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March.27.2016 トアの電波デビュー その1(3話構成です)
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日曜の朝・・・毎週やってくる唯一の俺の休み。この狭いベッドに二人で潜りこむことにもすっかり慣れた。
隙間が生まれるはずのないシングルのベッド。せめてセミダブルにしようかと言ったら儀はしばらく何かを考えたあと「もうちょっと待ってくれ。」と言った。俺のベッドなんだからいつ替えようが俺の勝手だろうと言いそうになって飲み込んだのは3日ほど前の事だ。
儀は自分の部屋に帰るのは平日の1日だけ。残りの6日は店を閉めて帰ってくると儀が当たり前のように居る。金曜から持越しで土曜日は朝からずっといる。そして同じく日曜日にも。
目を覚まさないように肩口にそっと唇で触れてみる。背中と胸、膝の裏と膝。互いの太ももと脛。どこかしらくっついているのに唇だけは自分で動かない限りキスを落せない。でもこのことが嬉しかったりする。手を伸ばすよりもキスをするほうが近い距離。
俺と儀のパーソナルスペースはいつのまにか重なっている。特にベッドの中においては。
コーヒーをいれるために静かにベッドから抜け出しキッチンに向かう。眠りが深いせいだろう、儀は俺が少し動いたくらいでは目を覚まさない。でも香りは別。コーヒーの香りが儀を夢から現実に立ち戻らせる。だから「起きろよ、朝だぞ。」そう言うかわりにコーヒーを淹れ、シャワーを浴びてしまうのだ。さっぱりとした俺を認めてソファに座った儀が言う「おはよう。」は未だにくすぐったい気分にさせてくれる。
「おはよう。」
「おはよう。」
自分のマグにコーヒーを注ぎ儀の隣に座った。頬にキスをしてもらって嬉しくなるのだから、俺は相変わらず単純でこいつにベタ惚れだ。
儀はとりあえずといった様子でテレビをつけた。番組表を開いて横にスクロールさせていく。
「新番組みたいだな。そうか、番組改変の時期か。この時間はたいてい特番の再放送とローカルの番組だったよな。この新番組は情報っぽい、よくあるパターンの。」
「イベントのお知らせとか、新商品の情報が流れて視聴者にプレゼントしま~す、みたいなアレか。」
「たぶんそうだろうな。15分番組だし。半端な時間だからこれにしておくか。」
「昨日みたいにどのチャンネルも新幹線、新幹線かもしれないぞ?」
「札幌まで伸びなきゃ意味ないだろ?東京から4時間で函館らしいけど、札幌まで特急で3時間半以上かかるから、ちんたら陸路だと8時間。飛行機は1時間半。俺は飛行機でいい。」
「確かに。あ~大丈夫みたいだ。新幹線ネタじゃないみたいだし。」
特に見たいわけではない。でも儀の隣でまったりと過ごす日曜の朝は格別だ。今日は店を開けなくていいし、紳士的なマスターに化ける必要もない。長いつきあいの儀の横で俺は自然でいられる。付き合いには面倒事ばかりだと信じていた儀にも意外らしい。「一人でいるより楽だ。」なんて平気で言ったりするから、俺のほうが恥ずかしい。でも儀が楽ならそれでいい、そしてそれは嘘ではない。自分の家に1日しか帰らない事が、それを裏付けている。
「こういう番組みて応募したことあるか?」
「ないね。だって当たる気がしない。」
「だよな~。ヒロがせっせと葉書書いていたら笑える。」
画面が切り替わって女子アナウンサーが『お休みに素敵な映画はいかがですか?次は「シネマ・レストラン」のコーナーです。』とニッコリ微笑んだ。
「シネマ・レストラン?シネマカフェなんていうのは聞いたことあるけど。レストランっていうからにはカフェより盛りだくさんってことか?」
「それはわかんないよ。せっせとDVD見ているのは儀なんだし。参考になるんじゃないの?」
「どうかな。」
そしてスタジオではなくVTRに画面が切り替わる。
「あれ?おいおい!マジか!」
「ああ!これキイちゃんの店だ!」
「ああ!これ眼鏡男子じゃねえか!マジか!」
「ああ!キイちゃんだ!振り向け、可愛い顔なんだから。ええ~なんで後頭部と後姿だけなんだよ。」
眼鏡男子は映画の話をしている。なんだかちょっと見たくなるような映画。おまけにゲイ(女性版)の物語らしいから興味が沸くってものだ。この眼鏡男子のチョイスなんだろうか。
閉店間際の店内の様子は特に演じられている素振りがない。いつもこういう雰囲気なのだろう。素人を撮影すれば変な緊張もでるはずなのにそれがない。眼鏡男子が棒読みじゃないところをみるとセリフを言わされているわけでもないようだ。
厨房では一人が賄をつくっているようだし、もう一人は包丁をひたすら研いでいた。この二人、俺の店に来たら大騒ぎになるだろうな。一生こないだろうけど。
儀は番組終わりのテロップをずっと見ていた。
「おい、ヒロ。協力「SABURO」しか出てないぞ。トアとかいう名前もないし、店のデータが一切なし。逆にこれが手ってことか?話題になったら化けるかもしれないぞ?」
「今だって充分繁盛しているっぽいけどな。困るよ、予約しないと食べられないなんて面倒だ。それに男二人で行って浮きまくりそう。」
「俺と一緒に行くが前提なんだな。」
「・・・他に誰と行くって言うんだよ・・・お前バカだろ。」
「おう、結構なヒロ馬鹿だ。自信ある。」
なんだか甘ったるい気持ちになって儀に抱きついた。
「映画もいいけど・・・いつでも見られる。ベッドに戻らないか?都合よくシャワー浴びたみたいだし。」
儀はそう言ってニヤリと笑った。その笑顔に俺が抵抗できるはずもなくコクリと頷くと優しいキスが降りてきた。洗濯とか朝飯とか・・・優先しなくてはいけない事はあるけれど、俺の最優先は儀だから、これでいい。
日曜の朝は・・・これでいい。
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