アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
March.24.2016 graduation
-
『本日は20:00以降「貸切」になります。』
理さんの作ったPOPが入口のドアに貼られていました。
何故かと言いますと、僕のお祝いのためなんですよ!はい、本日無事に卒業式を迎えました。
4年間の学生生活にさよならの日。とはいえ、この1年とちょっとは学生でいるよりもSABUROの一員として過ごした時間のほうが多いせいか、卒業式といわれてもなんだかピンとこなくって。
式が終わって、当たり前のように出勤してきました。やっぱりここが僕の居場所だな~って、改めて実感です。
「なんだよ~ハル。着替えてきちゃったの?」
ミネさん朝に見たじゃないですか。孫にも衣装な僕の姿を。うまく結べないネクタイに四苦八苦していたらちゃんと助けてくれました。最初は向かい合わせで結んでくれようとしたんですが巧くいかなくて。ついでに僕は朝から至近距離のミネさん攻撃を受けてヨロヨロです。
結局ミネさんが自分の首でネクタイを結んでから僕の首に移動させる方法をとりました。キュっとしてもらうとき照れました。えへへ。
「仕事にスーツはいりませんよ。」
「そうだけど、晴れの日じゃないか。」
「でも20:00まではホール係です。」
皆さんからもおめでとうを言ってもらって、なんだかくすぐったいやら恥ずかしいやらで顔がゆるんでしまいました。
何時ものようにオープンして、お客様に対応。ミネさんの読みどおり25日前の木曜だからそれほど忙しくありませんでした。20:00少し前に高村さんが登場。
「ちびっこ、これでようやくSABUROに専念できるな。」
「はい。ようやくです。」
ちびっこ・・・165cmはちびっこですか?まあ・・・男子としては小さいですね。でも僕の顔ならこのくらいでちょうどいいかと。綺麗に見える身長差って13cmだそうです。僕にプラス13cmは178cm。ミネさんと理さんは175cm。飯塚さんが178cmでジャストです。トアさんは180cmオーバーなので、ちょっと大きすぎるかな?高村さんはミネさんと同じくらいかちょっと小さいくらい。
北川家?小さいですよ。父さんがギリギリ170、母さんは156って言い張っているけど155以下じゃないかと睨んでいます。俊明は父さんと同じくらいかすこし超えるくらい程度に伸びた。同じ兄弟なのにずるい。
次に登場したのは北川家一同。
「正明おめでとう。よく頑張ったな。」
改まってそう父親に言われると、どうしていいかわからなくなります。頑張ったのは頑張った、色々頑張った。たぶん沢山の意味がこめられているのだと思う。高校生からずっと親元を離れて一人で暮らしてきたことも。普通とは違う僕のスタンスと生き方にも。
「ありがとう。無事卒業できました。学校いかせてくれて・・・感謝しています。」
「どういたしまして。」
にっこり笑ったあと父さんはカウンターの方に行ってミネさんに頭を下げつつ何か言っていた。そうだよね、営業時間けずっちゃったわけだし。
「おめでとう。」
「ありがとう。」
母さんもニコニコしている。時々友達とランチに来てくれるようになって以前より顔を合せる回数が増えた。特に話すわけじゃないけれど顔を見るって大事だなって思います。
「兄ちゃん、かっちょいいじゃん。へえ~なんかいい店だね。」
俊明は僕のギャルソンエプロンを指差して言った。これが僕の戦闘服ですからね、少しくらい格好よくないと。
「たまにくればいいのに。」
「今度からそうするよ。」
「ハル~~。料理運んでくれるか?主賓なのに悪いな。」
「はい!今行きます。」
総勢10名の宴の開始です。
乾杯してから雑談しつつの食事。一つのテーブルに皆で座って、美味しいね~って言いながら食べる料理は全部最高、そして楽しい。
イマイチここに集う人達がどういう関係なのかわかっていない俊明はちょっと無口だ。初めて来た店で初めて逢う大人達に居心地が悪いのかもしれない。
「ハル弟君はなんて言う名前?ちなみに俺は村崎実巳といいます。一応ここのオーナーで担当は調理で~す。」
ミネさんはニヘラっとしながら俊明にそう言った。
「あ・・どうも。俊明です。」
「弟君もハルなのか~。ちなみにどんな字を書くのかな?」
「俊敏の「俊」に明で「トシハル」です。」
ミネさんしばし考える。たぶん呼び名を検討中でしょうね。ハル2号とか言いだしたら却下しよう。
「んじゃ~「アキ」にするかな。」
「アキですか?」
「そそ、意外性充分。でもハルと同じで2文字目をアレンジ。呼ばれたことない呼ばれ方って新鮮だろ?ちなみに俺はサネミをひっくりかえして「ミネ」が通り名。」
通り名って・・・ヤクザですか?
