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may.2.2016 11:38pm HAPPY BRITHDAY
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喉乾いた・・・ってか、あれ?
俺はベッドの上に転がっていた。ベッドの上に置いてあったパジャマがわりのスエットを着ているから誰かに着替えの介助をさせてしまったらしい。
嬉しすぎでハイピッチでビールをがぶ飲みした。ついでにすきっ腹だったのもある。白ワインが飲みたくなってワインをひと口含んで「あ~~旨いぜワイン。」とかなんか言って・・・食べて・・・飲んで・・・。
そのあたりから記憶がぼやけている。まあ、ようは酔いつぶれたということだ。
そんなに量を飲むまえに潰れたみたいだ、飲み過ぎた後の身体の重さがない。ヨロヨロ立ち上がって台所へ向かう。水を飲まないと脱水症状になってしまう、水~~水。
冷蔵庫をあけるとビールの缶が結構残っていた。皆そんなに飲まなかったのかな。ミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、マグカップに注いでがぶ飲みした。500mlのペットなら一気飲みだなっていう勢いで。
「ふうう~~。」
ビールが減らなかっただけだ。なんだこの空いたワインボトルの数は・・・。底なしだな飯塚と理は。
ペットボトルを戻すためにもう一度冷蔵庫を開ける。あれ?なんだこれ。
3つタッパーが入っている。常備菜は今朝全部食べきったし・・・ターキー残ったのかな?
とりだして蓋を開けると、それは3種類の常備菜。おから、ハルの大好きなピリカラこんにゃく、厚揚げと豚肉の煮もの、ちゃんとすりごまが入っている。
もとどおりにタッパーの蓋をきっちりしめて冷蔵庫にしまう。背中で押すようにして体重をかけ扉を閉めた。
そして俺はしばらくそのまま動けなかった。
「なにが、焼き番と盛り付けだ。ちゃんと仕事してんじゃんか、こんにゃろ。」
なんだってハルはああなんだ?なんでそんなイイコなんだ?
・・・なんだってこんなに刺さるんだ、俺に。
顔を手のひらでゴシゴシ擦りながら部屋に戻る。明日は仕事だ、ちゃんと寝ないと。
皆で後片付けもしたんだろうな・・・明日ちゃんと礼言わないと。
部屋に入ると奥のクローゼットに立てかけてある包みに目が留まる。さっきはドアしか見てなかったら気がつかなかった。
それは英字新聞がプリントされた包装紙に包まれていた。
どうみてもこれはプレゼントってやつだろう。
ベッドヘッドに留めているクリップライトの電気をつけた。40wのオレンジ色の光がやけに眩しく感じる。
包みを丁寧に剥がすと、でてきたのは厚めの一冊の本。表紙に貼りつけられた付箋にはメッセージが書いてあった。理が言ってたな、クランキーにつけてくれる付箋が最高なんだって。
『ミネさんに料理をプレゼントしようって皆で決めました。でも僕は他の皆さんよりミネさんにお世話になっています、すべての面で。だから僕は抜け駆けしてもいいと思うのです。HAPPY BRITHDAY』
付箋を剥がすとタイトルと表紙の写真が完全に見えた。
『アミューズと先付319―最初の一皿、134店のアイデア』
中身は綺麗な写真。国内の有名店や一流シェフが手掛けた先付の一皿が紹介されている。和・洋・中・フレンチ・イタリアン。レシピが掲載されているけれど分量は一切書いていない。料理用語だらけだし作り方もかなりざっくり。これは一般人が買っても意味不明だろうし、同じものを作るのは無理だろう。
319品・・・一流の料理人が工夫をこらした料理の数々。アミューズとはいえハイレベルの一皿。
「こんなもの選びやがって。」
暗い照明の下で見る本じゃない。ちゃんと明るい場所で、料理の世界に集中できる環境のときに見るべきものだ。だから今じゃない。
何軒本屋を巡ったのだろう、いくつのサイトを検索したのだろうか。料理人の為の料理人だからこそ価値を見いだせるこの本に、ハル・・・お前はどれだけ調べて辿りついたんだ?
俺・・・自分のやってきた料理が理由で誕生日プレゼントを貰い損ねたことの方が多かった。誰も俺にこんなプレゼント・・・くれなかった。
ハルはもう寝てるだろうな、でも俺は・・・礼を言いたい、たとえ眠っていたとしても。
ハルの部屋のドアをゆっくり押し開ける。電気はついておらず規則的な寝息が聞こえてきた。やっぱり寝ているか。
静かに近寄るとこちら側に顔をむけて横向きに寝ているハルがいた。
「ありがとう・・・ハル。」
手の甲でそっと頬にふれると温かった。そうだよな、寒いより温かいほうがいい。
眠っているハルの表情が緩んで笑顔になる。びっくりして手を離した。
寝息は変わらず続いているから目を覚ましたわけじゃない。
「ハル・・・ありがとな。」
上掛けの中からハルの指先が何かを探すように伸びてきた。だからそっと親指と小指以外の三本の指を取った。
何の夢をみているのかな。
俺の声が聞こえたのか?
ハル・・・お前はほんとイイコだな・・・。
ハルが寝返りを打って俺の手から離れていくまで、ずっとハルを見詰めつづけた。
日付が変わるまで・・・。
俺の誕生日が来る刻まで・・・。
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