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March.9.2016 心配してもしょうがない事だけど
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「正明との同居はどんな具合?」
「すこぶる快調、おまけに楽しい。」
「そっか。」
一日の大部分を一緒に過ごす生活。トイレに居る時と寝ている時くらいしか一人になる時間はないだろう。俺の場合は寝るのも一緒だから、そう考えたらシャワーやトイレの時間以外、視界の中には衛がいるということになる。なんだかそれって凄いことで、絶対自分にはできないと思っていた生活だ。
つねに誰かの存在がある時間と空気。息が詰まるだろうと考えていたのに、いざそんな状況になってみれば毎日は穏やかだ。
「すっげ~旨そうに食べるのよ、ハル。」
「ミネのごはん美味しいもん。そりゃあ当たり前だ。」
「そうだけどさ。ほぼ変わらない献立の朝食を毎回美味しい美味しいって食べる。」
「俺だって衛が作った料理は何回食べても旨い旨い言うよ。それが同じ料理だったとしても、毎回美味しいからそれ以外言うことがない。」
頬杖をついてマグのふちを人差し指の先でつっつくミネの顔は柔らかく微笑んでいる。だからやっぱり俺は心配になる。正明は昇ったり落ちたりする気持ちを持て余していないだろうかと。
俺がかつてポンコツになったように、色々なことを考えすぎて弱ったりしないだろうか。
「誰かと暮らすって、なんていうの?どっか息苦しいとか面倒くさいことが持ち上がるんじゃないかってずっと考えていてさ。おまけにアレだ、俺の場合ずっと振られ男なわけだし、その理由が一緒にいないってことだから。これってたとえ一緒に住んだとしても問題解決できないのよね。」
「ん?それどういうこと?」
「前に飯塚にも言ったけど、女の人の「一緒にいたい」っていうのはさ、「一緒に同じ事をしたい」ってことっぽいわけ。どこかで食事をしたらレシピや盛り付けだって気になるし、サービスとか見るべきところは沢山あるだろ?だから盛り付けの感想だって聞きたいわけ、一般的な視点から。まあ、そうなると向こうが言うには俺が仕事をしている事になるらしい。一緒にいるのに何でそうなるの?と・・・なるわけだ。」
「ああ・・・わかるよ、それ。」
「向こうが望むのは「一緒に食事を楽しむ」それはつまり会話をしながら笑ったり、へ~なんて言い合ったりなんだよね。だからレシピや盛り付けを考えている俺と同じ場所にいても同じことを一緒にしていないっていう事になる。だから何事においてもそれがつきまとって溝になる。同棲して一緒にいる時間を増やしても解決できない問題なわけ。」
「なるほどね。でもさ、そもそもミネはそういう職業の人間だってわかってんだろ?もし衛が料理に無頓着になったり、味わいもせずガツガツ食べるとか観察もしなくなったりしたら、熱は冷めると思うよ。そんないい加減な人間は嫌だ。」
だってそうじゃないか。ミネは高校生の頃からずっとあちこちの店で腕を磨いて学び続けてきた。ちゃんと目的をもって毎日を生きていたわけで、それって同世代の人間とは明らかに違う場所を歩いていたということだ。それをわかっていて好きになって付き合って・・・自分を優先しろ的な思考はなんだろうな。
俺には理解できない。
仕事のできない男は嫌だし、自分だって出来るようになりたい。だから仕事を全うするうえでの知識を欲しなくなったり興味を持たなくなったらそこで歩みは止まる。
俺はそんな人間の横にいたいわけでもないし、もちろん腕をとって引っ張りあげるなんてことは絶対しない。
関係を解消して自分の道を自分で歩く。
「そっか~。やっぱ男のロマンと女のロマンは違うんだな。」
「たぶん・・・違うと思う。種族が違うというか、全部違うと思う。俺はそこが理解できなくて、そもそもしようともしてなくて。恋愛にはホント無頓着だったな。楽しいと思う事もなかったし。
衛は仕事の接点が最初だったから、追い越せ追いつけじゃないけど自分達の能力を伸ばす意欲っていうの?あれが同じだったんだよね。一緒に仕事し続けたいっていうかさ。だから、女の人が男を好きになるのと入口が違ったと思う。一緒にいたいというより、一緒に前に進みたいというか。
う~ん、なんかうまく言えないな。」
ミネは俺の顔をポカーンと見た。あれ?俺変な事言った?
「一目惚れとかじゃないの?」
「ないよ!なんでだよ。確かに顔を初めて見た時「なんだよ、これ。ずるいな。」って思ったよ?でもそもそも男同士だぞ?一目惚れとかじゃないから。」
「なんだ、てっきり初対面の時にドキがムネムネになって、これはいけない、これは間違っている、でも好き~みたいな葛藤を繰り返すうちに、溢れる想いを隠せなくなって~~という展開かと思っていた、正直なところ。」
俺は飲み込んだコーヒーにむせそうになり息を止める。
なんだよそれ、なんの漫画かドラマだよ!
「ありえない、いや、そういう人もいるかもしれないけど、俺達は違うよ。」
「ハルみたいにゲイだって自覚している男ならともかく、普通に女とつきあってきた男だろ?そんぐらい強烈なものが切っ掛けなのかなって思いこんでた。」
「そういう見方というか考え方もあるのか。へえ~って感じだな。俺は衛の仕事に対する姿勢が好きだった。進め方も好きだった。だから俺なりのサポートをすることで自分のレベルアップを図った。そして衛がまた前に行き、俺が後を追う。その逆もしかり。そうやっているうちに、一緒に仕事をするのが好きになって、毎週食べる衛の料理が好きになる。だんだん一緒にいる時間が好きになって、気がついたんだ。衛本人のことが好きなのかもしれないってね。
きっかけは人それぞれだと思うけど。
何が好きの入り口になるかわからないよ?自分を理解してくれることかもしれない。
そんなこと言ったら、旨い旨いって食べてくれる笑顔かもしれないじゃないか。」
ちょっと踏込すぎたかな・・・。
「へえ~そんなふうに変化したりするのか。たぶん俺は理解して欲しいんだろうな。理解してくれて一緒に俺のように盛り付けが~とか、この味はなんだろう?なんて言ってワクワクしたいんだろうな。
だから俺は理と飯塚がさ・・・時たまめちゃくちゃ羨ましくなる。
ムカムカするほど羨ましくなる。」
ミネは言っちゃったと笑いながらコーヒーをコクリと飲み込んだ。
柔らかい笑みには寂しい影が落ちていて・・・なんだか俺は胸が苦しくなった。
そしてまた考えてしまう。こんなふうにミネが心のうちを少しだけ話すようなことがあった時、正明は大丈夫なんだろうか。「大丈夫ですよ、ミネさんなら大丈夫です。」そんなことを言って慰めながら、一人になったベッドの中で泣いたりしないだろうか。
そんな想像にまた胸が苦しくなる。
始まったばかりの同居生活。楽しいことが沢山あればあるほど、正明が悲しむことにならないか、やっぱり俺はそれが心配だ。
俺が心配しても・・・どうしようもないことだけど・・・。
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昨日3/8の15:00くらいでしょうか、うっかり本日分の原稿をあげてしまい、大慌てで削除したりバタバタしました。変な通知が届いてしまった皆さんごめんなさい。
内容はまったく変わっていないのでご安心を。
うっかりポカ・・・減らしたい誤字脱字並みに初歩的ミスです!!
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