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april.18.2016 結局こうなる月曜日
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掃除や洗濯を終えてあとは休みを楽しむだけになり、衛は速攻読書に突入した。ソファに座りテーブルに行儀悪く足をのせている。もうこうなったらなかなかこっちには戻ってこない。それでいいと思うし、気にならないから俺達は気が合っていると思う。二人仲良く同じことをする事もあるけど、たいていはこうやってお互いバラバラなことをして時間を過ごすのが休日のパターンだ。
衛は買ってきた文庫本のカバーをはずして本棚に置く。むき出しの文庫本をひたすら読むスタイルが不思議に思えて、どうしてそんなことをするのか聞いたことがある。
「たまには風呂で読むし、あとあちこち持ち歩くだろ?カバーが汚れるじゃないか。だから外す。読み終えたら綺麗なカバーをかけて本棚に並べる。」
「へんなの。じゃあブックカバーをひとつ買えばいいじゃないか。コジャレたカバー売ってるし。」
「いらない。外せばいいだけだ。」
「買ってやろうか?」
衛は俺の顔をシゲシゲと見て納得いかないという顔をした。なんで?カバーかければ丸ごと持ち歩けるじゃないか。
「カバー買うくらいなら本を買う。」
・・・・そういう男だった。
あまりにキッパリ言われたので俺はその後ブックカバーの事は持ち出していない。
俺は雑誌をたまに買うぐらいで、目をとおして幾らか時間がたった頃に捨てる。衛は捨てるなら廃品回収にだしてくれと言った。紙媒体がゴミと化すのは見ていられないとか何とか・・・俺とはまったく違う感覚。ある程度の量になるまで読まない雑誌を溜め込み回収日に出すより、いいタイミングでポイっとしたほうがずっとスッキリするのにな~と思ったりするが言ったことはない。俺にとってどうでもいいことなら俺が妥協(妥協ってほどでもないけれど)すればいいだけだし。それに障害者支援団体が紙やアルミ缶、ダンボールの回収をしているのでマンションの管理組合が協力することになった。雑誌の行き先がゴミ箱よりはずっとマシになったから結果オーライ。
緑がかったグレーの文庫本は「特捜部Q」というタイトルらしい。なんだそれ、ちゃんと大人の読み物なのだろうか。
俺はノートパソコンを引っ張りだして立ち上げる。とりあえずトアのブログをチェックしてちゃんとレスしていることを確認した。まめだし、言葉が丁寧。活字って一方通行だったり強弱やニュアンスが間違って相手に伝わることが時にはある。でもトアのレスは丁寧でゆったりしているから、そんな心配はしなくてもよさそうだ。早く次の回がみたいな。男性陣を獲り込めたらスポンサーも喜ぶだろう。高村さん情報だと、すずさんの彼氏さんのアイディアらしい。すずさんみたいな人はやっぱりデキる男じゃないとつり合いが取れないよな・・・俺って衛と釣り合いとれてんのかな?
顔?いやいやいや、大負けだろう。身長も同じく、料理も負けっぱなし(やる気がないとも言える)
ここまで考えて先に進むのを止めた。釣り合っていようがいまいが、俺達が一緒にいることを選んで毎日を送っているんだ。釣り合ってないとか言いたかったら勝手に言いやがれ!ということで問題解決。
YAHOOのトップページに戻ると格安航空券のPRが画面の右横でピコピコしている。飛行機か・・・。もう何年も乗っていない。なんとなくクリックしてLCCのページに飛ぶ。試しに来週月曜日の日付で空席を確認すると、俺は驚いてしまった。なんだ!こんな安いのか!
旅行好きでもなければ飛行機にアンテナははっていないだろう。勿論俺もスルーしていたから現実を目の当たりにしてドキドキした。
登別行くより安くないか?これ。
関空降りて・・・バスも電車もあるわけね。でもけっこうな値段だね。お、安いのある・・・けど地下鉄と電車を2回も乗り換えるのか・・・座れない可能性あり。キャリーガラガラ押して慣れない駅っていうのは嫌だな。飛行機が安く収まった分、座りっぱなしでいける「はるか」かバス」がいい。
それで着いた後はどこにいこうか。そりゃあまずは荷物を預けて身軽にならなくちゃね。チェックインできなくても荷物は預かってもらえるし。
ホテル!どんなホテルがあるのか・・・。錦市場に歩いて行けるところがいいな。四条烏丸周辺がいいんじゃないの?