「僕は重光稔明なんですけど、トアってよばれてます。もちろんミネさん命名です。」
トアさんの発言により、なんとなく自己紹介合戦が始まった。それをきっかけに会話がはずむ、杯を重ねたアルコールの力もあって口も滑らかになる。
SABUROで起こる毎日のアレコレや僕の仕事の様子を面白可笑しく披露してくれたのは理さん。
僕との出逢いがコンビニだったことや、プレゼントの万年筆が嬉しかったことを言ってくれたのは飯塚さん。
トアさんは、ばっきばきのエンタメ君に育成中だと言いながら、かなりの脱線をみせて皆をギャフンとさせた。
「飯塚と高校生の時に仲良くなった、これがはじまりです。」
ミネさんが静かに話し出す。
「会社勤めをしながら厨房で手伝いの真似事みたいなことをはじめた飯塚がいたから今があります。偶然みたいに叔父さんの部下だったのが飯塚と理。そして理がハルを連れて来てくれた。
まっすぐな人間性が気に入って、ここで一緒に働こうと口説いたのは大正解。そして叔父さんがトアをつれてきてくれて、一人で悶々としていた毎日は180度かわりました。
今は仲間と一緒にSABUROをいい場所に、特別の場所にしようと頑張っています。
毎日なにかしら発見があって、改善点がある。お客さんの笑顔に元気をもらう。
そしてハルはとってもいいこです。いいこって子供ってことじゃなくて・・・なんだろう、そう言ってしまう人間性の可愛さと素直さでしょうか。
卒業後ここで働き、寮がわりに同居させたいという俺の希望にきちんと応えてくれたご両親に感謝しています。この店のスタッフとしてハルは必要不可欠な人間です。そして朝目覚めて「おはよう。」を交わして、ハルが淹れてくれたコーヒーを飲む。俺の毎日は今までよりずっと優しくて綺麗な色になっています。
ハルにとって節目となった今日は、ここに集まった全員にとっても節目に思える。
家族とは違う・・・なんだろう・・・「チーム」みたいな気がするんです。
北川さんには叔父さんと一緒に、これからも企みを実行して売り上げに貢献して欲しいですね。
広美さんはもっとバンバンお客さんで来てください。アキもね、客じゃなくても大歓迎。中休みに遊びにくればいい。トアとハルのおしゃべりは聞いているだけで、結構笑えるし。
ちょっと長くなっちゃったかな、ハルはおめでとうさん、だね。」
「ミネ・・・さん。」
母さんは目元を指先ではらっている。それを見たらなんだか僕も泣きそうになって必死に堪えた。なんでこんな日に、こんな時にそんなこと言うんですか・・・反則です。
「村崎さん・・・ミネさんとお呼びしても?息子のことをきちんと見てくれているようで安心しました、そしてこちらこそありがとうございます。勿論、高村さんとはがっちりタッグを組みますよ。遊びがいがありそうだ。」
ミネさんにうなずく父さん。僕は静かに椅子から立ち上がってテーブルにつく皆の顔を見た。
皆が優しい顔をしているから胸のあたりがキュウっとなる。
「ここにいると毎日が楽しいです。悩みがないわけじゃないけれど、それでいいかと思えます。ここに来れば僕を必要としてくれる人がいる。お客さんにハル君って呼んでもらって笑顔を返す。
「僕なんか」っていう言葉、最近は全然でてきません。少し自信を持てたかなって。
家族にもなんとなく遠慮とか距離を置くことをしちゃっていて、それは配慮でもなんでもなく単純に避けていただけだって思えるようになりました。僕がどういう人間であっても、やっぱり家族は家族だなって。
これからは自分で働いて、自分を食べさせる生活になります。とはいっても随分ミネさんに頼っているのが現実で・・・。だからちゃんと自分が生きていかれるように、ここに毎日来て頑張ろうと。
だから皆さん、これからもよろしくお願いします。
父さん母さん、俊明、僕は大丈夫です。とっても充実した毎日を送れると思うし、それが積み重なっていくはず。だからあんまり心配しないでね。」
ぐっとつまった両親の顔を見ながら僕は静かに椅子に座った。
「やっぱりハルはいいこだな。じゃあ、仕切り直しにもう一度乾杯しましょうか。はいはい、グラス空の人は満杯にしてね~。アキ、パニーニたべるか?」
「何だか知らないけど、美味しそう。」
「よっしゃ、乾杯したら作っちゃる。んじゃ、おじさん、乾杯の音頭よろしく!」
掲げられる沢山のグラス、チリ~ンと鳴る音。
僕はこの場にいられることを神様なのか何なのかわからないですが感謝しました。
ミネさんの叔父さんである俊己さんの青いグラスがキラっと光ったように見えたのは気のせいかな。
いや、きっと違う。夢だったSABUROが特別な場所になっていく様を見ていてくれているはずだ。
僕は幸せです。
心から・・・それを実感。
僕は・・・本当に幸せです。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
203 / 474