん?あ~それ全部俺の。気分によって日々変わる。」
今日の気分はどのマグなんだろう。ミネさんが僕の左肩に手を置いて背中ごしに右腕をのばす。なんかドキっとする体勢じゃないですか?嬉しいけど・・・。
「ハル、これ持ってみ?」
木目が綺麗な木のマグカップ。へえ~こんなのあるんだ。手のひらを上にするとポンとそのマグが置かれた。
「うわ!軽い!なんですかこれ!」
「これね『KAMI』っていうの。文字通り紙のように薄くて軽い、でもれっきとした木製。なんかこういう職人魂みせられると燃えるよな。これ冷めにくいしお気に入り。今日はハルがこれ使うといい。俺は備前にしようかな。備前だと「桟切」が一番好きなんだ。」
「さんぎり?」
「そ、炭の近くにあったりすると、こういう肌になるんだ。色の変化が綺麗だし、これで飲むといつもよりまろやかに感じる。ほんと人間って頭で食べたり飲んだりするよな。」
ミネさんの格好いいのって・・・こういうところなんですよね。ニヘラ~としている外見に騙されちゃいけません。中身が色々詰まっている。そのギャップに惹きつけられてしまうわけです。
たかがマグカップ、されどマグカップ。
100均を捨ててよかった・・・ここに並べるわけにはいきません。
『ピーー』という音はコーヒー完成のお知らせだ。僕の手からマグをひょいと持ち上げてミネさんが背中からいなくなった。
コーヒーを注ぐコポコポした音がなんだか優しい。
「毎朝8:00には朝ごはん。俺は7:00には起きてるから、その前後に起きればいいと思うよ。ハルはちゃんと朝食べてた?」
「あればパンかじったり。あとはフリーズドライのお粥とか雑炊ですね。箱で買ってました。」
ミネさんはジトーっと僕の顔を見る。だってしょうがないじゃないですか。僕には料理の技術が備わっていないのです。
「ハルの舌、リハビリさせないと駄目だな。」
「僕・・・味覚音痴ですか?」
「いや、そうじゃない。でもクリアにして沢山の味を感じられるようにならないといけないね。飯塚がせっせと理の舌を矯正したように俺も頑張らねばなるまい!」
「理さんの舌?」
「そ、コンビニ弁当とかカップメン完食できないらしい。味が濃すぎて。」
「ええ!僕は完食できますよ?」
「ぶっぶ~~。ハルのほうがダメ人間でダメ舌です!」
うぐぐぐぐ。
駄目人間言われた。駄目舌ってなんですか、もぉ~。
「よっしゃ、素敵朝ごはんを用意しよう。ハルはコーヒー飲んで適当にしときなさい。」
ミネさんが支度を始めたので僕は掃除機をかけた。洗濯はまとめてした方がいいよね。毎朝ミネさんがごはんを用意してくれている間にリビングとどこか一か所の掃除をすることに決めた。じゃあ今日はトイレ掃除をしよう。
こうやって毎日を暮らすのか。役割分担をして、自分のできることをちゃんとして笑って過ごす。
そうだよね、笑っているのが一番ですよね。
朝ごはんは「キャ~~~!!」と女の子だったら言ってしまいそうな献立だった。
焼き魚(今日は鮭)
キンピラ
冷奴
ふわふわのだし巻
小松菜のおひたし
雑穀米とお味噌汁!
「美味しい・・・。」
「本当に旨そうに食べるな~ハルは。日本人であるDNAをしっかり舌に刻みなさい。俺はどうやっても日本人だ。イタリア人になってパスタを作るってことにはならない。日本人が美味しいと思えるパスタでいいと思うんだよ。「本格的」って何をもって言うのかわかんないけど。イタリアの食材を取り寄せるより地元の食材を使ったほうが新鮮だし美味しいと思うし。ブロード作れるのに出汁がひけないなんて本末転倒だろ?」
ブロードはスープです。フランス語ならブイヨン。日本人が美味しいと思えるパスタ。そうですよね、美味しいと思えるものが一番だと思います。イタリア本国ではこんなパスタはないっていわれるナポリタンだってミネさんの手にかかれば最高に美味しい(ケチャップ使わないんですよ!)
「そうですね。この朝ごはん毎朝ですか。」
「そ、献立はあんまり変わんないかな。常備菜は毎週変わるよ。月曜日は色々することがあるけど、常備菜作りもその一つ。」
「僕手伝います!」
「あたりまえで~~す。」
ミネさんは頬杖をつきながら少し首をかしげて右手を伸ばした。
いつものように僕の頭をワシャワシャする。
「ほんと、旨そうに食べるのな。作り甲斐があるし、自分で作って一人で食べるより何倍も旨いし嬉しい。仲良く暮らしていこうな。」
「・・・はい。」
ミネさんの優しい笑顔に向かって笑顔を返す。
先にあるものが何かを考えるのは止めよう。毎日をしっかり自分に刻んでミネさんの笑顔を見詰めよう。それが積み重なって僕とミネさんの時間になる。
何事も永遠はない。短くても長くても「いつか」はやってくる。心配してもしょうがない。
そういうことですよね、ミネさん。
「仲良しで暮らします。」
「大変よろしい。」
こうして僕とミネさんの同居生活が始まった。
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