三井は大浴場もある!へええ~いいねえ。そんなに高くないし。
バス乗り放題があったはずだけど・・・あった、あった。1日乗車券!まだ500円のままだ、偉いぞ京都バス。駅からこれに乗ると三十三間堂にいけて、三十三間堂前のバス停から乗ると清水寺にいけたはず。
清水寺いったあとは何処にいこうか。衛は行きたい所あるのかな。俺は伏見稲荷に行きたい。夜も綺麗らしいけど、ちょっと怖い。ああいう所の夜は特別な感じがするし、凡人は近付いちゃいけない気がする。画像をチェックしてみたら・・・やはり怖い、なにかいそうな気配。俺は昼間にしておこう。
二条城も捨てがたいし。ベタなところ金閣寺?え?こんなキンピカになってるの?俺が見た時は渋くていい感じだったのに。
俺の行ったつもり京都の旅はなかなか白熱した。で、わかったのは1泊2日ではもったいないということだった。日曜半休プラス月曜日なんかもっての他。それなら行かない方がいい。
どうやら京都行は難しい。いつになったら実現するのか。配管工事で1週間営業できません!みたいな事態に陥らない限り無理そうだ。
腕組みしながらパソコンを睨んでいた俺の視界にマグカップが置かれた。
「ラテ。」
ご丁寧に持ち手をきちんと持ちやすい角度に変えてくれる。栞がわりに人差し指を本に挟んだ左手にちょっとだけドキリとする。あるでしょ?いつもと違うポジションにいる指とか手の動作をみたらドキっとなるアレです。
「溜息ついたり、唸ったり、びっくりしたり忙しそうだな。」
「なんだよ。お、さては集中できていないな?特捜部Qなんて子供の探偵ごっこに使われそうな名前じゃないか。」
「何言ってるんだ。最近は「北欧ミステリー」というのがひとつのジャンルになっているんだぞ。」
「へえ、北欧。あまりに遠すぎて何語を話しているのかも知らない。」
さっそく検索をかける。
『北欧の言語と言えば デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語、フィンランド語があります。』
なるほど、馴染みがない言語だ。英語よりドイツ語に近いのかな?
「北欧ものにはミカっていう名前がでてくるぞ。」
「ミカ?女?」
「もれなく男。」
「へええ~。あっ!ミカ・ハッキネンがそうだ!」
「言われてみればそうだな。で?理は何を調べて唸っていた?」
「いってみようか京都の旅。でもね、結局2泊3日は欲しいところで2日やプチ連休じゃ話にならないってことが判明。設備がぶっこわれて営業できないなんていう事態にならない限りは三十三間堂は難しいね。」
「まあ・・・そういうことになるな。そのうち絶対タイミングは来るはずだから、焦らず待つことにしよう。」
「うん。」
俺が傍にいない未来をまったく想像してないと感じる衛の言葉。俺だって衛と行けなかったら・・・そんな事があるだろうか?なんて考えない。行くのは衛で、それは二人が行けるときまで一緒にいるという確信があるから。根拠はない、でも絶対。
「衛は三十三間堂以外だったらどこに行きたい?」
それから俺達は並んで座りながら京都をあちこち検索したり、ブログを拾い読みしながら行きたい場所を探して時間を過ごした。具体的な予定はないけれど、これはこれで楽しいしワクワクする。
そんなことをしていたらあっという間に時間が過ぎて、なんとなくお腹がすいてきた。
衛がクスっと笑うから横をみると、おかしそうに俺の顔を見ている。
「なんだよ。なに笑ってるんだよ。」
「小腹がすいたって顔してるぞ。」
「はあ?」
俺は至って真面目に京都散策プランニングをしていたから、そんなもの欲しそうな顔をした覚えはない!
