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March.15.2016 HAPPY BIRTHDAY
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皆さんにとってはブルーマンデーな日、僕はブルーチューズデー?
サラリーマン時代は月曜日に目が覚めると、ああ・・・また1週間が始まる、なんてぐったりしたものです。でもSABUROで働くようになって、そういう目覚めはなくなりました。よし!今日も頑張ろう!なんてかなり前向きな朝を毎日迎えているのが不思議です。
何でも気の持ちようなんですね、僕はすっかりポジティブワーカーです(今思いつきました。たぶん英文的にはダメそう・・・ですが。)
そんなことをツラツラ考えながら歩いているとお店に到着です。
「おはようございます!」
「おはよう。」
「おはよう。」
おや、今日はまだミネさん&ハルさんは来ていないようです。だいたい皆さん同じ時間に到着するので、まもなく出勤になるでしょう。
「トア、すごく綺麗な色だね。それもバナリパ?」
「はい、そうです。」
僕はその先を続けようとして、ハっとなって口にチャックです。
実はこのポロシャツはプレゼントなんですよね。昨日のお休みはホワイトデーで、おまけに僕の誕生日だったりします。兄はクリスマスと同様、3月14日は家に来るように言うわけです。「今年は彼女と過ごします。」そう僕が言うことを期待して。
残念ながら期待に添えず、今年もしっかり招待を受けてお祝いをしてもらいました。
このポロシャツは半袖なので、今の季節に着るにはお馬鹿さんなタイミングですが、どうしても今日着たかった。義姉さんと一緒に買い物にいった時に翔が見つけてくれたポロシャツです。とてもきれいなエメラルドグリーンで手触りが抜群のコットン製。なんと去年の夏にこれを見つけて、絶対誕生日プレゼントにすると言い張ったらしい。そして半分はお金を出すと言って聞かなかったそうです。
翔のお年玉から半分が支払われ、夏から秋、そして冬を越える間ずっと大事にしまっておいてくれた。それを聞いて感激のあまり、ウルっとしました。一人だったら絶対号泣したのは確実です。でも翔の前でオイオイ泣くわけにはいかないので堪えました。ギリギリ握りこぶしを固めながら。
兄は僕の顔をみて優しく頷いたものですから、決壊ギリギリでした。
だから絶対今日はこれを着たかったのです。温かいコートを羽織れば問題ありません。
それに少しくらい身体が寒くたって、心はポカポカですから大丈夫。
それを理さんに言ってしまうと、誕生日だったってことアピールするみたいで嫌だったのです。
「あ~まじで?なんにも用意していない!」と気まずい思いをさせてしまうかもしれません。去年の11月、ミネさんとマグナムボトルのワインを買ったあの日!まさしく僕はそんな気分を味わいましたからね。さらっとでいいのです。お祝いは昨日たっぷりもらえましたから。
着替えてハンガーにかけたポロシャツを見ると自然にニヤけてしまいます。
僕はすっかり馬鹿叔父ですね。
◆◇◆
「はいお疲れさ~~ん。」
ランチ営業終了後のお楽しみといえば、やはり賄です。これって飲食店に勤務していないと食べられないっていうのが優越感ありますよね。残ったクズ野菜や兄貴食材だったとしてもです。外に食べにいかなくても1食は必ずプロの味っていうあたり、役得?違いますか、なんだろう・・・まあそういう事です。
あれ?なにやら今日はグレードが高い。
「ワンプレートランチってクリスマスとかそういう時にか出していないけど、日替わり的なメニューとしてどうかな~って飯塚と話してたのよ。それで今日は試食を兼ねた賄ってわけ。」
なんという美味しそうなワンプレーとでしょうか!
それに僕の大好物のチキンがドンとソテーされています。皮は見るだけでわかるほどにカリッカリ!いい香りはハーブとガーリック!
ふわふわのスクランブルエッグにトマトソースがかかっていて、その横にソテーされたマッシュルームとマイタケとエリンギ。パセリのみじん切りが色を添えています。
そしてこれまた僕の大好物ペペロンチーノ。家ではショートパスタばっかり食べているので、やっぱりこういう麺のパスタが食べたくなりますよね、アーリオオーリオペペロンチ~~ノ!
そして別のボウルにはサラダです。あ~幸せなお昼ごはん!
