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april.20.2016 ミネ、怖くなる
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「おはようございます。」
朝目覚めてシャワーをあびてスッキリしたあと俺が向かうのは台所。そこにはすでに起きたハルがいてコーヒーがいい香りをたてている。その日の気分で選んだマグカップにコーヒーが注がれて手渡される。
「ありがとう、おはよう。」
ハルは朝エンジンがかかるまで少し時間がかかる。ふにゃふにゃしていて目は1/3くらい開いていない。モゾモゾリビングに移動してソファにちょこんと座る。日によっては床にペタンと座ってソファによしかかったりもする。テレビをつけてNHKのニュースをぼんやり眺めつつ、アツアツのコーヒーを楽しむ。
ドライヤーで乾かしただけのモソモソした頭がかわいかったりするので、ついつい手が伸びてしまうのは困りものだ。ペットの犬や猫でもあるまいし、れっきとした成人男子の頭を撫でるのはいかがなものか?
とはいえ、柔らかい髪の感触がこれまたよかったりするので・・・やめられない。
「ミネさんは犬好きですか?」
「なんで?」
「僕を毎朝犬扱いしているからです。ワシワシ、クシャクシャし放題じゃないですか。」
「だ~~な。」
そんなことを言ってもハルは逃げないし体勢を変えることも無く、俺のしたいようにさせてくれる。本当にハルはいいこだ。
7:30になると朝ドラを見る。もうこれは習慣だ。家族そろって朝ドラは村崎家の伝統みたいなものだから一人になっても続けていた。今はハルがいるから揃って鑑賞。大地真央の銀髪はどうなんだ?若干違和感あるんだけど、でもそこは重要ポイントではないからいいことにする。
ドラマが終わると台所に移動。
最初は俺が朝飯の支度中にハルが掃除機かけたり、ちょこちょこ掃除をしたりしていたけど少し変わった。一緒に朝飯の支度をする。ハルは作ることにも興味を持っているからどんどん知識と技を放り込んでいるところ。そしてなかなか筋がいいし飲み込みも早い。器用って便利だよね。でも理みたいに器用なくせに料理だけは全然ダメという人間もいるから不思議だ。
この調子で朝飯と月曜の常備菜仕込みを続ければ、クリスマスと大晦日のオードブルの厨房チームとして戦力になると期待しちゃっているわけ。一人増えればかなり違うし、盛り付けの時間だってずっと短縮できると目論んでいる俺。12月ダースベイダーにならないですむかもしれない!絶対ハルをものにしてやる。
出来上がった朝飯を揃っていただく。
「いただきます。」
「いただきます。」
味噌汁を一口飲んで「ん、おいし。」とニッコリするハル。ほぼ毎日同じ献立なのに嬉しそうに食べる姿はいい。味気ない一人の食卓よりずっと楽しいし美味しく感じる。ドラマの展開を予想したり、今日の予約の確認やトアのDVD、CSのドラマ。会話はアチコチに飛んで戻ってきたりしながら食べ終わると同時に終わる。
ハルが後片付けをしている間に俺はリビングの掃除機をかける。
毎朝これが繰り返しやってくるのに、毎日少しずつ違う。味噌汁の味や具が違うし、会話は毎日変わる。両親と3人のとき、出掛けるまでの時間や休みの日に過ごす時間はこんな毎日だっただろうか?
最近それをよく考えたりする。家族の存在を意識することなく毎日が流れていった。両親がいなくなって一人の生活というものを初めて理解した。煩わしさはないけれど、時に味気ないと思う毎日。特に食事がそうだった。テレビを見ながら何かを食べる。自分の為に買いものに行き、仕込んで、料理を作る。それを食べて・・・後片付けをする。「うまっ!」なんてたまに独り言がでたりするけれど、それに返ってくる言葉はない。一人ってそういうことなんだなと時々ふっと感じる・・・なんだろうな。寂しいまでいかないけれど、ちょっと落ちる感じの感情。
そしてそれに慣れて当たり前になった頃、ハルがやってきた。少しずつ毎日が変っていき、俺達の行動パターンも変化しながら朝の時間がやってくる。
「いただきます。」「ごちそうさま。」を言ってくれる相手がいて、美味しいと笑顔を貰う。仕事柄、沢山の「美味しい」と笑顔を貰っている俺だけど、朝いちばんの「美味しい」はハルの言葉だ。
しっかり目があいて、エンジンのかかったハルが言う「美味しい」は実感がこもっている。料理人にとって一番嬉しい言葉を毎朝聞けることは一日を頑張ろうと思う力になる。
洗面台の鏡に向かって身なりを整える。そろそろ理の実家にいかないと髪が伸びてきた。花見の時まで我慢するか。
また歯磨き粉買って来たんだな。
洗面台の下の収納扉をあけると歯磨き粉が2本増えていた。色々な洗剤の詰め替え用のパックがキチンと並んで置いてある。