「自分では気が付いてないだろうが、理は腹がすき始めると少しずつ口がとんがってくる。ふくれた子供みたいに。それですぐわかる。」
うわ・・・俺はとても恥ずかしい大人らしい・・・デス。
「掃除の合間に仕込んでおいたから食べるとするか。」
「え?何?」
現金な俺・・・。
「豚肩ロースのトマト煮込み。もちろん肉はホロホロ状態。仕上げをするからせめてパンぐらい焼いてくれないか?」
衛は何だかんだと理由をつけて一緒にキッチンに立ちたがる。俺の手際の悪さは自信があるし、横にいたところで何もできない。かえって邪魔だと思う。
「衛はなんで俺をキッチンに引っ張り込もうとするわけ?俺に上達の見込みもなければセンスもない。料理に関してはとうに諦めた。」
「わかっている・・・俺のわがままだってことくらい。」
いや、わがままというレベルではないと思う。ワガママ言っているのは俺でしょうが。
「なんていうのかな。料理がすべての入り口だった気がするんだ。料理がなかったら理とこんな風に過ごせなかった気がしている。料理が切っ掛けになって色々なことが起こって今の俺達がいるって気がしないか?」
それを言ったら確かにそうだ。毎週末衛が俺の部屋に来て、次の日は俺が出向く。そこにあるのは俺の好みにピッタリの温かい料理で週末を楽しみに毎日過ごした。仕事も環境も変わった今も、やっぱり衛の料理が俺の生活を支えている。笑顔と安堵を生みだし、身体に栄養が満ちて幸せに変わる事をもう俺は手放せないだろう。
「衛の料理がなかったら、俺死んじゃうかも。それは大げさかもしれないけど、絶対弱る。」
衛は満足そうに頷いた。何度でも頷けばいい、だって事実だし。
「理と並んで料理をすると、ものすごく嬉しくなる。」
「パンを焼く程度でも?」
「そんな程度で充分。」
衛はわかっているのかな。
「何が食べたい?」そう聞かれてリクエストする。これは俺が恥ずかしくなく甘えられる唯一のことだ。
おおっぴらに甘えられる、でも恥ずかしくない。
普段沢山の人達に心をこめて作る衛。でも家にいるときは違う。俺だけの為に作ってくれるっていう優越感と満足。そして・・・俺だけのものだって思える瞬間。
「何が食べたい?」その言葉は俺にとってとても大事なことで、それを言われると自然に笑みが浮かぶ。だからキッチンから聞こえる音を聞きながら、衛が俺の為だけに作っていると実感する時間。リビングで待つその時間は・・・いつもと違うテンポでゆっくり流れていく。
キッチンでパンを焼くぐらい面倒でもなんでもないし、たまに手伝ったほうがいいだろうなと思う。
でも、俺はやっぱりリビングで待っていたかったりする。俺のほうがよっぽど我儘だ。
「衛は知らないんだよ。」
「なにを?」
「俺だけのために作ってくれている。それを実感したいからリビングで待っているってこと。沢山の人が衛の料理を求めて店に来る。その両手がさ、俺だけのために動くっていう優越感。わかる?」
衛は嬉しそうな笑顔を浮かべて立ち上がった。
「それは・・・しらなかったな。」
座っている俺に手が伸びてくる。だから素直に握ったら引っぱられたので立ち上がる。
「じゃあ、パンをトースターに入れたらいつものようにリビングに戻ればいい。パンを切ってトースターに入れるまでの時間を楽しむことにしよう。」
「お互い少しずつの妥協ってこと?」
握られたままの手を繋いだ状態でキッチンを目指す。
「妥協じゃないよ。歩み寄り。お互いがお互いの為に少しだけ楽しみをもらう。ああ、違うな俺は楽しみの時間をもらうけど、理はその時間を削ることになる。」
「いいよ、衛が嬉しいなら、俺も嬉しいわけだし。」
煮込みの仕上げをする衛の横でパンを切りトースターに入れたら俺の仕事は終わりだ。衛は煮込みの味を仕上げて少しだけ小皿にのせた。
「味見して。」
しなくてもわかる。絶対美味しいはずで、たちのぼる香りがその証明だ。でも小皿をうけとり味見をする。
「ばっちり!!早く食べたい!」
そう宣言したらいきなりキスされた。なんだよ!おい!
「なにすんだよ!」
「したかったから。」
・・・・。
「それとも「キスします。」って言おうか?今度から。」
「そんな断りはいらない!」
衛はガスの火をとめて皿を並べ始めた。
あれ?衛は本読んでいたよな。そして俺はパソコンとにらめっこだった。
いつから二人で同じことをし始めたんだろう。
「別々のことをしていたのに、どこから一緒になったのかな。」
衛の手が止まって俺を見る。その顔は・・・ダメなやつだ、この場に最も相応しくないものです。だめです!それだめ!
「なんだか止まらない。」
いきなり抱きすくめられて動きを封じられる。衛の背中をバシバシ叩いてやった。
「おい!そこの鍋に超旨そうなものが入っているのに、こんなことしている場合か?離せって。」
「・・・離さない。」
なんだよ、もお。キュ~~ンってなったじゃないか!バカ衛。
結局抵抗する力と意志が弱まった隙をつかれて寝室に運ばれた。
俺は決めた。
キッチンに行くときは油断をしてはならない。そして今までどおり、キッチンに並ぶことを出来る限り拒否し続けよう。
ああ~~豚肩ロースの煮込みがあああ!!!
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