「それじゃ、お疲れ、いただきま~~す。」
「いただきます!」
食べる順番としては野菜からなんでしょうけれど、もう我慢できません。チキンを食べないと涎が漏れ出てしまいそう。
なんという食感。もも肉の皮はもう皮に非ず!パリッパリです。香ばしい・・・そして香しい・・・そして美味すぎる満足の一口。あ~幸せです。
「ミネさん、この鶏の皮美味しいですね。僕は鶏皮苦手でケンタッキーでも剥いで食べるけど、これはいけます。どうやって作るのですか?」
ハルさん、ナイスな質問。僕にでもできるなら是非休日に試してみたい。
「あ~これはディアブロっていう料理。悪魔風とか小悪魔風っていう意味なんだよね。」
「悪魔・・・?こんなに美味しいのに?」
「イタリアでは鶏を丸ごと開きの状態にして焼くのよ。その姿が悪魔のマント姿に似ているってことでついた名前みたい。でももう一説あって、けっこうスパイシーな下味をつけるから、食べた人の口の中が業火に焼かれてピリピリするってのもあるらしいよ。業火に焼かれるのは悪い人だろ?んで悪魔。」
「へええ・・・。」
こんなにデリシャスな料理に悪魔なんて名前をつけるイタリア人の気がしれない。そういえばイタリア映画ってほとんど見てませんね僕。スペインとフランスは見るのに。スペインはアルモドバル監督のだけだろ!ってつっこまれたら、ハイとしか言えませんが。いやいや忘れていました、ミケランジェロ・アントニオーニはイタリア人でした!・・・不条理ですからね、ネーミングも不条理路線なのかもしれません。
「ハーブとガーリック、オリーブオイルと塩コショウ。カイエンペッパーを使うのが本当らしいけど、辛いの苦手な人もいるので省いた。そのマリネ液に肉をなじませる。あとは焼くだけなんだけど、フライパンに皮を下にして置くだろ?その上にひっくりかえした平皿を置く。」
「ミネさん?肉の上に皿?蓋じゃなくて?」
「そ、皿。その上に重しをのっける。」
「重し?」
「そ、水をいれた鍋とかヤカン。最低2キロはほしいところだね。皮が鍋肌に密着してパリパリになる。」
「今度それやってみたいです。」
「お、料理っ子になってきたな、ハル。俺は嬉しいよ。」
重しが鍵だったのですか!上に重いののっけて焼けばこのパリパリが僕のものに?
これは絶対にマスターすべき料理ですね。大好きチキンがこんなご馳走になるなら、毎週食べたいじゃないですか。レパートリーに入れてみせます。
「ミネ、このパスタ3種類の中から選べますみたいなのはどうだろう。でもあれか、厨房の手間がかかっちゃうよね。」
「そうだけど、レギュラーメニューと一緒にしちゃえばついでに作れたりするから、それほど手間じゃないかな。でもチキンを焼くのにちょい時間もらうから、そこはネックかな。」
「パスタのゆで時間よりもかかる?」
「村崎、今思いついた。チキンにアルミホイルを被せて重しをしたら蒸し焼き効果が得られないか?多少時間を短縮できるかもしれない。」
「お!飯塚、それは試してみる価値大アリだね。食べ終わったらやってみるか。」
女性は一つの皿に色々盛り込まれているの好きですよね。色々なものを食べたいという欲求が満たされる。カウンターの限られた席の争奪も毎日繰り返されていますし、やはり男性とは嗜好が違いますよね。
ん・・・?限られた数。
「たぶんこれは男性より女性がオーダーすると思うのです。このパスタの量だと男性は物足りないと感じる人もいるでしょうし。男子はパスタモードになったらパスタだけでいいわけで・・・。ええと何を言いたいかといいますと、これ1日限定OO食という煽りをいれるのはどうでしょうか?」
理さんの目がキラ~~ンと光りました。
「なるほど・・・煽りね。」
「トアさん、それはナイスアイディアかも。僕ならゲットできるまでしつこく通っちゃいそうです。そして食べたらパリパリさんですよ?おまけにパスタも選べるなんていわれたらコンプリートしたくなりませんか?3種類全部。どれだけ通ったらマスターできるのかな。ちょっと楽しいかも!」
SABUROのいいところはこういう所です。堅苦しい「会議」「ミーティング」みたいなものではなく、皆の意見が積み上がって形になる。
あ~こういうことがあるから、ポジティブワーカーでいられるのかもしれません。
「なかなか有意義な試食会になったな。客数が増えていることもあるし、メニューに手をいれたいところだったから、これもうちょっと詰めてみる。原価計算ももっとちゃんとしなくちゃいけないし。
皆の皿を見れば、味には問題ないね。」
全員完食、たいへんおいしゅうございました!
お皿を持ってシンクにGOです。自分が使った皿は自分で洗う、これがここのルールです。一番最初に洗い終えた人がコーヒーの準備をする。なんとなくハルさんが最初に洗う感じになっているのですが、今日は理さんが最初でした。ハルさんは僕の後ろです、珍しい。
理さんがコーヒーを担当してくれて、飯塚さんはテーブルに戻るとスマホをとりだし、なにやら操作中。飯塚さんがゲーム?まさかですよね。似合わなさすぎる。
ミネさんリラックスモードでポヤン中。さっきの試食会の時とは大違い。オンとオフがはっきりしていますね。飯塚さんは今の状態がオンかオフなのかいまだに解読できていません。
「はい、トアここ座る~。」
ミネさんに言われるままに向かいに座りました。いつもなんとなくハルさんと同じテーブルでキャッキャすることが多いのですが、今日は何か話でもあるのでしょうか。
ストンと理さんが僕の隣に座り、飯塚さんはスマホを手にミネさんの隣。あれ?ハルさんは?