ハルは甘えすぎは嫌だといって日用品は自分が買うと譲らなかった。ティッシュやトイレットペーパー、洗剤の数々、歯磨き粉。ニュートロジーナのハンドクリームが3つもある。無くなれば買えばいいのにと言ったら「備蓄していないと落ち着かない性分なのです。」と言われたから好きにさせている。
俺の歯磨きは間違っていて、逆に舌に悪いらしい。ハルは調べてプリントアウトした紙を差し出し読めと言った。俺の歯磨きというかケアは乱暴な方法であることが判明。
そして舌ブラシが用意され、セラブレストゥースジェルという専用のジェルまで揃える念入りさ。(このジェル調べたら¥1800だった・・・。)
もちろん舌ブラシもジェルの予備も備蓄されている。だからもう俺は歯磨きしながらオエエエ~~と声を張り上げることはなくなった。
ハルがいなかったら自分の商売道具を破壊してしまうところだった。
自分の部屋で身支度を終えたハルと家をでるのは8:30。電車にのってすすきので降りて店につくのは9:00前。一番ノリのこともあるし、誰かがもう作業中のこともある。
そして仕事が始まり、やがて忙しい一日が終わる。
最終電車に飛び乗って帰宅すれば、まもなく0:00になりますという時間。
俺は家で風呂に入らない生活をしていた。なんでかって?なんか窒息しそうになるから。蒸気がモアモアするし。でもハルは「一日の終わりはお風呂でリラックスですよ。」と言う。一人しか入らないのは確かにもったいないから、俺の習慣に夜風呂が加わった。眠りが深い気がするし疲れもとれるからいいことなんだろう。15分くらいしか入らないけど。
浴室のシャンプーが一種類になっていた。ハルが持ち込んだシャンプーがなくなったということで、どうやら俺のシャンプーに合せることにしたらしい。ハルも香りが気に入ったと言っていたような気がする。
ハルは30分くらい風呂に籠る。その間は伝票の整理をして売上を打ち込む(ちゃんとしているのよ、俺。一応オーナーさんだしね。)
缶ビールでおつかれさ~~~んをしてテレビを見る。「ブラックリスト」と「NCIS」を最初からハルに強制的に見せている段階。これは俺の大好きなドラマだからリアルタイムでハルと「おおお~~。」なんて言いながら見たいわけ。俺はおさらい、ハルは初見。ビールは2缶くらいで満足状態になる。
ドラマを1本みたら「おやすみ。」を言う時間だ。
「ミネさん、おやすみなさい。また明日です。」
「おやすみ。」
ハルの微妙に可笑しくてちょっと可愛い挨拶を受け取る。
「また明日。」って所かな?ハルらしいといえる言葉で一日を締めくくる。
パタンをドアが閉まる音を聞いて俺もベッドに向かうために立ち上がった。
リビングの電気を消すためにスイッチに手を伸ばした俺はなんとなく振り向いた。さっきまで座っていたソファの上に置かれた二つのクッション。俺はソファのアーム部分にクッションをのせてよし掛かるのがお気に入りのポジション。ハルはソファの上で体育座りをしてクッションをダッコするスタイル。抱きかかえられた形を残しているクッションを見たとき、突然俺の中に降りてきたもの。
両親が日本に帰ってきたらどうなるのかな・・・。
いずれは帰ってくる。オヤジはそう言って旅立った。その期間がどれくらいなのか俺もオヤジもわからなかった。なんせ決めないまま行ってしまったのだから。
両親が戻ってきたら、ハルをここに置いておくわけにはいかないだろう。
なんだかその事にザワザワと心が波立った。
なんだ、そっか。俺もハルとここを出て、どっかで一緒に暮らせばいい。
その考えが気に入った俺は電気を消した。寝るために自分の部屋のドアを開ける。
・・・俺何考えてる?
ここを出て一緒に・・・暮らす?
自分のだした答えに困惑し混乱した。
なんだ俺・・・なに、これ。
急に怖くなりだしてベッドにもぐりこむ。とりあえず眠ることだけを考えるがうまくいかない。
① タンは水にさらして血抜きをしましょう。
② 皮がついている場合は皮を剥きます。
③ 玉ねぎ・人参・セロリ・にんにくをカット
④ 赤ワインと香味野菜を容器にいれ舌を丸ごとのままいれてマリネして一晩ねかします
俺は工程が沢山あるタンの赤ワイン煮込みの手順を延々繰り返すことで思考から逃れ・・・眠りについた。
翌日からの生活に不安を覚えながら・・・。
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「よし掛かる」は「寄り掛かる」では?というご指摘を読者様からいただきました。え?と驚いて調べてみたのですが、なんと「よし掛かる」は北海道弁でした!
「寄り掛かる」は使ったことがなく、「よし掛かる」標準語だとばかり思っておりました。
うわ~こんなに普通に使っているのが方言とは!!
道民のリアルな姿を表現するために、このままにしておきます。
他の作品でも絶対「よし掛かって」を使っているはず。そっちはどうしたものか・・・(笑)
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