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March.7.2016 切ない朝
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「はよぉ。」
あくびをしながらキッチンに入ってくるミネさん。休みの日はいつもより起きる時間が1時間遅くなる。
でもたったの1時間、もっと寝てればいいのにね。
「おはようございます。コーヒー入ってますよ。」
「ありがと。」
リビングのテーブルにコーヒーを運び、ソファに座ってテーブルの上に置いたマグカップを両手で包む。
「いつももしますね、それ。」
「ん~?」
「カップ、熱くないですか?」
ミネさんは自分の手を見て、初めてそんなことをしている事に気がついたような顔をする。
いつもクルクル表情が変わって眺めるのが楽しい。
たぶん、それは怒ったり不機嫌になったりのマイナスな表情をほとんどしないから。
「自分で淹れたコーヒーにはしないって知ってた?」
「・・・そうでしたっけ?」
だったかな・・・。そういえば店の中休みで毎日コーヒーを飲むけれど、こんなことはしていないかもしれない。
「誰かが自分の為に淹れてくれたって思うとさ、なんか暖かいじゃん。
だからさ、ついついこうしちゃうんだよね。美味しさ倍増な気がするし。
ハルが毎朝淹れてくれるから俺、大満足。」
フニャっと笑うミネさん。
でも僕の心のどこか遠くの場所には少しだけ影がさすのです。
『ハルが淹れてくれてくれたって思うとさ・・・』
たぶん、本当はこう言ってほしいのかもしれない。
僕じゃない「誰か」が淹れたコーヒーでも、今と同じようにマグカップを抱き締めるんだろう。
変な場所に自分の心がおっこちないように、勤めて明るく僕は言う。
「30分後に洗濯を開始しますよ!パンツも取り替えてシャワー入ってスッキリしてくださいね。」
「はぁ~~い。ハルはお母さんか!ってたまに言いたくなる。ハルは母親に変身するのであ~~る。」
ご馳走様と言ってウ~~~ンと大きな伸びをする背中を押すと、ようやく動きだすミネさん。
浴室のドアが閉まる音。
洗うために手にとったマグカップは、コーヒーのぬくもりで温かいまま・・・。
ミネさんのあとにシャワーを浴びて洗濯を開始、洗濯機が止まるまでの間に、リビングの掃除をする。
「物はもとの場所に戻す」これは村崎寮入寮の際に言われたこと。
だから床に何かが散らばっていたり、シンクに皿がたまることがない。
だから掃除といってもホコリを払って、掃除機をかけるくらいで簡単におわっちゃう。浴室は使ったあとにどこかしら磨けばいい状態をキープできる。トイレと洗面所を綺麗にすれば、今日の掃除はおしまい。
ここで「ピーピー」と洗濯機が止まる。
洗濯ものを干したら朝ごはん。
ミネさん作の和定食のような朝ごはん.が出来上がる。
「いただきます。」「いただっきま~~す。」
雑穀ごはん、野菜がいっぱいの具だくさん味噌汁。焼き魚と冷奴、おひたしと常備菜。
ふかふかのだし巻玉子。
毎日食べても飽きない最強の朝ごはんです。
これを目にすると一日頑張ろう!って思う事間違いなし。
「毎日食べてんのに、いっつも嬉しそうに食べるよな~。」
ミネさんは可笑しそうにいつもそう言う。
だって、これが毎日僕の為にでてくるんですよ?嬉しくなるに決まってるじゃないですか!
「作ってもらって当たり前って顔、一回もしてないだろ?だからね、俺も嬉しくなっちゃうわけ。
作ったかいがあるってもんさ。」
「感謝感激雨霰ですよ!作ってもらって当たり前とか、ありえません!あっ・・・。」
「あっ?」
「実家ではごはんがあって当たり前とか平気で思っていたなって。
僕、この店にくるまで料理に沢山の手がかかっていることを考えたこともなかったんです。
なんだか、母親に申し訳ないって思いますよ・・・。」
ミネさんはニッコリ笑う。
「今からでも遅くないさ。今度広美さんの御飯食べたら、美味しいって言ってあげればいい。
今まで作ってくれてありがとうってね。
感謝に対して礼をする気持ちがあれば、遅い早いよりも、ちゃんと伝えることのほうが大事。」
いつも大事なことをサラっと言ってくれるから、気が付いていなかったことを実感させてくれます。
理さんや飯塚さん、トアさんも僕を思って言ってくれることが沢山。
すごく恵まれているなって・・・最近よく考えるようになりました。
「一休みしたら、一週間分の買い出しにGO!」
シンミリする前に説教くささと無縁のミネさんは、すぐに話題を変えてくれる。
「ミネさんのひじき煮が食べたいです。」
「じゃあ、今週の常備菜はひじきだな。」
こういうのって、嬉しいとか幸せだって思っていい、そう感じるのに同時に寂しくなるのは何故でしょうね。
最近僕は切ない子です・・・。
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