飯塚さんがスマホをタップしました。
♪♪ Happy birthday to you
Happy birthday to you
Happy birthday
Happy birthday to you
Happy birthday to you
Happy birthday
これ・・・スティービー・ワンダーのあの曲です。
ニコニコしたハルさんが両手で大事そうに持ってきてくれたのはワンホールのケーキ。
「トアさん、フランセスファームのアニバーサリーケーキです。このお店の苺ショート好きだって事ちゃんと覚えていましたからね。僕なりのベストチョイスです。」
僕はポカンを皆さんを見ることしかできなくて・・・そのうちジワジワなんだかわからないものが込上げてきて、昨日みたいにうっかり泣きそうになっていることに気が付いて、さらに決壊しそうになって、それと、あれです、いえ、違います、というか、あの・・・その・・・。
3本たった細い蝋燭にちいさい火が揺れています。
どうしよう・・・もう、どうしよう。
「トアさん、ふ~してください。」
言われるままに火を吹き消すと、皆さんが拍手をしてくれました。
「おめでとう!」「おめでとう!」「おめでとさん~。」「おめでとうございます。」
「あの…なんと言っていいのか、驚きすぎてビックリで頭が煮えています。あ・・りがとうございます。」
理さんが皿とナイフを手に戻ってきました。
「今朝からずっと皆で知らんぷりするの大変だったんだ。バレたら面白くないだろ?誕生日のお祝いプレートランチのはずだったけど、アレ真面目に考えたほうがいいと思うよ、ミネ。」
「だよね~いけそうな気がするもん、絶対。」
「ええ?あの試食会も仕込みだったのですか?ええええ~~!!」
飯塚さんがフォークをまわしてくれた。
「そ、仕込み。だってトアの好物ばかりだっただろ?情報源は北川。さすがに中休み仲良くしているだけあって、シャンプーの銘柄や休日の食事事情までよく知っていたよ。おかげでトアの好きな物を用意できたし、ケーキも買えたってわけ。」
なんということだ!こんな嬉しい誕生日は初めてかもしれない!嬉しすぎる!
「正明。ケーキの切り方を伝授する。覚えておいて損はないから。偶数の場合は何の問題もないけれど奇数となればテクニックがいるわけだ。今日のカットは5人分。ケーキは時計に見立てる。」
「時計ですか?」
「そ、時計。まずは5時の秒針のようにカットを入れる。目測になるけどね。12と5にナイフいれるよ。」
なんの迷いもなく理さんはケーキにナイフを入れた。なるほど5時がポイントですね。
「そして小さい面積を1/2にカット。大きいほうを1/3にカット。これで均等5等分。」
「理さん!ほんとだ!僕は今まで8等分にして、残りはジャンケンなパターンしか知りませんでした!」
「だろ~。ちなみに7等分は小さいほうを3等分、大きい方は四等分。9等分なんてしたら細すぎるから有り得ない。5と7さえ覚えておけばどうにでもなる。」
「うわ~誰かケーキ持ち込みしてくれないかな。その時は僕に切らせてください。格好よく決めてみせます!。」
「そうだね。丸いパンとか、何でもいいんだけど、丸い食材を切ってみるといい。等分する感覚が身につけば当たり前にできるようになるよ。」
ケーキが取り分けられ、お皿を受け取ります。最近食べていなかったケーキ。それもアニバーサリーケーキだなんて、嬉しい・・・くうう。
一口食べれば、僕の大好きで安心する味です。ああ生きててよかった、SABUROにいてよかった。
「んじゃ、これ皆から。」
小さな箱をミネさんがくれました。
「開けて、開けちゃって~~。」
そろそろとラッピングを外すと黒いボックスにオレンジのリボン。蓋を開ければamazonギフトカードです。額面¥10,000!!!
「こういう金券ものって味気ないって思うけど、皆で考えたら意見が一致しちゃってさ。やっぱりトアはエンタメ道だろう?それじゃその道のタシになるようなものがいいだろうってことになった。
毎週何かしらオーダーしているらしいじゃん。すぐなくなっちゃう金額だけど、まあ気持ちってことで。」
「ミネさん・・・皆さん・・・あり・・がと・・・ござい・・ま・・す。」
ポロポロととうとう溢れちゃいました。
だってもうどうしろって言うんですか!こんなに嬉しいことって本当に本当に・・・嬉しくって。感動しちゃって。
ミネさんがハルさんの頭をグシャグシャにするみたいに、僕の頭をガシガシしました。
なんだかそれも温かくて・・・嬉しくて。
ここに居られる幸せを感謝します。
ここに導いてくれた、僕の運命に・・・感謝します。
一日遅れの、とても素敵な「HAPPY BIRTHDAY!!」
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